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翌日、俺は四人を見送るため、城の門に立っていた。
俺の後ろには見送りにきた騎士団の人たちと一部の貴族、そして先程別れの挨拶を済ませた国王様がいる。
目の前の四人は城からの支給品の旅装をしている。亜玲空は王道ファンタジーの様な服に革鎧を着て勇者らしい。聖は白いローブを羽織り手にはそこそこ長い杖、飛鳥は聖と同じデザインで黒バージョン。杖は短いもので服の下に隠しているらしい。
そして三人とも背中に大きいリュック。
よく背負っていられるな、と思うが、これがステータスが上がるという事なのかもしれない。
そして、俺の代わりに三人について行く事になった騎士のジル・タストール。案内役も兼ねてるそうだ。
「ついにこの日が来たか...。」
しみじみと亜玲空がつぶやく。
「何だよ、今生の別れってわけじゃないだろ。帰ってこいよ?絶対。」
「ああ、約束だ。」
そう言って拳を突き合わせる。
騎士団に教えてもらった男同士の約束を示すそうだ。指切りの様なものらしい。
行きたいくないと明らかに顔に出す三人。
俺だってついていけそうなら行きたかった。知り合いも居ない異世界に好き好んで一人になりたいやつなんて居ないだろう。
「悠里くん!絶対帰るから、無理しないでね?とにかく元気でいてね?」
「....寝過ごして出迎えが遅れても許せよ?」
「もうッ!悠里くんったら!心配してるのに....」
聖はそう言って頬を膨らませる。
最後まで俺を連れていけないか?と交渉し続けて飛鳥に説得され、渋々了承したのはついさっきだ。まだ気持ちの切り替えは出来ないだろう。
「悠里。“あのこと”だけど...。」
「ん?ああ、大丈夫だ。やれるだけやってみるさ。」
飛鳥が“あのこと”というのは、最近王城内で噂の権力争いである。
その中には一人残るであろう俺を暗殺する計画もあるらしい。
勇者が殺されるという事態を避けるため、国王が城下へ降ることを命令した。
表向きは、見聞を広め、新たなる力の開花を期待する。というものだ。
それについて飛鳥は不信感を募らせていた。
国王が悠里の為と言っているが、それが嘘ではないか?この世界には魔物がいるのだ。事故死として片付けるつもりでは無いのか?ということである。
そこで悠里に可能な限り王都から離れる様に言ってきたのだ。
そして、出来れば後で合流したい、と。
これが一番の本音だろう。
結局飛鳥も一緒に行動したいのだ。
過保護な幼馴染たちは皆、心配なのだろう。
「...なら、良いのよ。行ってくるわ。」
「ああ、“待ってる”」
次の街までは騎士団の人が送ってくれるのだそうだ。
シンプルながら丁寧な作りの馬車に三人は乗り込んで出発した。
小さくなる馬車が見えなくなるまで俺はその姿を見ていた。
様子を見ていたセイゲルさんがそっと声をかける。
「さて、ユーリ様。支度をせねば日が暮れますぞ?」
「.....ああ、そうだな。」
俺も早々に王城を出る。
目指すは王都の冒険者ギルドである。
セイゲルさんに朝が遅く夜の早い仕事と聞けば、冒険者ならば時間に縛られない、と返ってきた。
当然活動しなければ一銭にもならないが、俺の様に無理出来ない者なら少しずつ簡単な依頼をこなせば生活出来るのでは無いか?ということだ。
支給品の着替えの入った小さめリュックと国王様からの軍資金、金貨十枚を持って俺は城門を出た。
亜玲空たちの時とは違い、俺には馬車は出ない。
すぐそこなので徒歩でいける。
見送りもセイゲルさん一人だけだ。
「...御武運を。」
「ああ、ありがとう。なにかと世話になったな。」
一か月ではあるがこの世界で一番話をしたのはセイゲルさんだ。この人は悪い人では無いような気がする。
短い挨拶で俺はくるりと城に背を向けた。
門番に会釈をすれば敬礼が返された。
真っ直ぐに歩けば大通り、街の入り口にほど近い場所にギルドがあるそうだ。
俺は真っ直ぐに歩き始めた。
歩いて行く悠里を窓からチラリと国王は見送っていた。
「......宜しいので?」
「ああ、あのステータスでは長くは生きられまい。」
後ろに控える貴族に適当に返事をして執務室へ向かう。
ニヤリと笑う気配を感じ、心中で悪態をつく。
――なんの罪もない若者一人にご苦労なことだ。
悠里の暗殺計画を立てていた貴族は放って置いても事故死しそうな今の状況にほくそ笑んでいる。
これで悠里が死ねば国王の道徳を疑問視し、地盤を崩したいのだろう。
――全くもって下らない。
しかし、あのステータスは異常だ。何かあの者には隠し球があるとしか思えない。
悠里のありえないほど低いステータスは怪し過ぎた。魑魅魍魎蠢く王城で育った国王の勘が何かあると訴えている。
――誰かつけるべきだな。
国王は今後の算段を立てて動き始めた。