表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きなら俺から逃げるなよ

作者: 冴木凜子

 純也と初めて寝た夜、これだ! と思った。


 互いを貪っているとき、なんともいえない開放感を味わっていた。

 ずっと、脳の深い部分が感じていた。

 しっかりとした肌感。

 足と足が擦れて、ざらつく脛毛。

 皮膚の下で主張する筋肉、野趣あふれる息遣い、躍動的な匂い。

 快感が全身を突き抜けて、まさしく昇天した。


 あの夜から4年が過ぎて、俺達は倦怠期の只中にいた。

 純也がしょっちゅう突っかかってくる。

「俺のこと好き?」

「一緒にいるんだから、わかるだろう?」

「どこが好き?」

「一緒にいたいと思うから」

「別れたら、どうする?」

「しょうがないだろう?」

 純也は似たようなことを聞いてきて、俺の答えに、更に機嫌を悪くさせる。

 好きだと言葉にしたら嘘くさいし、好きな理由は1つじゃない。

 純也の理不尽な不機嫌に俺も苛立って、喧嘩が絶えなかった。


 3日前も、電話で俺が「雨だから、会うのやめよう」と言ったら、純也が文句を言ってきた。喧嘩になる前に俺が折れて、会った。

 俺は改札の前で純也が来るのを待っていた。駅の階段を下りて来る男が黒いニットを着ていて、シルエットの綺麗なベージュのパンツを履いていて、ポケットに片手を入れていた。そのスタイルの良さからモデルかと、俺は見惚れていたら、純也だった。

 黒い髪が目元を隠していた。白い肌にシャープな横顔、やや寂しそうな影がある。

 俺は改めて良い男だと感心した。

 俺が傘を広げて駅の建物を出ようとしたら、純也が俺の傘に入ってきた。

 俺は自分の傘をさせと追い出した。

 同性愛はいまだ偏見が強い。俺が小学校の教師という公職に就き、純也が市民病院の看護師をするから、恋人のような振る舞いをするのはやめようと付き合い当初から俺は言っていた。

 純也が詰め寄る。

「本当に俺のこと、好きなの?」

「女みたいなこと言うなよ」

 純也は傘を差さずに、濡れていた。

「俺を好きな理由は?」

「男だから」

「別れたいって言ったら、どうする?」

「別れるなら、男紹介してよ」

 また始まったと思った俺は純也の目を見て言った。

 純也は冷酷なヒットマンみたいな目付きで俺を睨み、駅に戻って行った。

 鋭い奥二重の目に、空手の大会で全国優勝をしたことのある奴だ。

 こわっ、俺は背中をふるっと震わせた。

 別れたいと言ったらどうするかなどと酷いことを聞いてきたのは、純也の方だ。

 俺は後を追いかけなかった。


 あれから、純也は電話に出ない。ラインを送っても返信がない。既読すら付かない。

 別れたいと言ったらどうする? と聞いたのはたとえ話でなくて、純也は既に別れるつもりだったのか。


 俺は憂さ晴らしに同性愛者が集う街に繰り出した。

 暗い小道を急ぎ足で歩く俺の前を、若い男2人の背中が行く。ネオン通りに出る手前で、2人は手と手を繋いだ。俺はぎょっとした。ひやりとして体を凍り付かせる。この街では許される、そう認識を改めて、俺は胸を撫で下ろす。

 俺はジャケットの前を掻き合わせる。

 荒廃の雰囲気を漂わす雑居ビルがひしめく。ビルのどの階にも店が入る。ふざけた店名が多い。俺はオープンテラス式のバーに入った。テーブルは男同士の客でほぼ埋まる。彼らは親密そうに顔や肩を寄せ合う。

