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メイドと彼女どっちが好きなの?~専属メイドとの同棲生活~  作者: 四志・零御・フォーファウンド
同棲メイド生活編③・・・危険がいっぱい水族館・・・
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始まりの家


「ここが元々私の住んでいた家」


 歌弥に連れられる形で辿り着いたのは、水族館からほど近い住宅街の一角だった。赤色の屋根にベージュ色の壁。小さな庭と車1台分のカーポートのある、ごく普通の二階建ての戸建てである。ただ、海も近い観光名所のこの地域で一軒家を建てるというのは相当な財産を持っていなければならないだろう。


「中に入りましょう」


「ああ」


 俺は地図アプリを立ち上げて、現在位置をスクリーンショットする。十文字に写真を送ろうと思って、彼女の連絡先を持っていないことに気付いた。仕方が無いので、舞桜にLINEで送っておく。ついでに、スマホを持っていない珠李にはメールで画像を添付しておく。


 歌弥は懐から鍵を取り出すと、平然とした様子で家の扉を開けた。


「どうして家の鍵を持っているんだ?」


 昔住んでいた家と言っていたので、現在は他人が住んでいるのではないだろうか。


「引っ越しはしたけど、売りに出したわけじゃないわ。まだ所有権は私のママにあるわ」


「そういうことか」


 中に入ると薄暗い玄関が出迎えた。人の住み着いている気配は一切感じ取れなかった。


「電気はつかないわ。水は出るのだけどね。あと、月イチで掃除に来ているから、汚いってことは無いと思うわ」


 歌弥の後に続いて家の奥へと進む。突き当りの扉を開けると、木製の机と椅子しか存在しない、無機質なリビングが広がっていた。テレビ、冷蔵庫などの家電に至るまでここには無かった。明らかに、ここでの生活は想定されていない。


 だが、この空間に《《異質な存在》》が1つだけ床に鎮座している。


「どうして、維持費だけが無駄にかかるこんな家を手放さずに持っているのか、貴方にはわかるかしら?」


「……わからない」


 冷たい視線を送って来る歌弥の表情を含めて、質問の意図が読めなかった。


「私のパパは、とある会社の副社長だったの――」


 歌弥は壁に背中を預け、視線を天上に向けて語り始めた。




     *



「ねえママ、パパって偉い人になったの?」


「そうよ。ちょっと忙しくなるかもしれないけど、私たちの為に頑張ってくれてるから、寂しくても我慢できる?」


「うん!」


 9年前、私のパパは冠城製薬の副社長に就任した。


 偉くなる前は、休日になれば行きたかった動物園や水族館に連れて行ってくれた。家族3人で沢山の思い出を作っていた。


「――今日も遅いの?」


『ああ、ごめんね。でも明日は土曜日だからウタの行きたい場所に、パパとママとウタの3人で行こう。だから今日はもう寝なさい』


「…………うん。わかった。おやすみなさい」


『ああ、おやすみ』


 でも、土曜日になってもパパは帰って来ることは無かった。次に帰って来たのは、次の週の日曜日だった。そして、帰って来たパパの目は光を失っていた。


「パパ? ふくしゃちょーって大変?」


「うーん、大変だね。でも、頑張るから。ウタの為に頑張るからな」


 言葉の隅が震えていた。


 次の日、家に帰ると既にパパの靴が玄関に並べてあった。


 夕方に帰って来るなんて驚いた。喜びの余り、玄関でつまずいて転んだわよ。


 そして、足の痛みを堪えながらリビングに向かったの。


「パパ、おかえり!」


 



    *




「そして、私が最後にパパを目にしたのが、そこの天井だった……らしいわ。前後の記憶が曖昧なの。買い物から帰って来たママが、泣いている私と、天井に吊るされているパパだったそれを見つけた」


 歌弥は夕焼けに照らされる、床に置かれた花瓶の中の彼岸花を、哀愁に満ちた瞳で睨んだ。


「……歌弥、君が俺に近づいた理由って――」


「…………んー、さあ? なんでしょうね」


 彼女は震えた声で答えた。涙を堪えるように、天井を見つめたままだ。


「なんでしょうって……」


「いまとなっては、私自身でもわからないわ。偶然にも冠城の名前を目の前にして、ようやく落ち着いた心の中が再びぐちゃぐちゃになって、どうにかしてやろうと思っても、貴方をどうにかしたところで、何も解決しないのは分かっていることだもの」


 まだ両親が生きていた頃に、爺さんと両親が多忙を極めていた時期があったのはハッキリ覚えている。幼かった俺は誰も構ってくれないことに不貞腐れて、舞桜と珠李に迷惑をかけていた。


 後に、慌ただしかったのは、子会社の引き起こした大事件がキッカケだったことを知った。


 その事件の記憶が再び、思いがけない人物によって呼び起こされることになったのだ。


「だからもう、付き合うとか、そういうのはいいから。明日になったら綺麗さっぱり忘れてちょうだい。私が冠城君を繋ぎ止めるだけに使った方便に過ぎないから」


「……そうか。でも、2人で過ごした時間は楽しかった。これだけは覚えていて欲しい」


「なにそれ。別れることになったカップルみたいな台詞ね」


「そんなこと言うなよ。せっかく気を遣ってやったのに」


「それで気遣ったつもりなの? そんな言葉じゃ女を口説き落とすには100年かかりそうね」


「冗談よしてくれ。…………本当に冗談だよな?」


 俺の問いに、歌弥は目に涙を浮かべて、笑顔を作った。感情をかき混ぜた見るに堪えない表情だ。


「ねぇ、前言撤回するわ。やっぱり、私たち本当に付き合わない? あんな邪魔が入らなければ、私たち本当に付き合ってたかもしれないわ」


 その言葉は、本気なのだろうか。最後のからかいか?


「……それは――――」


 俺が言葉を出そうと思った矢先、玄関の扉をドンドン! と荒っぽく叩く音がした。


「お、珠李たちが来てくれたのか」


 玄関に向かうと扉の透き窓の向こうには、人影が見える。


「ちょっと! そんな安易に――」


「大丈夫だ。珠李と舞桜にしか位置情報を送っていないからな」


 それに、珠李があんな奴らに敗北するはずがない。舞桜もいるし、今回は十文字もいた。


「珠李、舞桜、大丈夫だった――」


 扉を開けると、オレンジ色に焼ける太陽を背に、黒人の大男が俺を見下ろしていた。



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