表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

願いが叶うならばあなたにー

作者: ユウキ
掲載日:2020/08/29

勢いで書き上げたので、お目汚しでしたら申し訳ない。よろしくお願いします。

 やっと、過酷な旅が終わりを迎える。


 女でありながら勇者として使命を与えられ、神官や魔術師を伴って旅を始めた。

 途中で多くの魔物を倒しては、神官の力で浄化を行う日々。

 行く先々で人々の嘆き、悲しみ、恨みを見続け、「なぜもっと早く来てくれなかったのか」と、場違いな怒りも受けた。

 しかし同じだけ感謝され、さまざまな喜びもあった。

 新たな仲間が加わり、絆は強固となり、強力な魔物を倒しきり、残るは魔王だけとなった。


 切り立った崖の上に立つ魔王城の最上階に駆け込み対峙した魔王は、感情のない暗い目をした、ひどく美しい容貌の人型の強大な力を持つ魔物だった。


 魔物は人の発する負の感情が、瘴気となって淀んで溜まり、限界まで凝縮されたときに生み出されるらしい。なので感情というものは、無いと言われている。確かに今まで対峙してきた様々な魔物に感情があった試しはない。

 只ひたすらに暴虐の限りを尽くすだけだ。


 そんなひどく歪な存在は、時々爆発的に生み出される。


 撃ち合い、躱し、時に攻撃を受け、重症を負いながらも、最後の力を振り絞った一撃で大きく抉れた胸部の中心に魔王の魔核が見え、魔王は地に倒れ伏して動かなくなった。

 後はそれを取り出すことで、本当の終わりと言える。


 背後に倒れてはいるが、なんとか生きている仲間の気配を感じながら、聖剣を杖代わりに一歩一歩と近づく。滴る血が床を濡らす。こんな距離が遠く感じる。


 やっとたどり着いた魔王の傍に膝をつき、魔核へ手を伸ばした。


 あぁ、長かった。何故こんな重責が私の身にと何度思ったことだろう。

 勇者として使命を受けてから今までの旅が走馬灯のように流れていく。

 そして魔核に手が触れた瞬間に、頭に言葉が浮かんだ。

 まるで真っ白な紙に文字だけが音もなくジワリと滲むように。



 ── あなたは何を願う?



 疲労からか、その浮かんだ言葉に疑問など持たなかった。


 何を………… 何を………



 ── あなたは何を願う?



 私……は……


 何故襲われるのか。何のために魔物は生まれてくるのか。焚いた火を見つめて何度思ったことだろう。考えても仕方ないことだと何度眠りや戦いに逃げたことだろう。



 ── 何を願う?



 全てとは言わない……だけど……


 だけど考えずには居られなかった。

 もしも、もしも……っ!




「 魔物(あなた)にも……心を…… 」



 頬を一雫の涙が零れ落ちた。

 その瞬間に、触れた魔核がカッと眩い光を放ち、世界を包む。

 あまりの眩しさに咄嗟に目を腕で庇うように塞いだが、特に痛みがあるわけでもなかった。


 光が収まると、私はまだ眩む目を瞬かせ、気配を探った。すると下げた手首が、がっしりと握り込まれた。


「しまった、聖剣は……?!」


 まだチカチカする目を細めて、なんとか見ると、眩む視界の中から倒したはずの魔王が浮かび上がった。


 信じられない光景に目を大きく見開く。

 倒したはずだ。ざっくりと切りつけた胸は切って抉れ、魔核が剥き出しになっていたのだ。こんなことは無いはずだ。


 慌てる私を、魔王は逃すものかと言うように、動きを制してくる。そんな中で胸元を見ると、傷は塞がっているが、裂けた服だけが確かにそこを切りつけ抉ったのだと物語っていた。


 無理だ、皆傷を負って、魔力も体力も限界だったのだ。今の状況で再戦などしても勝てる見込みなど無いに等しい。

 私は遂に立ち上がろうと膝を立てていた体勢から、床へと座り込んだ。


 せめて仲間だけは助けられないか、相打ちになれないかと考え、眼前の魔王を見据えた。


 すると、目がしっかりとかち合った魔王は徐に口を開いた。



「名は……?」


「………………………………は?」


「名は何というのだ?」



 幻聴だろうか?魔王が名を聞いている?疲れがピークで白昼夢でも見ているのだろうか?


