お嬢様、参戦
「お嬢様、いい加減にしてください」
「イヤ! 私はガッくんと同じ高校に編入するの!」
露峰ノアは、駄々をこねる子供のように手をブンブンと振り回した。赤髪のボブヘアがふわふわと揺れる。
小学生みたいな言動をしているが、彼女は高校1年生。こんな光景を他人が目撃してしまったらと考えると、執事である瀬葉須直輝は胃が締め付けられた。これでも国内外問わず、名の知れた大企業の令嬢である。
「さすがに無理があります。せっかく入学した高校をひと月も経たず去るつもりですか」
「いいのよそれで!」
「良くありません!」
正直に言ってしまえば、彼女が編入しようと知ったことではないのだが彼女のワガママを瀬葉須が通してしまうと、次に止める存在がいないのだ。
ノアの父は娘に甘い。祖父はもっと甘い。ノアは3人兄弟のうちの末っ子で、しかも上の2人が男だったものだから彼女への甘やかしが尋常ではないのだ。
「いいですか、お嬢様は目立つんです。派手な行動は自粛してください」
「どうしてよ!」
「芸能界に進出しているからですよ!」
悪目立ちは、中学生で始めた読者モデルの仕事が始まりだった。
ファッションモデル界に颯爽と現れた、仮面をつけた謎多き赤髪少女露峰ノア改め『NoA』は独自のファッションセンスと圧巻のスタイルによって日本のティーンエイジャーへ革命をもたらした。
最近ではテレビ番組にも呼ばれるようになり、幅広い年代へその名が浸透し始めている。
「高校生になれば自由が増します。その分、NoAの正体を追うマスコミたちの自由も増えるということです」
「アタシは構わないわよ! 悪い事なんてしてないもん!」
「……いいですか、お嬢様は『NoA』として活動する為に露峰の名を隠しているんです。それが世間にバレてしまった際のリスクを考えたことがあるんですか!?」
「何よ、そんなの関係ないじゃない」
「大アリです! お嬢様の感覚には無いのでしょうが、世間からはあの露峰の娘だと思われるんです。お嬢様の正体がバレた時点で株価の変動もあり得るんです。痛い目を見るのはお嬢様の御父上なんですよ」
「ンンーーッ!!! それとガッくんと同じ高校に通うのと、どう関係があるのよ!」
「あのですね、こんなこと言いたくありませんでしたが、赤髪で名前がノアなんて日本に滅多にいません。それなのにバレていないのはお嬢様の通う学校に口利きを働いているからなんですよ」
「何それ初耳よ」
「当たり前です。口利きが出来るのはそういう訳アリの生徒が数多くいる学校だからなんです。ですが、普通の学校に行けばそんな口利きが上手く働くはずもありません」
「もうなんなのよ! そんなこと言うなら今すぐ芸能活動辞める!」
「そう簡単に辞められません、いくつの企業CMと契約をしていると思っているんですか。ああいうのはちょっとでも問題を起こすと血反吐が出そうな違約金を請求されるんです」
「そんなのはアタシの稼いだお金で払えばいいのよ!」
「お嬢様だけの問題ではなく所属事務所などにも……」
「――――んもぉ~~いいわ! 瀬葉須じゃ話にならないわね。パパに言ってくるから!」
ノアは頬を膨らまて部屋から出て行ってしまった。
「まったく、お嬢様という人は…………」
瀬葉須は肩を落としてため息を吐く。最後の砦はあっけなく陥落してしまった。




