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はじめての恋


 同じクラスの謎多き美少女、安良岡歌弥から交際の申し出があってから数日。未だに、どう答えるのが正解なのか決めかねていた。


「体育の授業の時、私のこと見てたでしょ」


「ああ、珠李と安良岡さんが凄い攻防を繰り広げてたな」


「……私だけ見てたわけじゃないのね。そんなに私って魅力が無いのかしら?」


「そんなことは無いと思いますけど。それは独占欲が強すぎではないですかね」


 事実、クラスの男子は今年の1年でトップクラスで可愛い女子とか言って盛り上がっていた。その際、珠李のことも話題になっていて彼女も指折りの逸材らしい。俺は、すでに珠李がメイドということで男子からの反感を買っているのに、安良岡さんという燃料も投下されるとなると、命を狙われるのではなかろうか。


「美少女からの告白を数日間も宙ぶらりんにする男なんて、そう見かけることはないもの。来月まで待つって言ったのは私だけれど、その間に私が他の男に言い寄られる可能性だってあるのよ?」


「逆に、俺が他の女から言い寄られる可能性は考えないのか」


「それはないでしょ」


「その通りだけども……」


 図書室の隅。人が滅多に訪れない専門書の棚の近くで、小さな机を挟んで俺と安良岡さんが向かいあっていた。珠李には図書室の外で待っているように言ってある。ただ、俺が安良岡さんとサシで話すことをかなり警戒しているので、長い時間は難しいだろう。2人には仲良くやってほしいものだ。


「それで、こんなところに呼び出してどうしたんだ?」


「そうだったわね。本題に入りましょう」


 安良岡さんは、わざとらしく脚を組みなおして頬杖をついた。


「私は冠城くんのことをよく知っているけど、冠城くんは私のことよく知らないでしょ。だから、知って欲しいのよ」


「どこかで会ったことあるか?」


「直接会ったのは入学式の時が初めてよ。それまで、私は冠城くんの名前しか知らなかったもの」


 冠城グループというビッグネームで知っていたと言いたいのか。そりゃあ、一方的に俺のことが知られるのは当たり前か。それでも爺さんならともかく、俺のことを知っていたという言い回しや、直接という言葉に違和感がある。


「とにかく、私はキミのことが好き。だから私のことをよく知ってもらいたい。食べ物は何が好きか、どんな音楽が好きか、湯舟に浸かるときはどっちの脚から先に入れるか」


「最後のは知らなくてもいいかな」


「手っ取り早く知る方法をひとつ思い付いたの」


「と、言いますと」


「私の家に来なさい」


「なんで!?」


「わ、私の身体の隅々まで知って貰えるじゃない?」


 恥ずかしそうに、頬を赤く染めた。


 大人への階段を大股で乗り越えるの!?


「何か急いでないか? こういう関係を築き上げるのって、急ぐ必要ないだろ」


「私には時間がないの。具体的には、そう、夏休みが始まる前にはキミとの恋を決着させなくてはいけないから」


 腕時計に目をやると、少し喋り過ぎたかしらと言って立ち上がる。


「どこ行くんだ」


「帰るのよ。1時間でも遅くなるとママがとても心配するのよ。……ママがね」


 図書室の扉を開けると、様子を見に来たらしい珠李と正面から出くわした。お互い視線を一瞬だけ合わせると、安良岡さんは可愛らしくぷいっと顔を背けてから不機嫌そうに去ってしまった。珠李はその態度に腹が立ったようで頬を目一杯膨らませていた。




――同棲メイド生活編① 終――


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