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翌朝、正確に言うと昼頃、俺は起き出した。目覚ましが無いとこうなると予想していた為に昨日は朝食を頼まなかったが、正解だったようだ。
下に降りると既に何処かで一仕事終えた人たちがお昼ご飯を食べに集まっていた。良い匂いが食堂一杯に広がっている。
昨日は居なかった若い女性の店員が空いた皿を届けに厨房へ引っ込む。
女将も忙しそうに走り回りながら食事を運んでいた。
「ああ、お客さん!今起きたのかい?朝食の時間はとっくに終わっちまったよ!」
女将はそう言ってすぐ別のお客さんに呼ばれて走って行く。
俺はとりあえず腹ごしらえ、と空いてる席に座った。
お客さんの料理を運び終わった女将が目敏く俺に気づいてテーブルまで来てくれた。
「お客さんは何にするんだい?」
そう言われてもメニューは見当たらない。
「えっと何か軽めのもので」
「そういや、朝ごはんだったねぇ!シチューがあるよ、それで良いかい?」
「はい、お願いします。」
「飲み物は?水かお茶だけど。」
「水で。」
「あいよ。」
金額が分からないまま頼むことに不安を覚えた俺は安そうな水を頼んだ。
すぐに温かいシチューが出される。シチューと聞いて白いスープを思い浮かべていたのだが、どういう訳か緑だった。具材もジャガイモの様なものが青く、赤々としたにんじんが彩りを添える斬新な見た目だ。
さすが、異世界ってことだろうか?
色以外はシチューなので、覚悟を決めて恐る恐るくちにする。
――うまい。
肉は柔らかく旨味が凄い。野菜の優しい甘さがスープと混ざりほんのりとした塩気が最高である。
「....美味い。」
気づけば、思わずそう零していた。
「だろう?ウチの旦那の作る料理は最高さ!あたしはこの料理に惚れんたんだ!」
女将さんが上機嫌に返してくれる。
また言ってるよ、と笑う客がいるところを見るといつも自慢しているのだろう。
しかし、これは本当に美味しい。
気がつくと皿は綺麗に空っぽになっていた。
ほんの少し寂しい気持ちになったが、元気も出た。
――ここの美味しいご飯を食べる為にも、稼がないとな。
俺は食事の代金を払って宿を出た。
ちなみに気になっていた代金は銅貨三枚だった。一番高い料理でも銅貨五枚だそうで、安心して食事が出来る。
昼過ぎのギルドは昨日と同じく空いていた。
俺担当になった受付嬢、リナさんが昨日と同じく一人で受付をやっていた。
俺は先に依頼の貼られたボードの前に立つ。
低ランクの依頼が貼られたボードはほとんどが剥がされて寂しげである。残っているFランクの依頼は
・臭い・汚い・安いの三拍子が揃っていることで有名なドブさらい、銅貨三枚。
・庭全体というざっくりした範囲でどのくらい掛かるか不明すぎる草抜き、銅貨5枚。
・割と破格だが、注意書きに呪いのアイテム注意と書かれた倉庫の片付け、銀貨一枚。
・明らかな重労働の薪割り、一クラ(一キロくらい)ごとに銅貨一枚。
だった。
どれも人気が無いのだろう。倉庫の片付けに至っては紙の色が日焼けで変色している。長い間放置されている証だろう。
ファンタジーの定番、薬草採取はいつでも受注出来る常設依頼となっているが、魔物の出る場所へ出向く必要があり、今の俺には出来ない。
体力を考えて薪割りも不可だろう。
残るはドブさらいか草抜きだが、これならば草抜きの方が安全だろう。
俺は依頼書を壁からちぎるとリナさんの元に持っていく。
「この依頼を頼む。」
「はい。....って、ユーリさん、早く来ないと良い依頼は無いって言ったじゃないですか!この依頼書なんて良い例ですよ!」
いきなり説教が始まった。
この依頼書の人気の無い点を挙げていく。
まずは内容がはっきりしてないこと。草抜きと表して全く違う作業が待っている可能性がある、とのこと。
依頼主が名前しか無いこと。苗字を持たない平民で、金額も安いとなると終わった後に賃金を払えない場合があるんだそう。
あと、明確な期限が書かれていないこと。一度受けたら最後、一生やれと言われる可能性がある。
つまりは、普通の冒険者は受けない依頼なのだ。それでこの時間まで残っていたわけだ。
「これでも出来るだけ早く来たんだ。他の依頼も似たような物だし、これを受けたい。」
「.....はぁ。もう、どうなっても知りませんよ?」
投げやりな態度で依頼書を受注する。
依頼のあった家までの地図をもらい、早速仕事へ向かった。




