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着いた場所はそこそこ庭のある一軒家だった。
土地の境目に沿って申し訳程度に木の杭とロープで境界が作られている。
玄関までは最低限の手入れがされており、花が趣味なのか、ところどころ手作りの花壇があった。
訪ねると人の良さそうなお婆さんが出てきた。
「草抜きの依頼を受けた冒険者です。」
「ああ、アレね!受けてくれたのかい?ありがとう。さっそく案内しようかしらね。」
そう言って案内されたのは家の裏側である。
境界線の杭が完全に草で埋もれている。周りの家が塀を作ってくれているお陰でどこまでやればいいのか分かるが、結構な広さだ。
よく見ると草に埋もれて低木がある様だ。本来ならばアレが塀の代わりなのだろう。
「家の前はなんとか自分でやるんだけどねぇ、裏まで手が回らないのよ。それで時々依頼を出すのだけれど、なかなか人が来なくてねぇ。」
そう言ってお婆さんはコロコロと笑う。
笑い事じゃ済まないくらいには凄い状態だと思うのだが、お婆さんにこの庭の草抜きはきついだろうとわかる。
大きい草だけ抜いて歩けるようにしてくれたら良いと言う。
俺はさっそく草抜き作業に取り掛かった。
途中休憩を挟みつつ作業を進めて行く。
昼に始めてあっという間に夕方になる。
大きい草だけで良いと言ってくれたこともあり、粗方抜くことが出来た。
何とか低木がわかるし、人の腰まであった草の山は足元の靴を隠す程度になった。
根っこを抜いた後がボコボコしているがしょうがないだろう。
終わったことをお婆さんに報告へ行く。
「まぁ!ありがとうね。だいぶ片付いたわ!」
お婆さんは徐に抜いた草の山に近づくと、その中から何本かを引き抜いた。
「これは薬草よ。ギルドなら買い取ってくれると思うわ。お礼と言ったらアレだけれど、良かったら受け取ってちょうだい。もちろん依頼料は別でちゃんと払うわ。」
「ありがとうございます。」
それは亡くなったご主人の趣味で育てていた薬草らしく、手が回らず伸び放題だったものだそう。
雑草との見分けは全くつかないが、俺はありがたく頂くことにした。
帰りに続けて依頼を出すから受けてほしいとお婆さんに頼まれた。一日一回で金額は同じ銅貨五枚。庭いじりが出来るくらいまで草抜きしたいそうだ。もちろん薬草があればお礼にあげると。
俺の仕事は二、三日は草抜きになりそうだ。
ギルドに戻った俺は依頼達成のサインを貰った依頼書を持ってリナさんのいる受付に並ぶ。
夕方はちょうど依頼の終わった冒険者が集まるらしく、ギルド内は人でごった返していた。
筋骨隆々な男たちがひしめき合う様子はとても暑苦しい。
揉みくちゃにされながらやっと窓口に着くと、リナさんが笑っている。
「ふふっ!お疲れ様でした。依頼はどうでした?....っぷ!」
「....何とか達成したよ。」
くたびれた様子の俺がツボにはまったらしく、笑いながら依頼書を受け取る。
「はい...。確かに.....ふふ.....。では報酬をお持ちします....くっ....ね。」
笑いながらで会話がしづらい。
「そんなに笑うこと無いだろ...。」
「だって、ユーリさん軽く当たっただけで転けたり、順番抜かしされても気づいて無いし、それで冒険者とか...ふふっ!」
一般の人から見ると怖がられることの多い荒くれ者の集団にか弱い俺が混ざろうとして失敗するのが面白いのだという。
――結構性格悪いな、リナさん。
報酬を取りに行くついでに心を落ち着かせたらしく、戻ったリナさんは普段通りになっていた。
「では、こちらが報酬の銅貨ですね。」
「ありがとう。」
銅貨の枚数を確認して巾着に仕舞う。
そこでお婆さんに渡された薬草を思い出した。
確か薬草採取は常設依頼、受付に品を出せばよかったはず。
依頼が草抜きだったので根っこまでついているそれをカウンターに出す。
「今日の依頼で貰ったんだ。買い取って貰えるか?」
「これは薬草ですね。査定して金額を決めますので少々お待ちください。」
薬草を持って裏に行く、そしてすぐに戻ってきた。手に持ったお盆には銅貨が乗っている。
「お待たせしました。薬草5株で銅貨五枚です。引き抜いた跡で少々傷んでましたので、最低価格での買取になります。」
草抜きの報酬と薬草で合わせて銅貨十枚、銅貨は十枚で銀貨一枚なので、今日一日で宿代一泊分。初めてにしてはなかなか稼げたんじゃ無いだろうか?
俺はホクホク顔で宿屋へ戻った。




