02.避雷針
あたしは小鳥遊美希。
一年に5回制服の衣替えがある、公立超衣替高等学校に通うごく普通の女子高校生。
目覚めのいい朝を迎えた私は今日も元気に通学路を駆けるのだ。
そんな時、わたしは道路と路地裏の境界線辺りで大きなローブを被った占い師ような人がテーブルを立てて傍に段ボールを椅子代わりにして座っていた。
自分で言うのもなんだけど、あたしは超好奇心旺盛な性格でこういうSFなイベントを見つけるとパブロフの犬のように噛み付いちゃうんだ。
あたしが駆け寄るとローブの人は頭のフードを取った。
そこにはイタコをしてそうなおばあちゃんの姿が!
「ようこそお嬢ちゃん。一回やっていくかい?」
「やっていくって・・・・・・シャブを?」
「こら! 年頃の女の子がそんな事言うもんじゃないよ! あたしが捕まったらどうするんだい!」
見知らぬおばあちゃんに怒られた。あたしってばいつもこう怒られるのよね。てへ。
「まあ、それはいいさ。わたしはちょっと不思議なものを売っている商人でね、人の人生も変えることが出来るものを商売として出しているのさ」
「なんだか週刊ストー○ーランドみたいだね」
「こら! それを言うな! 時代が知れるぞ!」
「と、いう事はひとつ商品買ってもうひとつ欲しいって言ってくれたら『あれだけでございます』って言ってくれるの!?」
「筋金入りだな、お嬢ちゃん・・・・・・ゴホッ」
おばあちゃんが勢いで突っ込んでしまったためか少し咳き込んでいる。悪い事したなぁ。
「ごめんねおばあちゃん。お詫びに何かひとつ買っていくよ。何があるの?」
「じゃあまずひとつ質問をさせておくれ。今のお前さんが悩んでいる事は何だ?」
あたしはあまりよくない頭を巡らす。
今悩んでいること。
一番最初に思いついたのはあたしの想い人である近藤くんの事だ。いつも心の中で彼を想って満足しているため中々先に踏み出せないのだ。
「ほほう、好きな人がいるが自分が行動に移さないため、成就しない・・・・・・か。そうか、ならお前さんにはこれを売ろう」
そういっておばあちゃんは椅子の後ろに置いてあった段ボール箱の中を探って、何かをあたしの前に差し出した。
「何これ。何か彫の深い男の人の小さいフィギュアにしか見えないけど。頭も尖がっているし」
「これは、『ヒライ・シン』というものだ。これを頭に乗せれば面白いことになるぞ。それで、まずどう使うかなんだが・・・・・・」
「何かよく分からないけどありがとう、おばあちゃーん!」
あたしは話を聞くのが面倒だったため商品を『受け取って』その場を去った。
「こら小娘! 勘定も済ませとらんぞ、おい! ど、どうなっても知らないからなぁ!」
もうそんなおばあちゃんの声はあたしには届いていないのだった。
しばらく通学路を走ったところで『ヒライ・シン』を頭に乗せてみた。別にバランスなど取らなくてもくっついたかのようにあたしの頭上に乗って静止していた。
「おぉ、何か特訓っぽい!」
でもこれを乗せる事で何があるんだろう。さっきおばあちゃんはあたしに何の悩みがあるか、とか言っていたけれど。もしかしてこのアイテム近藤くんに想いが伝わるとか!?
