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救助

「さて、そろそろかな」


 紡先輩がその言葉を口にすると、何やら外が騒がしくなった。


「助けが来たんですかね!?」


「そうみたいだ」


 俺は急いで扉に近づき、大声で外にいる人物に声をかけてみる。


「おーーーい!!! 聞こえますか!!!」


 返事はない。


「おーーーっいいいいぃぃ!!!」

 

 もう一度叫ぶと、何かしら声が聞こえた。どうやら気づいてもらえたようだ。


 扉に耳を当てると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「そこにいるのですか!? ご主人様! この中にいるのですか!?」


 珠李だ。どうやってかは知らないが、俺の異変を察知して戻って来てくれたのだろうか。


「ああ! そうなんだ! 閉じ込められた!」


「状況は理解しました。すぐに開けてもらうので、もうしばしお待ちください!」


 先生を呼びに行ったのか、その場を離れる足音がした。


「ご主人様ってどういうこと?」


「……俺のメイドです」


 この先輩に後々勘ぐられるのも面倒そうなので、正直に話すことにした。


「あぁ、そういうことか。さすが御曹司」


 それから5分が経過しただろうか。扉から2人分の足音がして、ガチャリと鍵が解錠された音がした。それはまるで刑務所から脱出するような爽快感だった。……もちろん、牢屋に入っていた経験なんてないが、最近「ショーシャンクの空に」を読んだせいか。


「ご無事ですか!」


 扉が開いた瞬間、珠李が猪を彷彿とさせる勢いで飛び込んできた。受け止めきれず、床に倒れ込む。

 

「ああ、問題ない。お、お、重いから離れてくれ……」


「し、失礼しました。怪我はございませんよね?」


 珠李は血相を変えて俺の身体をあちこち確認し始めた。


「うぉ、ご主人様か~。さいこぉ~。ねぇキミ、ボクのこともご主人様って呼んで欲しいんだけど」


「それは無理です。私のご主人様はガク様でしかあり得ません」

 

 毅然とした態度で言い切った珠李が一瞬だけ、俺に視線を向けた。


『ドの超えた信頼を―—』


 紡との会話を思い出し、背筋がすーっと冷えた。会話を聞かれていた? まさかありない。偶然だろう。

 

「うーーん。それは残念。それじゃあ後でキミの写真を撮らせてよ。目の保養として部屋に飾っておきたい」


 紡は呑気にスマホを構える。


「それは……ご主人様の許可が下りれば考えないこともないです」


「やった~! それじゃあご主人様、このメイドちゃんの写真撮ってもいいかい?」


「許可しませんよ。ダメです。それに先輩からご主人様と呼ばれる筋合いはありません」


「ケチだなぁ」


 この人の手に渡ると悪用されるような気がしてならないのだ。


「2人共、大丈夫だったの?」


 会話に入る機会を窺っていた紅先生が心配そうに俺と紡先輩を交互に見る。


「ええ、お陰様で」


「最悪、夜の見回りで見つけられる可能性はあったけど、早いに越したことは無いわ。無事でなによりよ」


「そうだね。無事脱出出来たのは喜ばしいが、例の件、頼んだよ」


「例の件ってなんですか?」


「部活の話だって」


「ああー」

 

 すっかり忘れていた。


「……わかりました。前向きに検討しておきます」


「わーい、さすがはご主人様だ!」


 素直に喜ぶ先輩を尻目に、教室を出た。


「ご主人様、あの方かなり変わった先輩ですね」


「ほんとだよ。それにしても、よく俺たちの居場所が分かったな」


「ご主人様の腕時計です」


「腕時計が何かあるのか」


「ご主人様の腕時計はスマートウォッチと呼ばれているのはご理解されているとは思います」


 俺の腕時計は天気の表示や心拍数、歩数計など多岐な機能が搭載されている。


「今までご主人様には伝えていませんでしたが、その時計にはGPS機能が付いていて、私のスマートホンからご主人様の位置が確認できるようになっていたのです」


「おい、それって――」


「はい。ご主人様は24時間いつどこにいるのか把握――言い方を変えれば監視されていることになります」


「監視社会は怖いな」


「それと、そのスマートウォッチの充電が無かったら、学様を見つけるのにもっと時間がかかりましたからね?」


「監視社会は素晴らしいな」


「ところで…………」


 珠李は突然目の色を変えて、紡先輩に向き直った。


「ご主人様を閉じ込めたのはあなたですか? 場合によっては出るところまで出ることになりますが」


「ボクじゃないよ~」 


 紡先輩は呑気な声で否定する。


「そうでした。犯人は誰なんですか? 3人まで絞れてたんですよね」


「ご主人様を閉じ込めた犯人がわかるのですか? 是非教えてください。拷問にかけて打ち首にします」


「はは、物騒だねキミのメイドちゃんは。紅ちゃんとメイドちゃんが助けに来てくれたお陰で、誰が犯人なのかは分かった」


「……誰なんですか、それは?」


「それはねぇ~」


 紡先輩の答えに固唾をのんで沈黙する。


「………………ふっふー、教えなーい」


「ここまで引っ張っておいてそれですか!?」


「二度とこんな真似はさせないよう、きつーく叱っておくから今日のところは勘弁してくれないかな」


「紡先輩が言うのであればそれでいいですけど」


「ああ、ありがとう。ちゅーでもしてあげようか」


「結構です。では、今日のところは失礼しますね」


「それは残念だ。また会おう」


 俺は理科室の扉に手をかけたところで、思うことがあり、立ち止まった。


「紡先輩」


「なんだね?」


「先輩の部活、入ろうと思います」


「へぇ、そう。――こんなことボクが言うのもおかしいけどさ」


 紡先輩は、黒板の前に置いてあった指示棒を俺に向けた。


「今日の一件で部活に入りたい要素ってあった?」


「……先輩ってバカですね」


「んなっ! ボクに向かってその言葉を使うとは如何なものかね!」


 こうして俺は化学部に入部届を提出した。ついでに珠李も手芸部と兼任という形で入部し、賑やかな放課後という青春を過ごすことになったのだった。



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