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脱出せよ

 そして、いまに至る。


「ボクは扉をばくh……破壊するのが一番たのし……現実的だと思うんだけど」


「えぇ……」


 この人、爆発させるのが楽しいと言いかけたぞ。


「扉を破壊する道具はこの部屋に揃っているんだ」


「もっと穏便な方法はありませんかね」


「勿論考えるさ。扉を破壊するのは最終手段にしておくさ」


 間違っても最終手段にさせない為に、俺が安全な脱出方法を考える必要がありそうだ。


「こんな時に珠李がいてくれたら……」


「ン、彼女かい?」


「そんなんじゃないですよ。俺のメ——友達です」


「友達いたんだね」


「いますよ」


「友達いなそうな顔していたからさ」


「そんなぁ」


 この人最低だ!人を見かけで判断している。仮に思ったとしても心の内に留める努力をして欲しい。


「それで、どうして友達が助けに来てくれるんだい?」


「それは……」


 彼女に言われて気づいた。どうして助けに来てくれると思ったのだろうか。珠李は先に帰ってしまった。俺の異変に気付くのは最短でも自宅に戻ってからだろう。それでも何故か、今すぐ彼女が助けに来てくれる気がするのだ。


「ふふっ、その気持ちが分からないでもないさ。論理的な確証があるわけでもない。だけど、あの人ならばやってくれる。あの人だったら可能だ。あの人だからしてくれる。無意味に期待してしまう人は誰にでもいるものさ」


 紡はフラスコ越しに俺を覗き込んだ。 


「それを人は『信頼』と呼ぶ」

 

