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「──かはっ!──はっ……ここは、何処だ?」
漸く幸太は目を覚ましたのか咳き込みながらその場から起き上がると身体の痛みを感じながらも周りを見渡した。
何十分、何時間、気を失っていただろうか。周りは真っ暗で何も見えない。ただ幸太にはここが「ダンジョン」内という事が確信はないが何故だかそう思った。
この肌で感じられる湿った感じの洞窟内の空気、地上では見られることのない不可思議な地盤は恐らく「ダンジョン」特有のものだろうと。
「──チッ!聞いたことあるぞ。未開拓な「隠しダンジョン」はまだ世界各地にあるって話だけど、俺が住んでる近くにあるとはな。だが、かなり不味い状況だなぁ。何も情報は知らないし、こちとら魔物と戦う武器すら持ってねぇぞ?」
「隠しダンジョン」というのはまだ誰も探していない「ダンジョン」の事をそう言う。
ただ、「隠しダンジョン」は「マッピング」すらされていないから安全ルートや難易度などがわからない事から熟練の「冒険者」が幾つものパーティも作って、最善の準備をしてから赴くぐらい難しい「ダンジョン」なのだ。
なのに幸太はなんの準備も出来ていない状態、尚且つ安全ルートすら知らない。それも今まで生きて来た中で一度たりとも魔物とすら戦った事が無いという状況で、完全に詰んでいた。
今の幸太の状況は猛獣が蔓延るジャングルに裸で放り出されると同じぐらいの状況だった。その事を考えると、幸太は何がおかしいのかその場で──笑い出した。
「──ははっ……何だよ。そんなに俺に死んで欲しいってか?人もそうだが、世界までもが俺に死ねと?──いいぜ、どうせ死ぬなら惨めったらしくてもいいから足掻いて足掻いて足掻きまくってやるよ!?」
幸太は叫ぶと何も考えずただガムシャラに前を突き進んだ。今はまだ魔物と会っていないがいつ遭遇してもおかしくない状況だと言うのに。
「はっ、はは!!一応今まで体を鍛えたからか動けるな!──動ける。だけどこんなの付け焼き刃にも何ねぇだろうなぁ……俺は「レベル」すらねぇし」
人々が「スキル」を手に入れると共に「ステータス」も手に入れていた、その項目にはゲームでのお馴染みの「レベル」というものもあった。
これは魔物を倒した時に出る経験値が体の中に入り、自分の「格《価値》」を上げる事により「レベル」が上がるという事になっている。勿論「レベル」が上がるにつれてその人物は当初の何倍もの強さを身につける事が出来る。
「──ケッ!何が「レベル」だ。ゲームじゃあるまいし……」
「レベル」すら幸太には無いので、皮肉げに呟いていた。
かなり洞窟を進んだ所で奥の方が騒がしい事に気づいたのでその先に近付き様子を見に行ってみたら──魔物同士が戦っていた。
体調3メートルは背丈がある熊と2メートル程のオオカミ5頭が目まぐるしく動き戦って死闘をしていた。
(──これが魔物かよ!?俺が想像していた物よりかなり凶悪そうだぞ?あいつらに勝てるのか?それに、こんな奴らと毎日「冒険者」は自分の命を掛けて戦ってるのかよ……)
そう、声を出さない様に心の中で呟いた。呟いたが驚き、戦慄を覚え「この状況は逃げなくちゃヤバイんじゃ無いか?」と考えた。だが一体何処に逃げるというのか、この洞窟内はもう安全地帯など無いと、見当たらないというのに。
幸太は魔物がこんなに強いものなのかと思っているが、ここにいる魔物が異常なのだ。
だってこの「ダンジョン」は今の地上にいるベテランの「冒険者」が束になってやっと一体を倒せるレベルの魔物しか存在しないのだから。
幸太がどうするか考えていると、ドスンっと大きな物音がしたのでそちらを見てみるとさっきまで立っていた熊型の魔物が地面に血を出しながら横たわっていた。
『『アォォォォーーン!!』』
勝った側のオオカミ型の魔物は勝鬨の遠吠えを上げていた。
勝ちを嬉しそうにしながらも熊の肉を無残に食べているオオカミをの姿を見て幸太は気分を悪くしていた。
(──弱肉強食なんて言葉はあるけど、これはグロ過ぎる……早く、ここを離れた方がいいな)
そう思い後ろを振り向いた瞬間、幸太は近くにあった石を運悪く蹴ってしまった。
「まずい!」と思った時にはもう手遅れだった。
「カラン、コロロ」と洞窟内に石の音はよく響いたのだから。