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変化するべき日常


「ご主人様……、ご主人様……」


「んゃ」


 重い瞼をようやく開けると、知らない天井が視界に広がっていた。


「知らない天井……」


「ついに頭がおかしくなったんですかご主人様」


 知らないなんてことは嘘だ。『知らない天井』という言葉に憧れとは言い難い何かを持っていただけだ。引っ越して次の日なのだから知らない天井ではあるまい。


 しばらく何も考えずにそのままの状態でいたら、水晶玉のような綺麗な瞳が僕の視界を遮った。


「おはようございます、ご主人様」


 彼女のつけているフローラルの香水の匂いが、鼻腔をふわりと擽るじれったい距離。引っ越してもなお、変わらない日常だ。だからこそ、本当の一人暮らしを始めるには、変えなければいけない日常でもある。


「……おはよう」


 俺が完全に目覚めたことを確認すると、珠李はベッドから身を引いて黒革手帳を取り出した。


「本日は入学式です。その後にクラスごとに初回のレクリエーションが行われる予定になっております。12時30分には下校とのことです」


「既に学校の予定を把握しているのか」


「メイドですから」


「……もう屋敷にいるわけじゃないんだ。別にメイドの努めなんて果たさなくていいんだぞ」


「お言葉ですが、私がメイドを辞めた場合、ご主人様は今朝、起きることが出来ましたか?」


「そりゃ勿論。目覚まし時計もセットしてあるし――――」


 枕元に置いてある目覚まし時計を確認して唖然とした。時計の針はタイマーをセットした時間を30分も超えていた。


「ご主人様」


「なんだい」


「何か言いたいことがあるような顔をしていますね」


「お願いします、メイドを続けてくださいお願いしますお願いしますお願いします」


「……ふーん、そうですか」


 珠李は無表情で少し考えこむと、ベッドに上がり込んだ。


「ちょっと!」


 そのまま俺の胴体を跨いで立ち上がった。


「床に這いつくばって私の足にキスすれば、そのお願いを聞いてあげなくもないですけど」


 黒のストキングを穿いた右足が俺の胸にそっと置かれた。細すぎもせず、太すぎもせず、滑らかな曲線美を魅せるその脚は魅惑の色気を放っていた。淫猥な吸引力に耐えながら視線を上げると、珠李が恍惚とした表情で見下ろしていることに気づく。


――ご主人様を踏んずけて興奮しているのか? このドSメイドめ!


「何ですか、その嬉しそうな目は。これではどちらがご主人様なのか、分かりませんね?」


「ぐぬッッ!」


 どうしたものかと歯軋りしていると、勢いよく扉が開いた。


「おはよっ……す…………」


 元気よく手を挙げて入って来たのは舞桜だった。目の前に広がる光景を困惑の行状で凝視した彼女は、目をパチパチとさせてから口を閉ざした。


「…………」


「…………」


「…………」


 3人の視線が絡み合う。沈黙が流れる空気で一番最初に口を開いたのは、やはりと言うべきか舞桜だった。


「エッチしてる最中にスマン。終わったらでいいからさ、朝食を作ってくれないか? 腹がペコペコなんだよね。あ、そっちはパコp——」


「おい待て!それ以上は言わせないぞ!!!」



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