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「確かに吟遊詩人なら護衛で俺らが居ても不自然じゃねぇな。」
盗賊の目撃証言があったのは三日前にお嬢様が連れ去られた日が最後だ。およそ三日から五日置きぐらいに目撃証言がある事から、今日あたりに出る可能性は高い。四人は目撃証言が比較的多い王都と反対方面の街道を歩く。
先導して歩いていたレオナルドさんが足を止めた。
続く俺たちを手で制す。
「..........当たりだ。」
レオナルドさんが睨み付ける先、夕方の薄暗がりから複数の男たちが出てくる。
街道に近い森から現れたのは盗賊だった。
汚い服に古い革鎧をつけている。人数は多い。十人は居るだろう。
俺を守る様に三人は背を向けた。俺は怯えた演技のため俯き気味に縮こまる。
念のため腕をさする振りをして袖の下のナイフを掴んでおく。
「大丈夫っスよ、お嬢様。俺らが守るっス。」
俺の動作に気づいたニックが注目を逸らすためか声をかけてくれる。
コクリ、と声を出さずに首だけで肯定を示す。声を出せば男とバレてしまうかも知れない。
守る、と言ったニックの声が震えていたのは気のせいじゃないだろう。残りの二人からも微かに笑う気配を感じた。
この調子だとワザと隙を見せて俺を連れ去らせるかも知れない。
相手はその笑顔を虚勢と受け取った様だ。
「おいおい、随分と余裕だなぁ?この人数相手に三人で何とかしようってのか?」
ニヤニヤと下品に笑いながら距離を詰めてくる。
そして盗賊の一人が斬りかかった事をキッカケに戦闘が始まった。ゴブリン退治の時に動きを見ていたから分かる。三人は明らかに手を抜いていた。
数人が倒れたところで予想通り一人の盗賊が後ろから近づく気配がする。
三人は気づいていそうだが、手を出す気も無いらしい。
――大人しく連れ去られろ...と。
そういう事だろう。ナイフを服に仕舞い直して後ろから近づく盗賊には気づかない振りをする。
背後から布で口を押さえつけられ、何かの薬を嗅がされる。
俺は息を止めて、すぐに力を抜き倒れた振りをした。ニヤリと笑う気配が近くでする。
「おい!ずらかるぞ!」
俺を捕獲したことを確認すると一気に盗賊たちは引いていく。
「おいっ!待てッ!」
慌てた様にレオナルドたちが後を追おうとするが数人に阻まれる。
盗賊に担がれながらチラリ、と薄目を開けて確認すると三人の顔はちょっと笑っていた。
――面白がる場面じゃねぇ....!!
俺は心の中で悪態をついた。
「やりましたね!コイツは上玉ですぜ!」
俺を担いだ男が移動しながらそうこぼす。
「マジか。あいつらに渡す前に楽しんじまうか?」
――勘弁してくれ、俺は男だ。担いだ時点で気づけよっ!
「頭に怒られますぜ?傷物は値が下がるって言ってたじゃねぇですかい。」
どうやら何処かに売りに出すつもりの様だ。
人身売買が闇市で行われていると言うのも事実だった様だ。
やつら、と言うのも関わってる貴族のことかも知れない。
「せっかくの上玉なのにな。」
隣の男から舐め回す様な気持ち悪い視線を感じた。
――やめてくれ。俺は男だ。
そのままかなりの距離を担がれたまま移動した。
どさり、とどこかに降ろされる。
床は石で出来ていた。打ちつけた身体が痛い。
チラリと薄目を開けて様子を確認するとどうやら洞窟を改造したものの様だ。女性が数名、縛られて転がされている。その中に金髪のドリル髪が見えた。恐らく特徴からレオナルドさんが探してる貴族の子だ。服装もその子だけがやたらと上品だ。
全員疲弊しており元気が無い。
――盗賊に捕まっているんだから当然か。
俺を運んだ男がリュートを取ろうとするが、掴んだ手が焼けたのかジュウ...という音と嫌な匂いがして悲鳴が上がる。
「アーティファクトかッ!?面倒だな!」
男が舌打ちをして離れ、別の男と入れ替わる。
「おい、起きろ!」
バシバシと頬を叩かれ、無理矢理起こされる。
やっと気づいたという顔をして不安げに辺りを見渡した。
洞窟だったのかは分からないがどうやら手掘りして環境を整えたらしく木の棒を縄で縛った簡素な作りの檻だった。
「嬢ちゃん、状況は分かってるか?」
脅し用かナイフを向けて男が言った。
顔を見られないよう俯いてコクコクと首だけで返事をする。
「へへへっ。恐怖で声も出ねぇか?...まぁ良い。その背中の楽器を降ろせ。」
言われた通りその場にリュートを降ろす。
男は先程火傷した男に視線を送ると嫌そうな顔をして男がもう一度リュートに手を伸ばす。
やはり触れ無かった。今度は素早く手を引き火傷は免れた様だ。
「だめだ。持てねぇな。」
「....チッ!良い臨時収入だと思ったのによぉ!」
苛立った男は目の前に居た俺に思い切り蹴りを入れた。床に転がり咳き込む。
「おいおい、傷を付けるなよ?叱られるぞ?」
「....チッ!」
舌打ちした男は無理矢理俺の手を掴み後ろで縛る。
ヴォルフさんに教わった様に手を揃えて縛らせる。これで手を内側に回せば簡単に外れるんだとか。
「良いか?ここで大人しくしていろよ?煩くしたら端から殺す!」
イライラしながら半ば叫ぶように言って男達は部屋から出て行った。
多分入り口に見張りは居るのだろうが遠ざかる足音からして思いの外広い空間の様だ。
完全に音が聞こえなくなるのを待ってから俺はそっと縄を外した。
ヴォルフさんは簡単に取れると言っていたし練習もしたが、これは正直、手を痛める。
ヒリヒリする手首を抑えてぐるり、と檻の中を見渡した。
床に転がる少女たちに小声で声をかける。
「皆様、どうか落ち着いて聞いてください。私は依頼を受け皆様を助けに来た冒険者です。今、仲間がこちらに向かっています。今しばらくの辛抱です。」