「教えてくれぬのか…………?」


「ぃゃ、ぇーーー、ヴァレリアーナで……す…けど?」


「そうか、ヴァレ………リアーナ。うむ」



 さっきの光で目がやられたのかな?口角持ち上がってますけど?ガラス玉の様だった黒い瞳が動いて意思の光が見える??死闘を繰り広げていた時は彫刻のように動かなかった顔面は?ドユコト??


「我にも名が欲しいのだが」


 あぁ、夢かなコレ?


「デ……デラセイラムとかどうかな」


 なぁーんて。ノリで答えてみたんだけど


「デラセイラム。良い名だ。うむ。気に入った」


 気に入られちゃったよ?!

 しかも魔王は穏やかに、噛み締める様に微笑んでいる。

 あぁ分かった、こりゃ本格的に寝てるんだな私。明晰夢ってやつかな?ほら、魔王ってばパァッと煌めいている。エフェクト付きなんてさすが夢!

 それにしてもココまで近くで見ると、彫刻めいた顔立ちだなぁ。黒く艶々な長い黒髪。切れ長の目に整った眉。通った鼻梁に薄い唇。

 夢ついでに聞いてみるかと、すっかり力を抜いた私はそのまま質問した。


「魔王は……というか人型の魔物はなんでそんな整った容貌をしてるの?」


「デラセイラムと付けたのだから、其方はちゃんと付けた名でよべ。

 見てくれか?そうだな、これで人は惑い躊躇い隙を作ると知っているからだろう。我らの元は人の負の部分だ。生まれ落ちる際に形作られる過程で美醜もそこに左右される……からであろうな」


「ほう。なるほど」


 筋が通っている。なるほど。感心したように頷くと、魔王デラセイラムは、握り込まれた手首を解放して、私の両手を大きな掌で包むように挟む。


「温かいのだな」


「まお……デラセイラムは冷んやりしているんだね」


 夢なのにリアルな感触に思わず笑ってしまう。魔王デラセイラムも一緒に微笑んだ。


「そんな顔で笑ったらズルいなぁ」


「ズルい?そうか……そうだヴァレリアーナ、もう今は我しかこの地には居らぬ。これから時間がかかって行けば仲間と呼べるような、我の同族が出来るかも知れぬ。しかし、我は……ヴァレリアーナにこそ、そばにいて欲しいと思うのだ。どうだろうか?」


「うーーん、そうだねぇ」


 私は考えてみた。確かにココにぼっちじゃ可哀想かな。


「私は……故郷に大事な両親や友人も居るから是とは言えないなぁ」


「そう……か」


 しゅんと寂しそうに項垂れた様な魔王デラセイラムに、苦笑をこぼして私は続けた。


「だから、デラセイラムが来たら良いんじゃ無いかなぁ?一人だっていうなら、ココの場所じゃなきゃダメじゃなきゃ、一緒にさ。その先はどうなるか分からない。そんなんじゃだめかな?」


