主への義
「ウラァ!!!」
「うぐぅ!!」
珠李は正面からの中段蹴りを両腕を構えてなんとか防ぐ。
「真っ向勝負であれば、私の方が上かナ?」
ズムは首を鳴らして珠李の前に立つ。その姿を直視した珠李は改めて体格の差というものに圧巻されてしまった。
ズムは珠李よりも一回りは身長が高い。そんな大男相手に単純な力技で挑むのは悪手である。
であれば、珠李が勝負するべきは俊敏性だった。小柄な体格を生かして相手を翻弄する。
反射神経と瞬発力には自信がある。それに、薫との手合わせで新たな可能性も見出していた。
いまの珠李であればズムと再び相まみえることになっても、以前のように深手を負うことはない——そう睨んでいたが、相手もそれなりに学んだようだった。
「命のやり取りに、真っ向勝負などありませんよ」
珠李は一瞬でズムの右側面に近寄り、首元にナイフで傷をつけようとした。ズムは反応に遅れたものの、重心を左に反らすことで掠り傷程度にダメージを押さえた。
「甘いネ」
深手を負う訳にいかないのは、ズムも同じことだ。前回、舞桜の乱入というアクシデントがあったものの、女子高生に深手を負わされたことに自責の念を募らせていた。
自身の筋力を過信した隙の多い大振りな立ち回り。それがズムの攻撃をワンテンポ遅らせる原因になっていた。
珠李との再戦前に、現役を退いたとは言え、敏腕暗殺者として知られていたイーシェと手合わせをして、自身の問題点を洗い出すことが出来た。今度こそ、珠李に深手を負われるわけにはいかない。
ズムは反撃とばかりに珠李を掴もうとするが、身体を後ろに捻らせてから側転をして距離を置かれた。
両者共に、対策を講じてこの戦いに挑む。従者として主に敗北を齎す訳にはいかないのだ。




