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ジョングルール漫遊記  作者: 小山 静
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17

 


 カラカラと車輪の音が響く。

 一定の揺れが続く車内で時折石を踏んだのか大きな揺れが起こる。

 狭い車内で男女四人は顔を突き合わせていた。

 内二人は女性で黒目黒髪の美女だ。後の二人は男性で、一人は茶髪に黒目の美男子。もう一人は緑の髪に茶色の瞳がっしりとした体格だ。

 勇者として魔王を倒す使命を受けたパーティーであった。


「改めて。私は今回の旅の同行することになった案内人のジル・タストールだ。ジルと呼んでくれ。」

「よろしくジル。知ってると思うけど、僕は亜玲空(アレク)。こちらの女性は右手に居るのが(ノエル)。もう一人が飛鳥(アスカ)。」


 亜玲空の紹介に合わせて聖と飛鳥は軽く会釈をする。

 急に同行者がつくと聞いて三人には戸惑いがあった。

 それから全員黙り込んでしまい、車内には気まずい空気が流れる。


「悠里くん大丈夫かな...?」


 窓の外を見てぽつり、と呟いた。

 心配そうな声を出すのは聖女の聖だ。


「大丈夫よ。悠里だって子供じゃないもの。大丈夫、....そう、信じるしか無いわ。」

「そう、だね....。また会えるよね?」

「その為にも、早く終わらせて帰ろう。首を長くして待ってるだろうからな。....帰ったら布団の中に居そうだけど。」


 三人はお互いに顔を見合わせて笑う。

 眠そうな目を(こす)りながら、おかえり、と素っ気ない態度をする悠里が頭に浮かんだ。

 そんな会話をする三人を一人の同乗者が微笑ましそうに見ていた。


「四人は仲が良いのだな。」

「ああ、僕と悠里は家が隣同士で、聖と飛鳥は小学校....子供たちが集まって勉強する場所で出会ったんだ。それからよく四人で過ごす様になった。」

「私たちが出会った頃にはもう悠里は悠里でね。暇を見つけるとすぐに寝ようとするのよ。」

「そうそう、あんまり悠里くんが寝ちゃうから心配して、様子を見に行く内に仲良くなってね。」

「そうか、幼馴染だったか。ならば早く帰って安心させねばな。」


 今この馬車が向かっているのは魔物の被害が大きいとされる地域だ。

 魔王へ乗り込む前に、急ぎ救助のいる村を助けに行くのだ。

 王都から出て、幾つかの街を経由して村へ向かう日程になっている。

 最初の街は王都から馬車で半日揺られた先にある、ピネハという街だ。男爵の収める小さな宿場街である。

 道中は何事もなく、馬車は街に着くと真っ直ぐに領主館へ向かった。

 執事服を着た男性が丁寧に出迎える。


「ようこそピネハへいらっしゃいました、勇者様。中で領主様がお待ちです。」


 屋敷の応接室に通されるとそこには領主らしき男が待っていた。

 今日はここに泊まり、明日からは徒歩で次の街を目指すのだ。

 荷物を部屋に下ろし、すぐに夕飯となった。

 領主からの自慢話にひたすら相槌をうち、あっという間に日が暮れる。

 四人は一旦集まり、明日はこのピネハで観光がてらに旅に必要そうなものを探すことで方針が決まった。

 夜、女性人二人の部屋にコンコンとノックの音が鳴る。

 こんな夜更けに女性の部屋を訪ねるとは。

 飛鳥は最悪の事態を想定して身構えた。

 飛鳥の様子を見て聖も身を固くする。


「....私が出るわ。」

「....うん。」


 慎重派の飛鳥は念のため杖を構え、後ろの聖にも動ける体制をとらせて扉を開ける。

 開けた先に立っていたのは亜玲空だった。

 二人は一気に肩の力を抜いた。


「ごめん。驚かせたね?ちょっと良いかな?」

「良いわよ。入って。」


 てっきり三人で旅をすると思っていたら騎士団からジルがついてきた。いきなり信用しろと言われても出来ない。

 そこで人が寝静まる頃を見計らい、亜玲空が訪ねてきたのだ。


「夜に女の子の部屋に来るなんて、誰かに見られたら勘違いされちゃうよ?」

「勇者様は毎晩両手に華で寝てる、とか面白そうね?」


 聖と飛鳥が茶化すと亜玲空は肩をすくめた。


「良いさ、三人で行動する良い言い訳になる。」


 すぐに真剣な顔つきになった亜玲空は二人と話したかった話題を切り出した。

 内容はもちろんジルのことだ。旅立ちの当日の朝、急遽(きゅうきょ)同行が決まったと知らされた。

 名目は悠里が付いていけなかった為、そこを補う。というものだ。


「二人はどう思う?」

「ジルは悪い人じゃないと思うけど、悠里くんの代わり....っていうのは嘘だと思う。だって、前から準備してましたって顔だもん。」


 聖はよく直感で行動することが多い。しかしその直感はよく当たるのだ。

 ジル自体は善人だが指示する側が怪しい、聖はそう感じたようだ。


「どう見ても監視だと思うわ。どうやって連絡するのか分からないけど....。」


 この世界には電話が無い。似たようなものも魔法もそんなものは無い。何かを伝えようとすれば手紙を出すか、伝言を頼むしかないのだ。


「うん、真っ直ぐ領主館に来たから、おそらくは貴族に伝達を頼むんだと思うよ。」


 勇者が逃げたり、余計なことをしないように見張る。それがギルに課せられた使命なのだろう。


「表向きは仲良くしよう。その方が相手の動きも読みやすくなる。僕たちはこの世界を知らな過ぎる。当面は街の様子とか、そういうのに気をつけよう。魔族が何かもよく分からないから。場合によっては話し合いで済むかも知れないし。」


 そう、あくまでも目的は返還の魔法陣である。

 元の場所へ帰る。それが実際に出来るのか、今は魔法陣を魔王が持っていたという古い記録だけが頼りだ。例えあっても使える状態では無い可能性もあるし、そもそも魔法陣自体が存在しない可能性もある。

 動き回るには情報が圧倒的に足りなかった。


 軽い雑談のあと亜玲空が部屋に戻ると寝ていたはずのジルがベッドの上に座っていた。

 だが予想通りだ。

 相手は訓練された騎士である。一ヶ月の付け焼き刃の自分とは別格なこともわかっていた。


「アレク、こんな夜更けに婦人を訪ねるのは感心しない。」


 ジルは静かに、(さと)すようにいう。


「知らない場所でただでさえ不安が多いんだ。可愛い女の子に慰めてもらうくらい良いだろう?」


 亜玲空はわざと誤解を招く言い回しを丁寧に選んで口にした。

 薄暗い月明かりで分かりにくいが、顔を赤くしているように見えた。

 ジルは案外初心かも知れない。

 クスリ、と笑って自分のベッドへ潜り込む。

 何か言いたげなジルの視線を完全に無視して眠りについた。




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