期待してあたしは学校に向かって歩き出した。
鼻歌交えながら道を進んで行くと小学生低学年くらいの男の子が泣きながらこっちに走ってきていた。
あたしの横を通り過ぎたと思ったらいつのまにかあたしの後ろに回ってスカートを掴んでいた。
「えっ、君どうしたの?」
あたしは振り返って目線を合わせるため屈んだ。
「お姉ちゃんが相談に乗ってあげるから泣きやんで。一体どうしたの?」
あたしがそう自慢の笑顔を飛ばすと逆に男の子は顔を真っ青にして震えだした。
「え? え? え? 何で!」
よくみると男の子の目線はあたしではなく肩越しに何かを見ていた。
ゆっくりと振り返ると・・・・・・どこかの家の番犬が牙を剥いて地を蹴りあげて走ってきた。
気づいた瞬間にはもう遅く数秒後には牙があたしのお尻に食い込んでいた。
「ぷぎゃーーーーーーーーッ!!!」
あたしのお尻に満足したのか凶暴な犬はゆっくりと立ち去った。
「いててて・・・大事には至らなかったけどびっくりしたなあ」
どうやら男の子はあの犬に追いかけられていたらしい。
「えへへ・・・・・・まあ君が無事だったからいいか。ねえ・・・」
あたしが男の子に振り向きなおした時にはもう男の子は忽然とそこからいなくなっていた。
「あは・・・あははは・・・」
笑うしかなかった。
それからというものあたしは次々と災難に振り回された。
車のタイヤが水たまりを散らしてあたしにぶっかけたり、鳥のフンが頭に落ちてきたり、子供のいたずらでスカートのホックが外れ、あたしの勝負パンツ(赤)が明らかになったり。
「もう、何よこれ! 朝からこんなのってないよ!」
そう叫んだ私にひとつの予感が横切った。
「・・・・・・もしかしてこの『ヒライ・シン』って人の不幸をあたしに逃がすための『避雷針』ってことじゃないの!?」
おばあちゃんの質問と何も関係ないじゃない! そうとわかればもうこんなもの捨ててやる! 不燃ごみで!
必死に引っ張ってみたがどうも取れそうにない。何で!? どうして!
「とんだ紛い物を掴まされたよ~! 助けてたぬえも~ん!」
「・・・・・・小鳥遊さん」
あたしが嘆いているとそこに一人の男性の声が聞こえた。
何よ! と怒りながらそちらへ向くとそこには想い人の近藤くんが少し顔を赤らめて立っていた。
「あ・・・・・・あ・・・・・・、近藤くん」
あたしも思わず頬が熱を帯び真っ赤に染まるのが分かった。
「ど、どうしたの、近藤くん。あたしに何か、あるのかな・・・・・・」
「実は俺、小鳥遊さんの事が好きなんだ」
「え」
あたしはキョトンとした。
「・・・・・・え、え、え、ええええええええええええええ!!! ど、どどどどど、ど、どうして!!!!」
ひたすらあたふたするあたし。もう何が起きているのやらもあやふやになっているくらい頭が沸騰していた。
「信じられないかもしれないけどさ、小鳥遊の俺に対する想いというか心が凄い伝わってきたんだ。告白みたいにぶつけるような想いが急に俺の中に飛んで来たんだ。もし、そういう気持ちが間違いだったらごめん。でもそれに限らず俺は前から小鳥遊さんの事が好きだったんだ! 中々告白する事が出来なくて迷ってた時に今さっき、小鳥遊さんの心の声が聞こえてきて導かれるように走っていたら君がここにいて・・・・・・。だから思いきって言おうって決断したんだ。頼む、付き合ってくれ!!」
近藤くんは深く頭を下げた。
その行動を見たあたしは涙を流していた。水玉となって地面にポタポタと落ちていった。そしてあたしは自慢の笑顔で答えるのだった。
「あたしも近藤君の事、大好きだよ」
答えると役目を果たしたかのようにあたしの頭に乗っていた『ヒライ・シン』が落ちて道路脇へと転がっていった。
ローブの老婆は店じまいをしているところだった。テーブルを畳み、段ボール箱を持ってきたリヤカーの荷台乗せて空を見上げた。
「あのお嬢ちゃん。今頃恋が結ばれているかのぉ」
にまにまと皺だらけの顔を歪ませながらテーブルも荷台に乗せ、リヤカーを引き始めた。
「人の不幸を使用者が受け止めて、その代わりに想い人に心の内を送信させて恋の成就率を増幅させる、究極のラブマシーン・・・・・・」
老婆が引くたびに二輪のタイヤはガタガタと音を立てた。
「『飛来・心』、役に立ったんじゃろうか」
昔やっていたとあるテレビ番組のお話を参考にした話です。小鳥遊美希というハイテンションなキャラクターを書くのが楽しかったです。




