15
持ち上げた時にパチッと静電気のようなものを感じた。
不思議に思った瞬間、俺の頭の中で機械音でアナウンスが流れた。
加護『神のリュート』が解放されました。
スキル『子守唄』が解放されました。
スキル『呪歌』が解放されました。
スキル『鎮魂歌』が解放されました。
スキル『癒歌』が解放されました。
思わず固まる俺。
呆然と手元にある楽器を眺めた。
「これは驚いた。お前さんソイツを持っても何とも無いか?」
「え......?なんかあるんですか?」
お爺さんの言い方にものすごく嫌な予感がする。
そして悪い予感というものはよく当たるものだ。
「そのリュートが呪いの品じゃよ。」
「............」
俺は再び固まった。
思わず小屋の中を見る。そこには怪しげなお札まみれの箱があった。
俺はそれを指で指した。
「じゃあ、あの箱は...?」
「ん?あれか。なんか菓子が入っとったんじゃが、細々したものを入れるのに丁度良くてのぉ。」
俺が呪いの品だと思っていたのはまさかのお菓子の箱だった。
ふぉっふぉっと笑うお爺さん。
――絶対確信犯だ...!
「それは持ち主を選ぶリュートでな。選ばれないものが持とうとすると手が爛れるんじゃ。とても綺麗じゃろう?弾けずとも飾れば良いと思って昔オークションで競り落としたんじゃが、飾ろうにも触れられず結局仕舞い込むことしか出来なんだ。」
確かに綺麗だ。
白磁の様なボディに金で複雑な模様が刻まれている。金が使われているのに成金趣味の様にはならず、上品な美しさだ。
さらに仕舞い込まれていたにもかかわらず新品の様な輝き。わかりやすく言うと、触れるのが怖くなるほど高そう、である。
「よし、お前さん。ソイツをあげよう!」
「ええッ!?頂けませんよこんな高そうなもの。」
「ウチに置いても蔵に入れるくらいしか出来ん。それよりもお前さんと一緒に旅した方がリュートも喜ぶじゃろう。」
「いや、でも俺...」
「人がやると言っておるのだ。素直に受け取らんか。」
押しの強いお爺さんと数回の押し問答の末に結局俺はリュートを受け取った。
「お前さん、弾き方は分かるか?」
「いえ、全く。」
このリュート?どころか楽器は小学校のリコーダーと鍵盤ハーモニカくらいしかまともに触れてない。
「よし、ワシが教えよう。今日はもう遅い。明日から特訓じゃ!」
押しの強いお爺さんはそうと決まれば、とやる気に満ち溢れている。
久々に腕がなる、などと言い出した。
しかし俺にも生活というものがある。
「でも俺は宿代稼ぎに行かないと...。」
「ふむ、そういえば冒険者じゃったな。ランクは?」
「Fです。」
「駆け出しじゃな?では何かと入り用だのう。」
よかった。分かってくれた。このお爺さん押しは強いが話が通じない訳では無い。
「お前さん、ワシが依頼を出すから受注せい。」
「え!?」
通じて無かったかも知れない。俺はそう思い直す。
「上のランクに上がる条件は何回か依頼を受けることじゃろう。ワシが依頼を出してお前さんが受ければ一石二鳥じゃ。」
そんなシステムだったとは、ランクをあげるには条件がいるとは聞いていたがその条件が何なのかまでは聞いてなかった。
依頼をお爺さんが出すということは、俺はお爺さんから習い事をしながら給料をもらうことになる。流石に今日が初対面でそこまでおんぶに抱っこは気が引ける。
「でも、そこまで甘える訳には...。」
「ワシがやりたいからやるのだ。それに、そのリュート...弾き方も分からんまま放っておく気は無いぞ?」
この爺さんは引く気が無いらしい。
「俺、実は仲間を追いかけないといけなくて。」
俺は異世界から召喚されたことは伏せて今までのあらましを説明した。
仲間と逸れており、いずれ合流するつもりであるということも、早く王都から出たいと思っていることも。
「それで?お前さん、見たところ鍛えとらんだろう。街を移動するのにどうやって身を守るつもりじゃ?魔物だけでない。街が近ければ盗賊も出る。力をつけるにも時間がかかろうて。ちょっと寄り道くらい大して変わらん。」
ついでに護身術も叩き込もうかの。
そう言ってお爺さんは笑う。
どのみち俺に選択肢を与えるつもりは無いようだ。
「ところでお前さん、名前は何という?」
すごい今更だが、俺たちはまだ互いの名前さえ知らないことを思い出した。
「ユーリです。ユーリ・サイトウ」
「ユーリか。ワシはヴォルフじゃ。よろしくの。」
ヴォルフさんとの出会いは前途多難である。




