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ジョングルール漫遊記  作者: 小山 静
16/31

16

 


 時は遡り、勇者たちの旅立ちの日。

 豪華な執務室でカリカリとペンを動かす音が響いていた。

 山の様な書類に埋もれながら作業しているのはリムサッカの王、アーデリヒ・ロナウド・テル・リムサッカである。

 コンコンとノックの後、入室許可を聞く声がする。それは今日王城を旅立った一人の人間を監視するために後をつけさせた諜報員だった。


「報告します。異世界人の後を追いましたが、途中で見失いました。」


 信じられない情報だった。

 何せ追った相手は素人の上、ステータス値が常人の十分の一ほどの少年だからだ。

 そのステータスに偽りが無いことは様々な検査で確認が取れている。

 とても玄人(くろうと)の諜報員を()ける様な人物には思えなかった。


「何かあるとは思っていたが、やはり...か。」


 自分の直感が正しかったと国王は頷く。


「貴族街での目撃情報はありますが、平民街へ入った途端に誰の目にも触れておりません。

 黒目黒髪は目立ちますので、間違いないかと。」


 貴族街とは王城の周りにある貴族の屋敷の並ぶ通りを指す。馬車が通る為に道幅が広く隠れる様な障害物は少ない。

 平民街とは貴族街から街の外までの王都の三分の二を占める広い範囲を指している。大通りは広いが屋台もあり、一本道を入れば狭く暗い道が多い。そのため隠れる場所も一気に増え、人も多いので目撃されやすい。

 貴族街までは目撃されているにもかかわらず、平民街に入ると忽然と姿を消すとなると、貴族街にある屋敷の者が手引きしたと考えるの妥当だろう。


「何者かが手引きしたと言いたいのか?」

「おそらくは。」

「目的は何だ?殺しか?他国が絡むと面倒だな。」


 実際は諜報員が平民街を通る頃、貴族街の路地で休憩をとっていたのだが、少年の出立から時間を空けて追いかけた諜報員の頭には自分が相手を追い越したという考えは無かった。

 そして世界に(うと)い少年がギルドで親切心から『変装のピアス』というアーティファクトを貰っているということまでは思い浮かばなかった。


「引き続き捜索致します。」

「頼んだぞ。」


 国王は新たな火種の予感に頭を抱えた。

 しかし後手に回ったものは仕方ない。これからいかに挽回(ばんかい)するか、だろう。

 ため息一つで気持ちを切り替えて目の前の書類に集中する。

 心配する様なことは起こっていないのだが、それを知るのはかなり後になってのことだった。



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