突然の再会
なんだそれ。そんな話聞いたことない。
「ああ、今年はとびきりの美少女が入学したらしい。詳しくは知らないが……他のサークルも彼女を狙っている」
「なるほどね……」
「我がサークルにも来て欲しいから、頑張って見つけてくれ」
「……やれるだけやってみるよ」
誠也の言葉に従い、看板を拾い直してから新入生の群れに突入する。一人だと気恥ずかしいので他のサークルに紛れた。
「うちのサークルに来ませんかー」
一度も参加していないのに“うち”とはどういうことだろうか。
頭を捻りながら最大限の声量を出すが誰も耳を傾けない。もう一度繰り返すが結果は変わらず、それどころか群れを押し出されてしまった。
直ぐに撤退すると誠也が目に手を当てていた。
「ハァ……興味あるときのお前は人が変わるのに。なんで振り幅がでかいんだ」
興味がないわけではないけど……今日はやる気が出ない。
「後、令嬢は居なかったよ」
「もっと中心の方にいるのか。棒立ちでいいから、そこで待っていろ」
それだけ言い残して、誠也は集団の中に紛れ込んでしまった。
孤立したことでサークルメンバーの視線が痛い。
「……別のところで勧誘しよう」
最低限働けば誠也も許してくれるだろう。
そそくさと立ち去り、集団から離れる。
数メートル程移動すれば騒がしさは途端に聞こえなくなる。体育館から少し遠い所にあるベンチに腰を下ろし、貰ったゼリーを飲みながら新入生と在校生が入り混じった光景を俯瞰した。
新しい扉を開こうとしている者や勧誘の圧に怯える人など、差異はあるがあの場所にいる誰もが光を放っている。
既に僕には存在しない、眩しい輝き。
「……今頃なにしているかな」
ふと、三か月前に消えた少女のことを思い出す。あれ程付き纏っていたのに突然この街から消えてしまった彼女。我ながら女々しいがどうしても忘れられない。
思案に耽っていると、群衆の喧噪が消えた。
「急にどうしたんだ?」
元居た場所に目をやると一人の女子が体育館から姿を見せた。
吹き風で棚引く漆黒の髪。スーツからすらりと伸びた白い肌。
「……なんで、あいつが」
突然の再会に動揺を隠せない。何故、彼女がここにいるんだ。
人混みにも関わらず、髪を揺らしながら彼女は悠々と歩いている。
噂の令嬢が登場したのに誰も声をかけない。それどころか避けるように道を開けていた。
モーセの如く彼女は狭間を通る。出口を過ぎると、一直線に僕のところへ歩み寄った。
「久しぶり、ヒロ。また会えたね」
「………ユイ」
名前を呼ばれて嬉しいのか、下限の既朔のような笑みをユイは浮かべる。
三か月前に消えた――――いや、三年前に僕を殺そうとしていた少女が僕を見つめていた。