「一緒……良いのか?」


「旅は道連れって言うし……ね」


 そう言って私は夢の終わりが来たのか、限界が来たのか、そこでフッと記憶が途切れたのだった。


 ***


 そしてどれくらいの時間が立ったのか、分からないけど、目が覚めた時柔らかいものの上に寝ていた。


「う…………」


 私を呼ぶ仲間の声が聞こえた。


「みん、な?無事?」


 頭だけ動かして、声の方向へ向けると仲間が一塊りとなって座り込んでいる。


「?なんで遠いし?なんで怖い顔で青褪めてるの?」


 それにしても変な感触だと、後頭部で柔らかさを確かめるように動かしていると、クスクスと間近から笑う声がした。


「擽ったいであろう?」


「はぇ?!」


 すると視界に覗き込む様な姿勢で整った美麗な顔が入り込む。


「…………!?!?まっ!」


「デラセイラムであろう?ちゃんと付けた名で呼ばぬか」


「デラ……?!」


 その瞬間さっきの夢の出来事が、思い起こされた。


「あれ?まだ夢??」


 私の呟きが聞こえたのか、仲間の一人、神官であるオスカーが叫んだ。


「ばかかー?!ヴァル!!お前今人質中ー!!」


「へ?人質?」


「我はヴァレリアーナの目覚めを待っていただけだ。人質にはしておらんぞ。

 それにしても羨ましい。我も愛称で呼んで良いか?」


「あ、うん?」


 生返事を了承と取ったのか、魔王デラセイラムは嬉しそうに「ヴァル」と数度呼んで微笑んだ。

 私は混乱するままに上半身を起こしてあぐらをかいた姿勢で座り込んだ。


「あー、ちょっと待って。状況を整理しよう」


 青褪めた顔で驚愕する仲間たちは、何も言えずに固まっている。


「コレ、夢ジャナイ?」


「「「現実だばかーーー!!」」」


 途端に叫んで答えてくれた。弓使いのトルースはアドバイスまでくれる。


「ほっぺでもつねりなさいよー!」


 そうかと頬を抓ると痛みを感じて「痛い」と零した。


「と、するとー。現実な訳で。デラセイラム?って事はさっきのも、夢ジャナカッタ??」


「我は夢など見ぬが……先ほど我に名をつけて一緒に行こうとヴァルは約束してくれたぞ」


「…………ほほぅ」


 夢じゃなかったかー……と冷や汗を内心かきながら、頭を巡らせる。


「ぇーーーっとですね、デラセイラムは、今後危害を加えないでくれる?」


「うむ、勿論だ。約束しよう」


「と、言うことなんで、ちょっとみんな来てくれるー?」


「「「は?!」」」


 なんとかお願いにお願いを重ねてじりじりと寄って来てくれた仲間たちは、一時休戦と言う体で話をした。


 ***


「それじゃ、不用意にヴァルが口にした願いが、魔核の力の大半を使って、これ迄の理を曲げるほどの力を持ってかなえられた……と?」


「そうだ」


 神官のオスカーは十字飾りのついた長い杖を抱えながら確認した内容に、魔王デラセイラムが頷いた。


「…そして、ヴァルがうっかり自分の血がついた手で魔王に触れ(触れられ?)て、うっかり魔王に名前をつけて、契約しちゃったってことなの?」


「そうみたい」


 頭痛を耐える様にこめかみを押さえて確認したトルースに、私は目を泳がせながらお返事をした。

 いやぁ、微笑んだ時に光って見えたのは、夢の中でのキラキラエフェクトではなく、対等な従属関係を結ぶ契約を成したからだそう。


「いやぁ〜やっちゃった?てへ??」



 ……ごまかし笑いはどうやら聞かない様だ。私も通常ならそう思うよ。でもさ、死闘の後だったんだよ。ゴメン。そんな残念なものを見る目で見ないで。


「どうすんの?これからまた戦い直すのか?」


 ほぼ魔力無いけどなと、付け足して遠い目をしながら力なく笑うのは、魔術師のクライド。

 安心して、私もちょこっとしか無い。


「我はもう戦わないとヴァルと約束した。ヴァルが言わない限り戦わない」


「「「「………」」」」



 正義を掲げて戦ってきた私たちに、無抵抗な人(魔王)を屠ると言うことに、躊躇い……というか出来る気がしない。


 ***


 2年ぶりに戻ってきた王宮謁見の間。


 深い青に銀糸が彩る豪奢な絨毯に、私たち5人は膝をつき、国王の許しがあるまで頭を下げて並んで待っている。


「頭をあげよ。長き旅、大儀であった。