 男同士は出会ってすぐに関係を持つ者が多い。付き合ったり別れたりのサイクルが早く、1人と長く付き合う奴は珍しい。

 俺と純也も、この街で知り合った。

 ちらほらいる見知った顔に挨拶をして、俺はカウンターでジンベースのカクテルを買って、席に着いた。

 隣で随分と顔の綺麗な男が飲んでいた。

 俺は手のグラスを掲げた。

「一緒に飲みませんか?」

 男は黒髪を目の上すれすれで切り揃えている。三白眼で、冷ややかな印象。顎は鋭く、唇は薄い。

 男は自分のグラスを見下ろして取り上げた。

「いいですよ」

 男の声は低い。俺は男の向かいの席に移動した。男は廉と名乗った。

 俺は男の顔を見つめる。

「綺麗な顔ですね。モテそう」

「どうも」

 男は頬の筋肉も口周りの筋肉も動かさずに話す。親指と人差し指で自分の尖った顎を撫でる。男は唇の片端を微かに上げた。

「よく見るね、人の顔。名前は?」

「あたるって言います」

 俺はグラスに口をつけた。

「美味しい?」

 俺が頷くと、男は「いい?」と言って、俺の手からグラスを取って一口、飲む。

「香り、いいね」

 男は自分のグラスを差し出した。俺は男の手に持ったグラスを通り過ぎて、右手を男の耳に伸ばした。男は目線で俺の右手を追って、瞼を閉じた。俺は男の耳朶に下がるリングに触れた。リングを弄ぶ。俺は男の長い睫毛を見下ろし、唇を見つめた。男は瞼を開けた。

「キスされるかと思った」

 男は物憂げな眼差しを向ける。

 俺は男の顔から手を離した。 

「こういうの、向いていませんでした」

「それはないんじゃないの?」

 男は掌に顎を乗せて肘を付いた。

「お替り飲めば? 奢るよ」

 男は黒服の店員に「同じの」と指を二本立てた。グラスが二個、届く。

 俺は目の端で純也を探していた。

 男は俺の見ている方へ視線をやって、何? という表情で尋ねる。

 男と俺は互いに自分のことを思い付くままに話していった。

「俺、あたるみたいな一本木の熱血漢、好きだわ。男にも女にもモテるだろ?」

 俺は苦笑して曖昧に誤魔化す。学生の頃は他校にファンクラブがあった。今も爽やか先生と言われて生徒の母親たちから人気がある。

 男は携帯を取り出した。促されて、俺は男と連絡先を交換した。

 俺は視線を遠くにやった。

 店の外に純也が立っていた。

 俺は席を立って、店を走り出た。

 通りを見渡した。向こうの歩道に純也が立つ。車が来ないのを確かめて、俺は車道を突っ切る。駆け出した純也を追った。追い付いて、純也の腕を掴んだ。純也が俺を睨む。

「もう新しい男?」

「なんで、連絡、無視すんだよ?」

「お前のことが、好き過ぎて辛いから」

 純也は片目をひしゃげる。俺に怯えているようにも、許しを請うているようにも、俺は見えた。

「俺の事好きなら、なんでだよ」


 俺は自分の部屋のエアコンと加湿器のスィッチを入れた。ジャケットを脱いでソファに放った。

 俺は背後から純也に抱き付いた。純也の肩に額を乗せる。首筋に鼻を寄せて、安らぐ匂いに俺は鼻を啜った。窓から外灯の光が入っている。服の袖から手を入れて、俺は純也の体を弄る。純也をベッドに押し倒した。純也の手を取って布団の中に引き入れる。純也の背中に張りついて俺は服の上から純也の体をなぞる。

「辛いってだけで、俺から離れられるんだな」

 俺は純也の腰を掴んで、尻に腰をぶつけた。上半身を起こして純也の顔を覗くと純也は泣きそうに顔を歪めていた。俺は純也の肩を抱き締めた。純也が俺の方を向こうとするのを止めて、俺は純也の背中に額を付けた。どうせ、俺は純也をまた怒らせる。俺達は不毛なやり取りを繰り返す。俺の傷心が純也を拒んでいた。手を繋ごうとしてきた純也の手を俺は払った。

 俺達の4年はなんだったんだろうな。

 

 目を覚ますと、置手紙があった。

 やっぱり、好かれているように思えない。

 これ以上、嫌われたくない。だから、ごめん。  純也

 

 昨晩、純也を拒んだからか。

 好きと言わないから? 好きな理由を言えないからか?

