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あれから三日俺はお婆さんの草抜き依頼を受け続けていた。
お婆さん、名前をマリアさんというそうだ。マリアさんともすっかり仲良くなり、休憩にお茶に誘われるほどになっていた。
お礼も兼ねて草抜きだけでなく、倉庫の屋根の修理や薪割りもやった。薪割りは想像以上に体力を使う。ちょっとやっただけで筋肉痛に苦しめられる。
あの薪割りの依頼だけは絶対受けない。
俺はそう心に決めた。
「ユーリが来てくれると助かるわぁ。一人だと何かと不便でねぇ。」
「こちらこそ、お菓子をありがとうございます。美味しいです。」
ぽりぽりとクッキーを食べる。お婆さんの手作りクッキーは素朴な味わいでいくらでも手が伸びてしまう。
「そろそろお庭も綺麗になったし、依頼は今日で終わりにしようと思っているの。」
本当はずっと居てほしいわぁ、と笑う。
俺もこんなのんびりできて収入になるならずっと受けたいくらいだが、もうちょっと稼がないと手持ちのお金はじわじわ減る一方だ。宿代一泊銀貨一枚。それが最低限必要な一日の稼ぎでもある。
この依頼は銅貨五枚。最初貰った薬草も今は俺が作った手作り花壇にマリアさんのお花と混じって生えている。
宿代だけでなく、食事代も稼ぎたいため、他の依頼を受ける必要があるのだ。
「お世話になったわねぇ。」
「俺の方こそ、ありがとうございます。」
「今度は依頼じゃなく、遊びにいらっしゃい。待ってるわぁ。」
最後の依頼書にサインを貰って俺はギルドへ向かう。
夕方のラッシュ時を避けるためちょっと早い時間にギルドへ着く。
受付に依頼書を出して終わり。
いつも通り依頼書を受け取ったリナさんが報酬を持ってくる。
だが、お盆の上には銅貨ではなく、銀貨が乗っていた。
「御礼だそうですよ?丁寧な言葉遣いで依頼書に無い作業もして貰えて、とても良かったと嬉しそうに話されていましたよ。」
「マリアさん....。」
マリアさんは朝早くにギルドへ来ては依頼を出し、今回の報酬は依頼書に書かず渡すように預けていったのだそうだ。
お盆に乗っているのは銀貨が五枚。
十倍の報酬だ。
「それとお手紙もありますよ。」
渡されたのはメッセージカードだ。
宛名は“新しい私の友人へ”。
マリアさんらしい茶目っ気のある書き出しで、お礼の言葉が並んでいる。
俺は嬉しくなって、大事にカードを鞄に仕舞った。
翌日、俺は依頼ボードの前で悩んでいた。
草抜きの依頼が貼られていないボードに残っているのは前回もあった依頼、
・ドブさらい
・倉庫整理
・薪割り
そして新たに怪しげな依頼が一件。
・被験者募集。命の安全は保証します。薬を飲むだけの簡単なお仕事です。金貨一枚。
――いやいや、命が有れば良いってもんじゃ無いだろ。怪しすぎる。
心の中でツッコミを入れてもう一度依頼ボードを見る。
薪割り...は無理だろう。マリアさんのところで少しやってみて分かった。あれを一キロ分やろうと思うと日が暮れる。それで銅貨一枚ではやっていられない。
残るはドブさらいか倉庫整理。
ドブさらいとなれば汚れるだろう。臭い、とも聞く。洗濯機以前に洗剤もなく、水洗いしか出来ない状態で受ければ間違いなく毎日臭い服を着回しする事になるだろう。
支給された服は着替えも含めて三着。出来る限り汚したく無いのが心情だ。
ということは、倉庫整理一択になる。
気になるのは呪いのアイテム注意。
どんな呪いのアイテムなのか、触っても良いものか、呪いにかかっても回復する手段があるのか。
依頼を受ける前に聞いた方が良いだろう。
しかし他に選択肢は無い。俺は依頼書を持って受付に向かう。
依頼書を見たリナさんは思いっきり顔を顰めてため息をついた。
「こういう依頼はお勧めしません。というか、いい加減朝に来てくれませんか?ユーリさんでも出来そうな依頼を紹介しようと思うのに、来るのが遅いから他の方に回す羽目になるじゃないですか。」
俺に合う依頼を毎日探してくれていたようだ。マリアさんといい、この世界の人は親切な人が多いようだ。
「ありがとう。気持ちだけでも嬉しい。」
「べ、別に心配したわけではありませんよ。ギルド職員として、より良い仕事を斡旋するのは当然です!」
優秀な受付嬢だ。一人一人にそこまで気を配るなんて。
心なしかリナさんの頬が赤い気がする。無理して風邪をひいたりしなければ良いが。
倉庫整理の依頼は依頼主に呪いのアイテムについて確認を取ってから受けることになった。




