開戦
真美さんを連れてリビングに戻ると、ツイスターゲームに必要な道具が揃えられていた。
「ご主人様、準備が出来ました」
珠李がルールブック片手に言った。
そもそも家のどこにツイスターゲームが置いてあったんだ。舞桜の部屋に隠されていたのだろうか。
「珠李は乗り気だな。アタシも増々気合が入って来たぜ」
舞桜が意気揚々と肩を回す。
メイドが共々、興に乗ってしまったら止められるものではない。珠李は最初、乗り気ではなかったのにどういうわけなのか。
「ったく、じゃあやりますか!」
俺は、投げやりに参加を決意した。
*
「ツイスターゲームって聞いたことはあるけど、ルールがわからないわ」
そう言った真美に、珠李がルールブックを渡した。
「詳しくはこれに書いてありますが、簡単に口頭で説明します」
「今回は3人が競い、1人は進行役で進めます。まず、3人の順番を決めます。その後、進行役がルーレットを回して何色が出たのか伝えてください。あとは競技者が指定された色に対して身体の一部を使って触れます。」
「へぇー」
「では、順番から決めましょう」
じゃんけんをして舞桜、俺、珠李の順番になった。そして、全員が向かいあう形でシートの上に立つ。
舞桜が両足を赤に。俺は左足を黄、右足を青。珠李は左足を青、右足を黄に置いた。
「じゃあアタシからだな。マミコ、ルーレットを回してくれ」
真実は頷くとつまみを捻った。さーっと爽快な音を立てて盤が回る。やがて止まったのは右足のマークと赤色だった。
「簡単じゃねえか。ラッキー」
舞桜は右足を右の赤いマスに動かす。少し大股になったがこれでバランスを崩すことはまず無いだろう。
続けて俺が右手と赤色。珠李は左足と黄色。2人共、難無くクリアした。
「まぁ、序盤だしこんなもんだよな」
「ご主人様、体勢が辛いのでしたらリタイアしても構いませんよ」
「こんなんで辛くならないから安心しろ」
「はーい、それじゃあ次回すわよ」
こうして5順回った結果——。
「なぁ、なんか思ってたのと違う」
「ガク様も思ったか。アタシもだ。珠李は?」
「これはこれでいいと思いますが、過激なものをお求めですか?」
ツイスターゲームと聞いて、男女の身体が触れ合って少しスケベな妄想が膨らんだことは否定しない。
だが、現実はそう甘くない。
あまりにも真剣に行ったせいで保守的な移動になってしまい。身体が絡み合うどころか、触れ合うこともなくゲームが進行していたのだ。
「うーん、このままだと終わりそうにないから、ルール追加する?」
途中から飽きていた真実がスマホを弄りながらいう。
「どんなの?」
「ネットで調べたらエアーなるものがあるよ。エアーが出た場合、指定された身体の一部を空中にする。もう一度同じ身体の部位が来るまで空中のまま」
「ヨシ、それでいこう」
舞桜が即答した。俺と珠李も頷いて同意する。それを見て真実はルーレットの色の二枠をエアーに入れ替えた。
「回すわよ」
くるくる回って、止まったのは早速エアーだった。身体の部位は右手。
「これなら余裕だな」
舞桜はそう言って右腕を上に上げた。
続いて俺の番だ。ルーレットが回り止まったのは舞桜と同じくエアー。部位は左手だ。
「俺も余裕だ」
舞桜と同じ感想を持った。だが、それは大きな間違いだったことに気づく。
数周の間、ずっと手を空中に上げているのはかなりシンドイのだ。下げたいのはやまやまだが、いま空中にある部位とルーレットで止まった部位が一致しなければいけないので意外と確率は低め。
さらに厄介なのは、舞桜の戦略だった。
「これ、守りに入ってたら永遠に終わらなくね?」
エアーの導入時点で何となくわかっていたが、このゲーム、純粋な勝ち負けを求めるのであれば攻めに行かなければならない。守りに入っていると、プレイヤー同士が干渉せずにゲームが進行する為、勝負が着かず時間がかかり面白さに欠ける。ルーレット担当の真実が飽きるのは当然のことだった。
そんなことに(気づかなくていいのに)いち早く気づいた舞桜は、俺に対して攻撃を開始した。
「うぇーい、緑の左足か! ……そんじゃあガク様の間に入れたらぁ!」
こうして、大股になった俺の真下に舞桜の左足が入り込んで来た。
相手がその気ならば「こちらも!」と言いたいところだったが俺の状況は芳しくない。
1つ飛ばしの赤色で両足を保ち、青に左手。右手はエアー。舞桜の左足のせいで次にエアーが来た場合にバランスを崩す可能性が高い。
「おっ、それじゃあ回しますよー」
舞桜の一手により、白熱した争いになりつつあるのが分かったのか真実はようやくスマホから目を離していた。