 俺が何を言っても、気に食わなくて、純也は腹を立てるじゃないか。

 同じ傘に入れないのも、人前で手を繋げないのも、男同士なんだから仕方がないじゃないか。別れたら? 次の相手を見つけるしかないじゃないか。


 それから1週間が経っても、純也と連絡が取れなかった。


 俺は廉さんと駅で待ち合わせて、映画館の入る商業施設に行った。

 自動券売機で恋愛映画のチケットを2枚買った。廉さんは売店のホットコーヒーを奢ってくれた。廉さんに電話で恋人の純也と別れそうなことを相談していた。

 俺と廉さんは指定の座席に座った。

「映画を観て、純也の心を知りたくて」

 俺が呟くと、廉さんは顎を引いて、くくっと笑った。

 スクリーンに映像が流れ出して館内が暗くなった。

 ぼんやりと演者たちのやりとりを眺めながら、俺は涙を流していた。涙は映画の内容とは関係なかった。純也がいなくなって寂しくて傷付いていることを、俺は実感した。隣から膝上に何かを投げられた。タオル。それで俺は顔を拭った。

 スクリーンにエンドロールが流れて、館内が明るくなった。

「タオル、ありがとうございます」

 俺は腫れた瞼で廉さんの顔を見上げるのが恥ずかしかった。

 商業施設を出た。廉さんはバスが行き交うターミナルに視線をやった。

「今度は、俺に付き合ってよ」

 俺達はバスに乗って、石造りの荘厳な建築物の多い通りで降りた。

 建物のガラス扉を入った。裁判のスケジュールが載る紙を見て、廉さんは「これにしよう」と指差した。廊下の壁際に長い列が出来ていた。俺達は最後尾についた。三十分程待って、入室を許される。俺達は柵の手前に並んだ傍聴席に座った。

 若い男が恋人である被害者を束縛し、言動を責めて、刺し殺した事件。警官二人に挟まれて座るグレーのスウェットを着た犯人は手錠をしていた。裁判中、陪審員席に座る若い女が遺体の映った写真を見て顔を歪めた。

 俺達は裁判所を後にした。

 容疑者はコンビニの店員と言われたら信じる風貌だった。大人しそうな男に俺は見えた。

「犯人、そんな風に見えなかったですね」

「犯人ですって、顔に書いてあったら、楽だよな」

「相手を思い通りにしようなんて、どうかしていますよ」

「一概に、犯人が悪いとは言い切れないよ」

 廉さんの言葉がひっかかったが、俺は聞き流した。相手を思い通りにしたい純也は犯人と一緒だと、俺は自分の正しさを確かにして高揚していた。


 俺と廉さんは電車を乗り継いで、馴染みの街に行った。

 行きつけの店に入り、席に着いた。つまみを数品、注文し、俺はグレープフルーツサワーを、廉さんはビールを頼んだ。

 俺と廉さんはグラスを打ち合わせた。

 俺は項垂れた。

「どうやって付き合っていっていいか、わからなくなりました」

「色んな奴と出会って、楽しめよ」

「俺達の相手は少ない。せっかく出会えた相手を無駄にしたくないんです」

「だったら、相手の望みに合わせるしかないんじゃないか」

「それが、できないんです」

 自分が駄々をこねている子供に思えた。

 ままならない現実に、癇癪を起しているガキみたいだ。

 俺は窓ガラスを見た。

 純也が映っていた。純也は1人で来店して、通路で足を止めていた。純也は斜め前の席に座った。純也は俺の行きつけの店だと知っている。俺に会いに来たのか?

