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春が来た

 僕が通っている大学は県内でも有名な国立校だ。立地も駅や繁華街に近いなど便利な場所に建てられている。敷地内には様々な研究施設があり、高度な専門分野が学べるというのを大々的に宣伝しているので全国から挙って人が集まっていた。

 その分入試倍率も高いのだが……奇跡的に合格することができ、今日も学生生活を謳歌している。


「おーい、ミズノー」


 駐車場に車を停めようとしていると階段先で友人が両手を振っていた。

 綺麗にバックで入れ、エンジンを切る。扉を開け、彼の元へ走り出した。


「ごめん誠也。少し遅れた」


 息絶え絶えになりながら友人――三尾誠也に頭を下げる。


「まだ式の途中だからセーフだ。それにしても時間を必ず守るお前が遅刻なんて、珍しいな」

「……ちょっと夢見が悪くて」


 この時期になると必ず夢に現れる。三年前、夜道で遭遇した日のこと。

 忘れないよう戒めているのか、それともずっと囚われているのか。

 どちらにせよ、あの光景が目に焼き付いて離れない。


「大丈夫か? 顔色悪いぞ」


 心配したのか、誠也は僕の顔を覗き込んだ。


「……朝食べるのを忘れてさ。もしかしたらそれが原因かも」


 勿論、嘘だ。誠也を誤魔化す為についたにすぎない。仮に本当のことを言った所で信じないだろう。


「なんだ、心配させるなよ。俺が後でなんか奢ってやるから早く行くぞ」


 ほっとした誠也の表情。どうやら上手く騙せたみたいだ。

 安心した彼は僕の後ろに回り、背中を押した。

 僕の意思を無視して動く足。

 あの日から時が進んでいないことを暗に示していた。



「で、この状況はなに」


 入学式真っ只中の体育館の入り口付近で僕は看板を片手に、栄養補助食品のゼリーを片手に持っていた。隣では僕と似た格好で誠也が座っている。


「なにって……ミズノには我がサークルの広告塔になって貰おうと」

「――――広告塔ってどういうこと? 僕は名前を貸しているだけでこのサークルに一度も来たことがないんだぞ」

「大丈夫だって。幽霊部員のお前がいても特に誰も言わないし。それに、さっき飯奢っただろ」

 

 誠也が意地悪い顔で揶揄ってくる。

 承諾した僕も僕だが人の弱みにつけこみすぎではないか。


「……詐欺だ」


 項垂れながら愚痴を零す。

 それを見た誠也は立ち上ると僕の肩を豪快に叩いた。


「いい経験になったな……っと、新入生のお出ましだ。まあ、報酬分ぐらいはきちっと働けよ」


 体育館の扉に視線を向けると中から新入生と思わしき人が溢れ出ていた。着慣れていないスーツに身を包み、革靴特有の足音を鳴らしている。

 数年前の自分を見ているようでなんだか感慨深い。


「入学おめでとう! この後にサークルやるから、良かったら見に来ない?」


 誠也は如何にも好青年らしい姿で声をかけた。先程とはえらく違い、白い歯を見せている。

 それを見た新入生、もとい女子が歓声を上げていた。


「また始まったよ……」


 誠也はかなりの美男子だ。灰色に染め上げたソフトモヒカンと筋肉質の浅黒い肌が男らしさを際立たせている。精悍な顔立ちと亭々たる背丈もあってかモデルに間違われる程だ。

 中学からの付き合いだが……彼の容姿に目を奪われた女子は数知れず。この大学でも密かにファンクラブが設立されていた。


「おいおい、真面目にやってるか?」


 口説きが終わったのか、誠也は看板を肩に担ぎながら元に戻った。慌てて背筋を正したが疑いの目で僕を見つめていた。


「ちゃんとやってるよ」

「ダウト。横目で見ていたからさぼっていたのがバレバレ。ったく……金返して貰うぞ」


 ……なんとも視野が広いこと。

 

「……分かった。次は僕も勧誘する」

「ちゃんとやれよ? サークルの存続が懸かっているんだからさ。できれば噂の令嬢を誘って欲しいが……」

「噂の令嬢?」

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