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檻の中がほんの少しざわめき立つ。
中には声も出せず視線だけ虚にこちらを見つめる者もいる。体力的にも限界が近そうだ。
「....お父様ですわね?助けを呼んで下さったんだわ...!」
金髪ドリルが喜びから声を出す。思いの外空間に響いて俺は慌てて少女の口を塞いだ。
「お静かに。彼らに気づかれては命の保証は出来かねます。」
真っ直ぐに瞳を覗き込んでいうと顔を紅くしてコクコクと頷いた。
俺は少女たちを縛るロープを外していき、そして檻を支えるロープも傷をつけていく。
見た目は囚われたままの状態を作り出した。
あとはレオナルドさんたちが騒ぎを起こした時に逃げ出すだけだ。
暫く経って外の様子が騒がしくなってきた。
バタバタと足音が聞こえ、怒号が飛び交っている。
俺はナイフを構えて檻の前に立つ。
そこへ二人の男が駆け込んできた。俺を牢屋に運んだ二人組だ。
「おい!とにかく商品だけでも運び出すぞ....て!?」
「何だお前ッ!?」
何故か縛られていない俺の様子に気づいたのだろう。
俺は思い切り檻に蹴りを入れて壊す。支えの縄がズタボロの檻は簡単に崩れた。
一気に一人に距離を詰めてナイフで喉を切る。殺しはしたくないと思いながら。だが、戦闘に入ると魔物を相手にする様に気がつけば首を狙っていた。
躊躇いは死に繋がる戦闘で俺は手加減出来るほどの腕は無い。
もう一人が慌てて剣を抜こうとするがその前に蹴りで剣を叩き落とす。
そのまま顔面を殴りつけた。
ドサっと音を立てて男が崩れ落ちる。
遠くからバタバタと新たな足音がこちらに向かってくる。次の戦闘に備えて構えた。
細い通路で戦う方が大勢が相手なら有利だとヴォルフさんは言っていた。
だが、駆けつけたのは敵ではなくニックさんだった。
「アレ?終わりっスか?かっこよく颯爽と駆けつけたんスけど。」
「こちらは終わりました。お探しのお嬢様もご無事ですよ。」
構えを解いて後ろで固まる女性たちを指す。もちろん中にはあの金髪ドリルもいる。
ニックは姿を確認してスタスタと金髪ドリルに近寄った。
「あんたがエリザベス嬢っスか?」
「.......ええ、そうよ。」
嫌そうに後退りながら答える。
ニックは背が高いため、高圧的に見えて怖いのだろう。特に盗賊被害に遭ったばかりでただでさえ男は怖いはずだ。
そんな態度も気にした風でもなく確認出来ればそれで良いと言わんばかりに他の牢を壊しにかかる。
牢屋代わりの空間に詰め込まれていたのは全部で十人ほどの女性。しかも若く顔立ちの子綺麗な少女たちだった。早くから捕まっているものはげっそりと痩せて立てない者もいた。
排泄も同じ部屋で行われており、皆一様に汚れきっていた。
「これで全員ですかね?」
「牢屋にいたのは出したっス。」
少女たちを見渡して確認していると、そろそろと金髪ドリルが近寄ってきた。
俺もそれなりに身長があるため、怖がらせない様に膝を折る。
それを見て少しホッとした様子で話始めた。
「...あの、奥にもう一人居るはずですわ。食事が運ばれるのを見ましたの。」
「奥ですね?ご協力下さり有り難う御座います。」
安心させるために笑ってみせる。
途端に視線を彷徨わせる金髪ドリル。
「....あの、貴方。私の家に仕えてみませんこと?優秀な方は歓迎致しますわ!」
空元気なのか急に声を上げた。
「お申し出心より感謝致します。ですが、私はまだ冒険者を始めたばかりの新参者。まだ見ぬ世界を旅したいのです。一所に仕えるつもりはありません。」
「.....そう。残念だわ....。」
やんわり断りると肩を落としてあからさまに落胆する。そんなに気に入ったのだろうか?
そこで俺は自分が女装していることに気がついた。
――同い年の少女が護衛なら安心出来るということか?
俺は勝手にそう解釈した。