 俺はアルコールのせいでない動悸を喉の奥で感じていた。

 純也の顔を見られて、今現在、同じ場にいることが嬉しかった。

 純也はオーバーサイズの長袖の開襟シャツを着ていた。デートでよく純也が着ていた服。

 純也の首に俺が贈ったネックレスが下がる。コインのペンダント。

 純也は目を細めて切なそうな顔をしている。俺の目を見て目を潤ませて、唇を薄く開く。純也はペンダントのコインを人差し指と親指でこすっている。俺を求めるとき、そうするのが奴の癖だ。純也が俺を誘っている。

 俺は椅子から立ち、純也の腕とコートを取って、店の外に連れ出した。


 純也にコートを着せて、俺は壁に純也を押し付けた。顎を掴んで純也の唇を奪った。両手で頬を挟んで、純也の厚みのある唇に食らいつく。目を瞑る純也の顔を見据えて、むしゃぶりついた。純也は胸元のコインを弄っていた。奴がしがみついてきて、俺の舌に舌を絡ませる。

「俺の気持ち、伝わった?」

「あの人と付き合うの? 次の相手がすぐに見つかって、あたるは軽いんだよ。誰でもいいんだ」

 俺は純也の顔横の壁を拳で殴った。

「俺はこの4年、お前一筋だったぞ。お前は俺の言うことなすこと、文句言わないと気がすまないんだろう?」

「言葉の端々で、お前が真剣じゃないのがわかんだよ。俺ばっかデートに誘っているし、こないだも雨だから会うのやめようとか言うし」

「お前の行きたいとこ、どこでも付き合って行ってんじゃん」

「その言い方だよ」

「じゃぁ無理矢理、好きって言わせて、それで満足なのか? ならお前の望むこと、毎回言ってやるよ。ドリルくれよ。全問正解してやるよ」

 俺は純也の横の壁に背中を付けた。

「思い通りになんかならないだろう? ゲイの俺達は今の世の中ままならないことだらけだけど、俺は純也がいればそれだけでいいって思ってやってきた」

「苦しめて、困らせているの、わかっているよ。でもどうしようもないんだ。あたるとの関係は人に言えないし、俺達は結婚もできないし子供も作れない。確かなものが何もない」

「安心しないと、愛し合えないのかよ?」

「4年前に戻って、また出会ったときからあたると付き合いたいよ。俺達に確かな未来がないなら、4年ごとにこまを戻して、繰り返し、あたると付き合いたいよ」

 俺は賛同できなかった。

 俺は今純也と同じ夜空の同じ月を見ていて、それが幸せだと思っていた。

「会計して、戻ってくるから、ここにいろよ。こんな中途半端はやめろよ。話し合おう」

 俺が廉さんの所に戻って、五千円札を置いて外に出ると、純也の姿はなかった。


 純也と連絡がつかなくて2週間弱、俺は身も心も凍えそうだった。

 廉さんはやけ酒に付き合ってくれた。

 廉さんは映画館で号泣していた俺をネタにしてからかったり、LGBTを扱った映画の陰気さを腐したりして、よく笑ってよく話した。

 廉さんと俺は互いの腰に手をやって、駅の階段を上った。酔っ払いに見えて、同性愛者のようには見えないだろうことに、俺は安心していた。

 ホームで、乗客の列に並んで、電車を待った。

「帰りたくない」

「俺の部屋に、来るか」

 同じ声のトーンで、廉さんは「もうすぐ電車が来るぞ」と言った。

 廉さんは俺の腰に片手を回して乗車を誘導して、シートに座らせる。俺は対面の車窓を眺めていた。男と男が映る。

 俺より背の高いシルエットの廉さんは目を瞑っている。

 小奇麗な二階建てのアパートに着いた。廉さんが扉の鍵穴に鍵を挿し込んだ。俺はしゃがみこんで、酔いの戯言を言っていった。

 どうしたら、純也と上手くやれるのかわからない。

 純也と別れたくない。

 純也に会いたい。

 廉さんは俺の頭を掌で撫でた。

「とりあえず休んでいけば?」

 廉さんは扉を開けた。

 俺はのっそりと立って扉の中に入った。

 廉さんは窓際に置かれた間接照明を灯した。

 俺は深緑色の二人掛けソファに座った。廉さんは2本のペットボトルを持ってきて1本を俺に渡して、からし色をした楕円形の絨毯に腰を下ろした。俺はペットボトルの水を一口飲んで、溜め息を吐いた。