 証拠として献上された魔王の髪は、確認した。魔核が砕け散ったというなら、致し方ない。これを持って、魔王討伐の命を解く。

 褒美はそれぞれ与える。もし希望があるなら先に言うが良い。出来うる限り叶えると約束しよう」


「「「「「ありがとうございます」」」」」


「して、勇者ヴァレリアーナは辺境領へ戻り、復興と魔物討伐をすると言うには変わらぬか?」


「はい、陛下。全てが無くなったわけではありません。故郷の力になりたいのです」


「そうか、途中で加わった冒険者デラセイラムも共に向かうと聞いておる。戦力が離れるのは惜しいが、辺境で食い止めてくれると言うのは、ありがたいことだしなぁ。

 では、力を貸して欲しい時は呼び出そう。その時は快く受けてくれるか?」


「はい、陛下。その時は急ぎ駆けつけると約束いたします」


「そうか、頼んだぞ。

 では、疲れたであろう、皆ゆっくりと休んでくれ」


 陛下のお言葉で、謁見の間から下り与えられた部屋にそれぞれ戻る事となった。


 あの魔王城での話し合いで、魔王は死んだ事にして、証拠として魔力の含んだ髪をバッサリと切り取り、献上することにした。

 魔王デラセイラムは、旅に途中で討伐に加わった冒険者デラセイラムとして装い、帰りの旅に同行した。

 まさか王城まで来るとは思ってなかった。辺境領で待っててと言ったら、泣きそうな顔して「嫌だ付いて行く」と駄々をこねたので仕方なかったのだ。


 そして勇者御一行による、魔王討伐凱旋パレード、祭り、夜会などなどの各種イベントに、魔王本人が素知らぬ顔で参加した。

 2ヶ月ほどかけて全ての用事を済ませて、故郷へ帰り、時は流れて早一年。


 デラセイラムは、あの日から変わらず私の傍にいる。


 すっかり元どおりとなった街並み。

 麦畑の間の畦道をのんびりと眺めながら、隣を歩く冒険者となった元(?)魔王デラセイラムに尋ねる。


「セイはこれから先どうするの?」


「ずっとヴァルといる。変わらない」


「そのずーーーっと先だよ。私が寿命かなんかで死んでその先」


 魔物の寿命がどれだけあるのか、私にはわからない。私が存在しうる限り、デラセイラムは契約によって、変わらず人には害を与える事なく有り続けるのだろうけど。


 問題はその先だ。


 突然の質問に、悲しげに眉を寄せたデラセイラムは、麦畑の先に視線を投げた。


「寿命……か…。そうだな。まだ分からないが、いずれ生まれてくる仲間を探そうと思う」


「そっか……できれば、そのお仲間さんも、人を害する事がないと良いなぁ。このまま平和な世が続くと良いんだけど……死んだ後じゃなぁなんとも言えないよね」


 私は空を仰ぎながら、どうなるかも想像つかない未来を思った。

 悲しげな顔のまま考え込んだデラセイラムは、暫くしてからぽつりぽつりと話す。


「……魔物じゃない、“魔族”として、ヴァルから貰ったたくさんの思いを、生まれてくる新たな仲間に伝えていこうと思う。そして心を持たない魔物を、出来る限り制御していく。人の住めない最果ての地にでも魔族だけの街を作るのも良いかも知れぬな」


「なかなか壮大な目標だね〜。魔族か。セイが始祖?すごいなぁ〜。仲間ってどんなのが生まれてくるんだろうね〜?」


 想像話に花を咲かせながら、青い空がだんだんと夕陽へ変わるのをいつに間にか立ち止まった私たちは、二人並んで見つめた。


 不意に穏やかな風が麦を揺らして、波間に立つ潮騒の様な音が辺りを覆う。

 その狭間で、デラセイラムが静かな声で呟いた。


「……叶うなら、果てるときもヴァルと共にいたいと、心の底から思うよ」




 心のなかった元魔物な魔王が、綺麗な顔で優しく、儚く微笑んだ。

もし、心があればと願った事は優しさだったのか、残酷だったのか。書き終わってから悩みました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 心が無ければ悲しみも苦しみも感じる事はない。 だが、喜びも楽しさも感じることも無い。 それは永遠にお答えが出ない難問ですよ。 ま、これからのヴァルの頑張り次第でしょ。 セラと歩む人生、幸多…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