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ジョングルール漫遊記  作者: 小山 静
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 暖かい午後の日差しが若い少年たちの集まる部屋に注いでいた。

 規則正しく並んだ机の上に教科書とノートを並べて少年たちは前に立つ男に意識を向ける。

 空調の整った部屋の中、教鞭(きょうべん)を奮う髪の毛の乏しい中年の男がカツカツとリズミカルな音を立てて黒板に文字を書き込んでいく。


 日差しの当たる窓際、一番後ろの席は俺のお気に入りだ。

 特に午後の歴史の授業は最高である。

 先生の長い話とリズミカルなチョークの音は俺を夢の世界へ簡単に連れて行く。

 俺はノートを書く振りをしてそっと頭を教科書の上に乗せた。

 歴史の教科書は厚く、下に資料集を重ねるとなかなかのクッションとなる。


 ――机に直は痛いからな。


「おい、斉藤!毎回俺の授業で寝るんじゃない!」


 ――何か言っている気がするが、無視だ。無視。


 降り注ぐ暖かな日差しに包まれて俺の意識は旅立って....。


「聞いてんのかッ!」


 バシッ!と良い音を立てて俺の頭に丸めた教科書が直撃する。

 せっかく旅立ちの準備を終えていた俺の意識は一気に覚まされる。

 気怠げに先生を見上げると、そこには青筋を立てたハゲがいた。

 クスクスと周りから小さな笑いが起こった。


 ――仕方ない。


 俺は何も言わずにそっと姿勢を戻す。

 全く、っと呟いてハゲ...じゃなく先生は黒板の前へ移動した。









 キーンコーンカーンコーン


 間延びしたチャイムを聞きながら俺は机に伏せていた。

 ちなみに今は歴史の授業中ではない。

 ホームルームも終わり、同級生たちはいそいそと部活へ向かっている。

 俺は帰宅部なのですることも無い。

 帰り支度を整えたら家に帰ってもうひと眠りしたいところだ。

 ただまだ眠気が残っている。

 ここで帰宅すれば途中の電車で寝過ごすこと間違いなしだ。

 実際、車庫まで気付かれなかったことさえある。

 という訳で、俺は帰りの英気を養うべく昼寝をしていた。

 この席になってからは本当に眠くて困っている。

 良い角度で当たる日差しが最高すぎるのだ。


「おーい!悠里(ユーリ)!起きろー!」


 突然乱暴に揺さぶられた俺は嫌そうな顔を一つも隠さずに顔を上げた。

 俺の眠りを妨げる様な横暴な真似をする人物を俺は一人しか知らない。

 茶色の髪と黒の目をした男が俺を見下ろしてる。

 クオーターだかなんだかで、こいつは完全な日本人でありながら思い切り顔はハーフなのだ。

 こいつは俺の幼馴染、隣に住んでる木関(コセキ)亜玲空(アレク)だ。


「もう部活終わったのかよ?」

「とっくにな。もうみんな帰ってるぜ。」


 呆れた様に肩をすくめて亜玲空(アレク)はいう。

 確かに言われてみれば外がもう薄暗い気がする。

 世話焼きな亜玲空(アレク)は俺をわざわざ迎えに来てくれた様だ。というか、ほぼ毎日迎えに来ている。

 はっきり言ってイケメンの部類に入るハーフ顔なのに彼女が居たという話を聞いた事がない。

 俺との男色疑惑をかけられるくらいには聞かない。

 俺は荷物を確認して鞄を持つ。

 ようやく立ち上がると、遠くからパタパタと走る音が聞こえてきた。


亜玲空(アレク)くん!悠里(ユーリ)くんの回収終わったー?」


 ひょっこり顔を出したのは可愛いらしい女の子。

 小柄で大きな目をしている。そして発育のいい身体つき、ついつい目がいってしまう。

 男子生徒に大人気の小鳥遊(タカナシ)(ノエル)だ。

 その後ろには強気そうな女の子。

 聖を可愛いと表すなら、美人と言った感じのする佐野(サノ)飛鳥(アスカ)

 俺たち四人は小学校からの幼馴染だ。


「悠里もいい加減自分で起きなさいよ。」


 聞き飽きた台詞を思いっきりスルーして俺は帰ろうと一歩踏み出した。


 すると、教室全体が金色に輝き始めたのだ。

 何かスイッチでも押したみたいな急激な光に俺たちはパニックになった。


「うわぁあッ!?」

「...ッ!?」

「きゃぁッ!!」

「何これッ!?」


 光は収まるどころか強くなって俺たちの視界を飲み込んだ。











「................ごめ....。」


かすかに遠くで誰かが謝っている。

誰か分からない。

何を謝っているのかも。

俺はぼんやりとそれを眺めていた。







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