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ドロシーSL怪奇譚  作者: どろぴっぴ
7/10

手記


 これはセカンドライフ内の片隅に残された、一枚のノートカードに記された調査報告である。

 

 【 私はSCP財団の調査員。アカウント名はkekeke888。一見すると捨てアカのような名前だが、これも私個人を特定されないためやハッキング防止に必要な処置だ。都合上、名を呼ばれるときはケーパチさんで通ることになっている。なぜ、私が仮想世界セカンドライフへと調査に派遣されたかと言えば、この電脳世界にSCPのファイルから遠い昔に抹消されたはずの脅威が確認されたのだ。ロストナンバー666と呼ばれる概念生命体である。ロストナンバー666はかつて、あらゆる神話や歴史の物語に登場した悪の権化であり、今は亡き十神教会とその騎士団であるリッティア十字軍が膨大な時間とその命を懸けて文献や痕跡の抹消を行ってきた。それらの組織や活動など全ての存在を誰も知らず、今に伝わっていないのは当然だ。彼らはすべての痕跡を自らの組織を含めてきれいさっぱり消去したからだ。しかし、財団は今またロストナンバー666が電脳世界に復活したことを突き止めた。復活した脅威に名付けられた新たな名称はこの世界のアカウント名であり、一人のアバターとして紛れ込んでいるようだ。私はこの日ログインし調査を開始した。

 ロストナンバー666に結び付く情報を得るのは簡単だった。見れば至る所に指名手配のポスターが貼ってあるのだ。概念生命体は人間の認識によって存在し得るため、こうまで仮想世界に顔や名前が広がってしまってはすでに手遅れかも知れない。この仮想世界ごと封印するしかロストナンバー666の存在を抹消する手段はないかも知れない。

 私は調査員だとバレないように、現在のリンデンのデフォルトアバターのラインナップから、モンティを選んで扮することにした。代表的なグレッグを選ばなかったのは、かつてセカンドライフでのネタアバターとしてmarketpriceでもグッズが豊富なnoobのように、その姿が頻繁にSMSの玩具にされていた為、かえって目立ってしまうことを恐れたからだ。そして、モンティはいかにも目立たない、日本国のインターネットミームであるチー牛のように、それが現実ならよほど意識を向けなければ記憶に残らない顔と判断したからでもある。

 モンティのケーパチ。それが私の仮想世界で活動する個の姿である。

 私はロストナンバー666が最近出入りしているらしいとあるグループを調査し、hiromie constantineという一人の女性アバターに協力を要請した。彼女の愛称は『ひろみー』。神話や伝承に造詣のある人物だった為、この世界に隠れ潜んでいる概念生命体への手がかり掴む力になってくれるに違いない。大陸の構造や道にも詳しいようだ。彼女は快く要請に応じてくれた。

 驚いたことに、ロストナンバー666と思われるアカウントは、この仮想世界に土地を買って自宅を建てているらしい。しかもなかなか広い土地だという。その呪われた土地は、サトリ大陸からは遠く離れた辺境の地、北大陸と呼ばれる環状大陸内をぐるりと囲む中央山脈の端に位置するらしい。

 調査員である私とひろみー女史は、大陸内を血脈のように走る線路から電車に乗って、ロストナンバー666が支配に置いているであろう土地へと向かった。ついた場所は森林深く、奥には怪しい神社が建っている。近隣の者に話を聞くと、この土地からは夜な夜な「チェーンソー研ごうか 人斬って数えようか ショキショキ」という歌声が聞こえてくるという。それを聞いたひろみー女史は「妖怪あずきとぎの伝承とそっくりですね」と私に言った。それもそのはず、各地の怪現象や怪物、怪獣、妖怪などの言い伝えは元をたどればロストナンバー666が行った行為であり、遠い先人たちもまた、怪異のもとである存在を抹消するために記録を書き換えたのだ。ひろみー女史の話によれば、ロストナンバー666と思われるアカウントは仮想世界において、勝手に人の土地の家に上がりこんでお茶を飲んだりタバコを吸って帰っていくといった行為をするらしい。これはまさに妖怪の総大将ぬらりひょんそのものか、帰る家を間違ったボケ老人のする行動であり、あらゆる怪奇伝承の根底にあるのがロストナンバー666の存在であることは疑いようもない事実だ。

 ひろみー女史は周囲を眺めると「ドロシーさん、昨日まではこの辺にいたはずなんだけど…」と呟いた。その瞬間、彼女の背後から「今でもいるぞ」という発言と共にチェーンソーが突き出され、私の見ている前でひろみー女史の身体は血飛沫とともに貫かれたのである。

 私はその場から必死に逃げた。遠く後ろの方で、「226人目ゲット」というロストナンバー666の打ったであろうチャット発言が流れたが、私は振り返ることなく十数SIM走ったところで力尽きた。そしてその場でログアウトしたのである。

 私の調査は成功でも失敗でもない。確認した結果、もはや手遅れなのは間違いないのだ。ロストナンバー666のアカウント名をグーグル検索しただけで、仮想世界での姿を写した画像が簡単に出てきてしまう状態だ。これはすでに特別収容プロトコルにおいてはKeterクラスであり、捕獲も収容も不可能な広域概念と化している。

 願わくば、ロストナンバー666ことアカウント名 Dorothy Magic がセカンドライフの中のみに脅威を振るい、現実の世界へ出てこないことだけが私の望みである。】


 2021年調査記録 SCP調査員 kekeke888

 

挿絵(By みてみん)

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