01.大雨
今日も今日とて少女は捻くれている。
少女のクラスは現代文の授業をしていた。窓側の席に座っている少女はそんな授業を蚊帳の外に置いて窓を越して外を見ていた。
ざあざあと突き刺さるような酷い雨音と共に一瞬で地面に叩きつけられる雨粒たち。
それをみながら少女は心の中で捻くれる。
「雨は綺麗とか抜かしている奴がいるが所詮、水蒸気となった水が最終的に化学物質を含んで落ちてくる汚水に過ぎないじゃない・・・」
「心の中を通り越して声に出てるよ」
隣の席の男子が小声で話しかけてきた。パッとしない見てくれだ。200%絶対に確実にチェリーボーイに違いない。
「声に出ていた?」
「うん」
「その証拠は?」
「・・・・・・特筆すべき証拠は、ないけど」
「なら論破ね。私を注意するなら納得せざるを得ない証拠を持ってきなさいよ。私がおったまげるような紛れもない証拠を。悪魔がいると証明したければ悪魔を連れてくるのよ」
そういって少女はまた窓の方を向いた。
「・・・・・・ねえ、君はなんでそんなに捻くれているの?」
「さぁね、自分でも深く考えた事もないわ。素直じゃないとよく言われるけれど私は自分に忠実よ。我が道を往くのが私のポリシーだからね、やめられない、とめられないのよ」
「そんなスナック菓子のあおり?」
「そんな事よりあなた、私と仲が良かったっけ?」
「いや、そこまでは・・・・・・。話したのもかなり前だし。しかも話した時の内容も僕が教科書忘れて見させてもらおうと声かけた時だし」
「そんな中途半端の関係で私を注意するとは身の程知らずね」
「捻くれすぎだろ!」
「捻くれ女王とでも呼んでもらおうかしら」
「満更でもないのかよ!」
「怒涛の突っ込みをぶつけてくるわね。・・・・・・その突っ込みスキル気に入ったわ。あなた将来お笑い芸人になれるわよ。特にピン芸人に」
「ピンで突っ込みスキルをフルに使うのはきついんじゃ・・・」
「じゃあ私と組めっていうの? 冗談じゃないわ。大勢の人の前で馬鹿で無知で恥辱な醜態を晒す生き物になれ。そう言っているの!?」
「お笑い芸人に謝れ! ラッ〇ャー板前に謝れ!」
「たけし軍団が好きなの?」
「掘り下げなくていいからそんなとこ! 純粋な目で訊くな!」
そんな会話を繰り広げていると教壇から担任の怒号が飛んできた。
「うるさいぞそこ!! 授業中に私語を慎めと何度言ったら分かるんだ! 水一杯のバケツを両手に持って廊下に立っとれ!」
「まだそんな古式な教師からの罰あったんだ!」
話していた男子が突っ込みを極めた。
「まさか本当に立たされるとはね」
ひねくれ少女が呟く。二人は先述のようにバケツを持って立たされていた。
「まあ、こんなクソッタレな経験なんてそうそう出来るものでもないし、人生の厳しさを研鑽していると思えばへのへのかっぱだわ」
「ただの人生の汚辱だよ・・・・・・」
そう悲しく漏らす男子の声は外でひっきりなしに振り続ける雨の音に掻き消されていた。
「・・・・・・まぁ、こうなったのも私の責任なのは事実よね。これだけは素直に謝るわ、ごめんなさい」
少女が頭を下げる。バケツにはいっている水の水面はその動きに反応し、波紋が広がった。
「いいよ。別に。僕も変に突っ込んだのも理由だと思うし、こちらこそごめんなさい」
「・・・・・・えぇ。でも、お互いが謝ったことによってこれでこの大雨のように問題は水に流されたっていう事ね」
決め顔で少女は言い切った。
「・・・・・・」
「あら、お気に召さなかったかしら。今までの人生の中で最高のギャグだと自負していたのに」
「・・・・・・まず君は捻くれている事よりもその凍てつくような寒いギャグを見直した方がいいかもしれない」
そんな二人をよそに大雨は次第に強くなっていった。
ひねくれた少女を主人公にした話です。雨が題材なのは今日雨が降っていたからです。憂鬱になりやすい雨の日にしょうもない話が書きたかったのです。