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薄ら気付いていたがあんまり友好的とは言えない態度を取られ、俺は戸惑ってしまう。
「...何のというか、冒険者登録に...?あと、俺、勇者じゃ無いです...。」
「.............は?」
「...えっ?」
「...ん?」
「「...........」」
お互いの頭の上にハテナマークが浮かぶ。
俺は多分普通のことを言ったつもりだが、どうにも相手にとっては違うように感じる。
微妙な空気が部屋を漂う。
目の前の朱い髪ゴリマッチョは一つ咳払いをして居住いを正した。
「あー、その。悪かったな。話しもよく聞かずに殺気まで飛ばしちまって。」
「いえ、こちらこそお騒がせしてすみません。」
ぽりぽりと頭をかくゴリマッチョ。
――殺気を出してたのか、全く分からなかった。
俺は外で襲われたら秒で死ぬかも知れない。
「改めて、俺はこのリムサッカ冒険者ギルド王都支部のギルドマスター、ゲオルグだ。よろしく。あと、ギルド内では敬語じゃなくても良いぞ。」
敬語じゃなくて良いなんて気楽で助かる。
「俺はユーリだ、よろしく。さっきも言ったように冒険者登録したいんだが?」
「その前に一つ聞いて良いか?」
おそらく勇者の事だろう。
「黒目黒髪は勇者の色だ。ユーリは勇者じゃねぇって言ってるが、どういう事だ?」
やはり見分け方は黒目黒髪のようだ。亜玲空は日本人だが生まれつき茶色の髪をしている。俺のように目立つことは無いだろう。
――いや、二人黒髪連れてたら目立つか?
俺は召喚の事、そして低すぎるステータスのことをゲオルグに話した。
「....確かに低いな。異常なくらいだ。」
「そうですか...。」
やはりこれはこれで異常な様だ。チートとは真反対だが。
「あと、人にほいほいステータスを見せるもんじゃねぇ。普通口頭で答えるか、紙に書くかのどっちかだ。」
あれ?城の人たちは普通に見せろって言ってたが、そういえば逆に見せてもらった事は無いような気がする。
やはり飛鳥の言っていた通り、奴らは信用できないかも知れない。
「....ユーリは常識に疎すぎるな。まぁ、来て一ヶ月な上、訓練漬けじゃぁ学ぶ機会なんざ無いか。」
ゲオルグが独り言の様に呟く。言われた通りこちらの常識は全く分からない。城の外に出たのも今日が初めてなのだ。
ちょっと待ってろ、そう言ってゲオルグは席を外した。
戻ってきたゲオルグの手には小さいピアスがあった。
「こいつは『変装のピアス』だ。着けると髪と目の色が変わる。こいつをやるから付けとけ。お前の髪は目立ち過ぎる。」
そう言って渡された星型ピアスを俺は手のひらに乗せて眺めた。
付けとけって...
「俺、ピアスの穴、開いてないんだが?」
「............」
俺の学校はピアスは校則違反だった。当然、穴なんて開いてない。
結局ゲオルグに開けて貰った。
ピアス用の針なんてこの世界には無く。普通の裁縫用の縫い針を刺された。めちゃくちゃ痛い。
そこに試験管の様なものに入った液(回復薬だそう)をかけ、針を抜き取れば綺麗なピアスの穴が完成した。
液の残りは飲まされた。すげぇ苦い。
傷口が膿んだりしない様に予防の意味があるそうだ。
そして早速ピアスを付けた。
鏡が無いため、何色になったのかわからないが変装は出来たらしく、ゲオルグは満足そうにうなづいている。
「耳は隠しとけよ?そのピアスの形は特徴的で有名だからな。不審に思われるかもしれん。」
「ありがとう。このピアスの代金はいくらなんだ?」
国王様がくれたのは金貨が数枚入った袋だ。当然買い物なんてしてない俺には相場がわからない。
あまりに高級なものだと払えない可能性があった。
「そいつは俺のコレクション品だ。無料でやるよ。その代わり、貸一つだ。」
お前に貸を売っておくのは面白そうだ、と笑っている。
こっちは面白くない。無料より高い物はないのだ。
「冒険者登録だったな。書類を持って来させる。俺は忙しいから、なんかあったら呼べば良い。」
じゃあな、と言ってゲオルグが出ていき、入れ替わるようにさっき案内してくれた受付嬢が現れた。
「手続きはカウンターでしますので、移動お願いします。」