 信頼。心の中で復唱する。


「そして、ドの過ぎた『信頼』を『恋』と呼ぶ」


「ぶはっ!!!」


 紡との関係を向上させるような良い雰囲気だったのが台無しだ。


「はははっ!その反応、まさか助けを求めていたのがキミの思い人だったとはね!」


 罠にはまったらしい。いい人だな、なんてちょっと思っていた自分が恥ずかしいじゃないか。


「そ、そんなんじゃありません!」


「顔の紅潮、身振りによる慌て様、声のトーンも高くなった。図星じゃないか」


「違います!」


 珠李はそんな相手じゃない。……たぶん。


 でも信頼はしているし、信用もしてる。…………ただ、決して、恋なんかじゃないんだ。その言葉で形容してはいけない関係だと思っている。


「はいはい、わかった。そんな顔はしないでおくれ。からかうのはもう止めてあげる。さて、真面目な話、現状だと、扉を破壊するのは良い手段だとは思うんだけど?」


「それには賛成です。でも、本当に最終手段ってことにしませんか。大きな騒ぎにはしたくないので」


「それもそうか。冠城の長男が女と一緒に密室から出てきたってことが広まったら世間的に不味いもんね」


 それもそうだけど、そうじゃない。変人は気にするところも違うようだ。


「この部屋の扉は一つだけですか」


「そうだね。窓はあるけど、ご覧の通りさ」


 紡が指差す方向を見ると、小さな窓が壁の上側についていた。ただし位置が2メートルほどの高い場所で、子供でも通れるか怪しい窓だ。


「この部屋には危険な薬品がたくさんあるからね。防犯目的を兼ねて外から入りにくい作りになっているんだ」


「あの窓の外はどこと繋がっているんですか?」


「中庭かな」


「それじゃあ、閉じ込められているって書いたメモを窓から投げるのはどうですか?」


「良い案だとは思うけど、中庭の人通りは少ないんだよね。あまり期待せずにやってみようじゃないか」


 紡先輩の持っていたメモ用紙を一枚貰って、閉じ込められている旨を書く。後は窓を開けてメモを投げるだけだ。


「……ところで、椅子がどこにあるのか知らないかな?」


「椅子…………あっ」


 椅子と言えば、扉が勝手に閉まらないように置いていた。


「この部屋の椅子って、ひとつしかないですか?」


「うん」


「恐らく部屋の外にあります……」


「やってくれたねぇ」


「すみません。扉が閉まらないようストッパー代わりに置いていたんですけど、いつの間にか消えていまして」


「…………おいおいおい、それを早くいってくれ。話が変わるじゃないか」


「そうですよね。椅子以外を使って窓に届きそうな――」


「そこじゃないよ」


 紡は今まで見せたことのない真剣な面持ちをしていた。狭い空間にひりついた緊張が走る。


「え?」


「ストッパー代わりの椅子が消えて部屋の鍵が閉まる、なんていう自然現象があってたまるか」


「扉の重みで椅子が動いただけじゃないですか?」


 ただの自然現象で閉じ込められたと俺は考えていた。だが、紡先輩の思っていることは異なるらしい。


「扉と床の隙間には若干の段差があるんだ。だから仮に椅子が重みに負けて移動したとしても、その段差で止まるか、倒れるかして完全に閉まることはない。つまり、椅子は何者かによって意図的に移動させられたと考えられる」


「この部屋に俺たちを閉じ込めようと考えた人物がいるってことですか」


「その通り。そして、犯人はキミだね」


「なるほど。…………って、そんなわけないじゃないですか!」


「そうかな? 人を呼んでもなかなか助けが来ないであろう薄暗い部屋で、か弱い女子生徒を襲う目的であれば、閉じ込めるぐらいすると思うよ。コトが済んだら外にいる仲間にでも連絡すれば簡単に開けられる」


「し、信じてください! 俺はそんな目的の為にこの部屋に入ったんじゃないんです!」


「…………冗談だよ。冗談。そう必死にされると余計に怪しく見えるのは滑稽だけどね」


 ケラケラと楽しそうに笑う。絶対に俺をからかって遊んでいる。こんな状況だというのに、呑気なもんだ。


「安心してよ。犯人は3人にまで絞れている」


「3人? 誰なんですか?」


「それは――――。いや、後でにしよう。まずはここから脱出するのが先決だろう?」


「それもそうですけど」


 その3人がとても気になる。どうして探偵みたいなことをする人は犯人の名をもったいぶるのだ。さっさと教えて欲しい。


「それじゃあ、ボクをおんぶしてくれないかな。あの窓ではキミの身長でも届きそうにないだろう」


「俺はいいですけど、先輩はいいんですか?」


「ああ、ボクの豊満なおっぱいがキミの背中に当たろうとも、柔らかな太腿をキミの肩に乗せようとボクにとっては些細なことさ」


「言い方……」


「あ、ごめんよ。変に意識させて興奮しちゃったか」


 絶対にわざと言ったな。そう言われると余計に意識してしまう。


「してないですから、さっさと背中に乗ってください!」


「それじゃあ遠慮なく失礼するよ」


 俺がその場でしゃがむと、先輩は獲物に襲い掛かるように背中へ飛び込んで来た。勢いよく来たものだから体勢が揺らいで倒れそうになる。本当に遠慮と言うものがない。


「ちょっと先輩、飛び付かないでくださいよ。危ないじゃないですか」


「すまない、童心が舞い戻って来たものでね」


 戻るも何も、そのままの状態が子供のような人だ。


「おお、高い、高い」


「暴れないでくださいね」


「わかっているとも。よーし、そのまま立ち上がって目標へ向かって進むんだ!」


「はいはい」


 まるで子供のおもりだな。


 そんな感想を抱きつつ、窓の近くまでやって来た。


「届きそうですか?」


「思ったよりも距離が足りない。これはダメだね。諦めよう」


 俺の肩の上で紡先輩が手を伸ばそうとしているが、空を切るだけで届きそうになかった。


「最終手段にしますか?」


「いいや、その必要はないと思うよ」


 紡先輩は左手首を軽く叩いた。


「それはどういうことです?」


 意図の見えない動作に首を傾げる。どういうことなのか全くわからない。


「すぐにわかるさ。ひとまず降ろしてくれ」


 言われるがまま、体勢を崩さないよう慎重にその場でしゃがむ。紡先輩は乗った時とは反対に、ゆっくりと降りてくれた。



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