 俺はソファから立った。

 廉さんも立った。向き合う廉さんに、俺は抱き寄せられた。

 廉さんの良い声が俺の鼓膜を震わす。

「俺はお前のこと可愛いと思うよ。俺達は自分を抑えて、隠して生きるからバランスを崩しやすい。あんま、自分を追い詰めんな」

 廉さんは本棚に行って本の隙間から茶封筒を引き出し、封の開いたそれをテーブルに放った。茶封筒に、刑務所の名前が記載されていた。

「俺の恋人から」

「ムショに入っているの?」

「ああ」

 廉さんは半笑いを浮かべた。

「あいつは俺の言動を誤解して、一緒に部屋にいた男を浮気相手だと思って刺し殺しちゃったんだ。あいつの愛が重かったから、俺は面倒で説明とかしないで適当に誤魔化していたから。ちゃんと向き合わなかったから。人は誤解する生物だよ。純也って奴ともよく話をしなきゃ捕まえとけないよ」

「裁判所で傍聴したとき、変だと思ったんだよ。一概に、犯人が悪いとは言い切れないなんて言うから」

「俺にふらふらしかけてんの、そういうのが透けんだよ。人を好きになる気持ちを、お前は舐めてんだよ。人が何を考えているかなんて外からじゃわからないだろ? 言葉にしろよ。俺は死ぬほど後悔しているから、お前は悔やんでほしくない。今になって、あいつの気持ちをわかってやりたくて、俺は傍聴に通っている」

 廉さんにダウンコートとリュックを押し付けられて、俺は玄関扉から追い出された。

 

 最寄り駅を降りて、俺は家に向かって歩く。

 俺はダウンコートのポケットに両手を突っ込んでいた。高架橋の坂を上って、カーブに差し掛かった。コンクリート壁に体を寄り掛けて川を眺めている純也がいた。

 俺は純也の背後を通り過ぎた。橋を下り切ったところで、引き返した。

 俺は純也の胴に抱き付いた。コートの上からでもわかる程、純也は痩せていた。俺は凄む。

「変なこと考えているんじゃないだろうな?」

「俺がこっから飛び降りたってなんとも思わないんだろ。死んだってどうでもいいだろ?」

 純也が俺を振り解こうともがく。

「ふざけんなよ。どうでもいいわけないだろう?」

「バーで飲んでた男と会って来たんだろ?」

「もう会わないよ。お前以外、男と会わないよ」

「俺はあたるしかいないんだよ」

「死ぬほど、俺が好きなら、俺のそばにいろよ。俺から逃げるな」

「離せよ」 

「俺が悪かった。言わないでもわかるだろうと思っていた。俺が間違っていた」

 俺は純也にしがみつく。純也が壁の縁から手を離したタイミングで正面から抱き留めた。純也の手を引っ張って高架橋を下りていく。純也の手を握り締めると、純也が握り返してきた。

「俺、今までしょうがないかって、色んなこと諦めていた。でも、大切なもん守るためには覚悟が必要なんだってわかった。もし学校の関係者に見つかって、何か言われたら、俺は戦うよ。自分の気持ちも言うから。俺の中途半端な考えがお前を追い詰めていた、ごめんな」

 純也は震わす唇から、小さな息を吐いた。

 今年の冬は手を繋いで、イルミネーションを見て廻ろう。

 俺が純也の耳に口を寄せて言うと、返事の代わりに純也が俺の頬に口付けてきた(完)


作品を読んでいただき、ありがとうございます。

「面白い!」「また読みたい」など思った方は、ブックマーク、下の評価等の応援をぜひ、よろしくお願いします。励みになります(^3^)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