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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もう一度、デジャヴュ

 

 夕闇の下、見慣れた空き地で豪田の肉体が宙を舞う。


 およそ100キロの鍛え抜かれた肉体がテニスの軟式ボールのように跳ね飛ばされた。

 豪田はそのまま壁に叩きつけられ短い悲鳴をあげる。


 「骨川、どうして?」


 ぐふっ!


 豪田の口から血がこぼれて地面にばら撒かれた。


 肉体と精神が悲鳴をあげていた。

 豪田にとって骨川は切っても切り離せぬ間柄であり、心の友でもあったのだ。


 友情とはかくも脆き物なのか。


 豪田の目の前に能面(猿、翁のどちらか)のような表情をした骨川が現れる。


 骨川は間髪入れずに豪田の鳩尾につま先を叩き込んだ。


 「豪田。豪田、ああ豪田。豪田よ、なぜお前は自分がこんな目に合っているのかを考えているのか」


 「骨川、心の友よ。俺に落ち度があるならば素直に詫びよう。だがわからぬ。なぜ刎頸の交わりである俺たちがこうなってしまったんだ」


 豪田は腹を抑えながら立ち上がった。


 骨川は力なく笑ったかと思うと豪田を殴る。

 豪田は尻もちをついて倒れてしまった。


 「わからぬだと?今さらその理由を言えとうのか?この愚か者が」


 骨川は泣いていた。


 陽光を浴びて虹の輝きを放つ涙の宝石が地面にこぼれる。

 その時、豪田は気がつく。

 己の犯した許されざる罪の全てを…。


 「まさか…。まさか、骨川よ。お前が怒りを感じているのはお前に断りもなく俺の新曲を”ようつべ”に”うぷ”した事か⁉」


 豪田は数日前、新曲「我は巨人、世紀末覇者」を骨川に無断で配信した。


 骨川のアカウントで。


 結果骨川は”ようつべ”の運営から警察に直接通報されたが、今怒っている理由は別にあった。


 「違う。それはもう金で解決したから。これからは裸で配信する時は相談してくれ」


 「そうか。次からは肌色のブリーフくらい身に着けるとしよう」


 豪田は眩暈を覚えて項垂れる。


 PVが伸びたのは実力ではない。

 彼が裸で登場した事を通報する為に伸びてしまったのだ。


 (一体、いつになったら俺はMステに出演出来るんだ?タモさんもきっと俺と話したいはず…)


 豪田は悔恨の涙を流し、首を横に振る。


 骨川は相変わらず無表情のまま豪田の襟首を掴む。


 「いいか、豪田よ。俺が怒っているのはな…」


 その時、絹を引き裂くような静止の声と共に二人の人物が現れる。


 一人は豪田と骨川のクラスメート、野火。

 もう一人は、22世紀からタイムマシンを使ってやってきたと豪語するネコ型ロボット、銅鑼だった。


 「待ってくれ!豪田、骨川。喧嘩なんて不毛な行為は止めてくれ!」


 野火ははらはらと涙を流す。

 そして丸い眼鏡を外して真夏の星空のような瞳を見せた。


 「やめるんだ、二人とも。友達同士のキミたちが喧嘩なんて悲しすぎるじゃないか」


 銅鑼は野火の肩に手を置いた。


 「下がってろ、野火。もうすぐこの地に血のレインが降る…」


 銅鑼は腹の大きなポケットをまさぐる。


 ごそごそ。


 ポケットの中から戦斧を二本出してから放り投げた。


 ザンッ‼


 空き地のど真ん中に戦斧が突き刺さる。

 唾をゴクリと飲みながら豪田と骨川は銅鑼の言葉を待った。


 「骨川、豪田。言いたい事は色々とあるだろうが、もうこの方法しかない。生き残るのはただ一人、決着をつけろ」


 銅鑼はポケットからどら焼き(粒あん)を取り出して食べる。

 まず豪田が戦斧を地面から引き抜いた。


 「これしかないのか?俺たちにはやはり殺し合うしかないのか、骨川?」


 豪田は背丈ほどもある長さの戦斧をぶん回す。


 骨川も進み出て戦斧の柄を握った。

 骨川は華奢な外見に反して戦斧を新体操のバトンのように振り回す。

 その華麗な姿に野火と銅鑼と豪田は心を奪われた。


 「豪田、いつも俺はお前の後ろに隠れていた。それは俺たちのどちらが強いのかをハッキリさせる事が恐かったからだ」


 骨川はそう言いながら泣き咽ぶ。

 

 どちらが強いかハッキリしてしまえばもう友達ではいられない。


 骨川の方が強ければ豪田は骨川を「さん付け」で呼ぶだろう。

 豪田の方が確実に強ければ、豪田は骨川に「サラダ以外の物を食べろ」と余計なアドバイスをするかもしれない。

 そうなればもう二人は心の底から笑い合うことは出来ない。


 あんなに一緒だったのに。あんなに一緒だったのに。

 もう二人で教室掃除の時に野火にクロスボンバーを極める事などできはしない。


 「わかっている、骨川。俺たちはいつも答えを誤魔化していた。どちらが強いのか、どちらが本当のクラスの歌唱王なのか。もっと早くに決めるべきだったんだ…」


 豪田は戦斧の先を骨川に向ける。


 骨川はニヒルな笑顔を見せながら(歌唱王はお前でいいよ)と思っていた。


 「なれ合いはその辺にしておけ」


 二人の間に銅鑼が入ってきた。

 骨川と豪田は無言で頷くと最初で最後の殺し合いを始める。


 もう戻れない。

 これが漢の生きる道。


 「ところでのび太くん。どうしてジャイアンとスネ夫は喧嘩をはじめたんだい?」


 もぐもぐ。


 「うーん。ジャイアンがね、昨日スネ夫に借りた社会の教科書を家に忘れたみたいなんだ」


 「へえー」


 ズバッ‼


 骨川の戦斧が豪田の首を飛ばす。


 ザンッ‼


 同時に豪田の戦斧が骨川の左肩から腰にかけて切り裂いた。

 

 「骨川。強くなったな…」


 豪田の首は満足そうに笑いながら地面に落ちる。


 「豪田。俺の方こそ君を見くびっていた。やはり君は最強だよ、ジャイアン」


 空き地の土の上に骨川の臓物が流れ出る。

 かくして二人の男は最後の最後まで分かり合いながら命を全うした。


 「うふふ。セーブポイントー!」


 ドラえもんが秘密道具を出した。


 「このセーブポイントを使えば以前にセーブしたところから始められるってわけさ」


 「わーい!じゃあもう一回、この二人を戦わせてみようよ!」


 神をも畏れぬ野火の言葉に銅鑼は微笑む。


 こうして二人は野火と銅鑼が飽きるまで殺し合いを続けた。


 ジャーン!

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