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ワーク


 ノイズだらけになってしまった通話は、火恋が終了ボタンを押したことにより終了した。ひと仕事を終えた解放感から、スマホをベッドに投げ捨てる。


「……危なかった」


 電話を掛けなければ、確実に翔和は死んでいた。パソコンの画面に映る、現場を走り去っていく翔和を見ながら、火恋はため息を吐いた。

 

 いつか、その日がやって来るとはわかっていたものの、それが今日起きてしまった。


 翔和が生還出来たのは、これまでの備えあってこその成果だった。 


 しかし、目的を達成できたからと言って万々歳とはいかない。


 翔和に電話をしたことで、火恋が怪しまれるのは確実だ。可能な限り、彼が暗殺対象となっていることを伝えたくはない。彼には普通の生活をして欲しかったのだ。――『完璧であれ』なんて幻想を目指さなくても良い『普通の生活』を。

 

 深く息を吸い込んだタイミングで、メッセージが来たことを知らせる通知音が鳴った。


 右下の通知ポップアップからメッセージアプリを開く。相手の名前は「京」。


『あなたの言う通り、転校生がやって来ました。それも、かなり怪しいですわね』


 京は翔和の暗殺を阻止するために、火恋が頼った数少ない協力者だった。


 火恋は学校に行きたく――行けないので、学校にいる間は京が翔和を守ってくれるということでお願いをしている。


 こんなこと普通は承諾しないものだが、彼女にも、彼女なりに事情があるのだ。


「了解。たった今、翔和の暗殺を阻止したところ。まだ詳細は不明だけど、車に自動運転装置を仕掛けて、無関係な人ごと翔和に突っ込もうとしていたみたいね。まったく、とんでもない暗殺者を雇ったらしいわ」


『凄腕の暗殺者……となると、犯人に見当が付きますわね。多分、あなたも同じ名前を思い浮べたはずです』


「存在不確定――クラウディ…………」


『ええ。翔和を狙っているのはその人物かと』


 存在不確定は裏の世界では有名な人物で、そいつに狙われたら確実な死が待っているのだ。ただし、存在不確定(クラウディ)を雇うには相当な金額を積んでなお、依頼を断られることもある、気難しい人物であるとされている。


 それでいて、志水翔和という、ごく普通の高校生を殺す依頼を良くもまあ受けたものだ。依頼主の手腕か、暗殺者の気まぐれなのか。


『火恋、勝てると思いますの?』


「さあ? とりあえず、わたしのハッキングはすでに対策されてるんじゃないかしら」


『あなた、その手じゃ有名な人なのでしょう? 対策というのは出来るものなのかしら?』


「ある程度はね。ともあれ、今後もよろしく。何かあったら知らせてね」


『言われずとも、そのつもりです』


 火恋はメールを閉じると、デスクトップの左上にある【軻遇突智】というアプリケーションを最大化する。そして、机の端に固定してあったコンデンサーマイクを目の前に引っ張てくる。


「カグツチ、おはよう」


 マイクに向かってそう話しかけると、ヘッドホンから何重にも機械で合成された男の声が返って来た。


『やあ火恋、おはよう。何の用かね?』


 彼はわたしと栞と、アメリカでお世話になっていた教授が共同開発して作られた人工知能《AI》【軻遇突智カグツチ】、だ。


「実は、調べてもらいたいものがあるんだけど」


『ハハ、君が私を起動させる時は、厄介事を持ち込んでいる時だ。何でも引き受けるとも』


 さすがはAIだ。これまでのパターンから学習をしている。だが、優秀さの裏返しか、彼の学習能力に最近はイラっとくることが多い。厭味いやみったらしく、人間味溢れる皮肉を混ぜてくるのだ。


「翔和の通っている高校の生徒を徹底的に調べて欲しいの」


『なるほど。それは、例の暗殺計画に関係しているのか』


「その通り。怪しい人物がいたら、連絡を頂戴」


『了解した。君が出来ないことを私がやってのけて見せよう』


「……ムカつくわね。アンタと違って、アタシは忙しいの!」


 アプリケーションを最小化させると、マイクを乱雑に戻す。


 ひと仕事終えた疲れが、ようやく身体にやって来た。肩を上下回して腕を伸ばす。


 長い休憩はとれそうにない。そろそろ翔和が帰って来る時間だ。パソコンをスリープモードにして、鼻に掛けていたPC用の眼鏡を頭に乗せる。

 

 椅子から立ち上がると、ベッドに投げ込まれていたスマホをポケットに入れた。


 無事に生還した兄を出迎えに行こうじゃないか。




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