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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第六章 決別
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選択する者達

 白いフワフワとした毛を風に遊ばせながら、楽しそうに笑い精霊は駆け抜ける。

 その先にいた弥勒の肩に登り、鼻先で頬をついた。


『な、悪い様にはしねぇって言ったろ?』

「...凄く納得いかないのだけど。」

『あ〜、そのな?これは全部、兄弟の発案で...』


 お仕置される気配を感じ、途端に笑みが消えて責任を兄に擦り付け始める精霊に、怒る気も失せる。

 彼等の目的は分からないが、登代に会えて三成を連れてきてくれた。それで十分だ。


『アイツ、さらっと俺を売ったな...』

「だから私に来たのかい?」

『いや、アンタのサポートは俺の役目だろ?』

「違いない。それでは頼もうかなカストル、ハンティング。」

『見える範囲にしてくれよ?』


 風を纏った弾丸が、再び【混迷の爆音】へと迫る。本当なら登代の足も撃ちたい所だが、それは弥勒が許してくれないだろう。

 依頼者の要望が第一である。登代は逃がさないが、傷つけるのも御法度だ。故に狙いは精霊、その機動力の要となる脚である。


「しかし乱暴だね、何故こんな手段を?君らしくない。」

『へ、愚問だね。俺は精霊だぜ?アンタの望みも記録しないと、な?』

「...次からは依頼人を巻き込まないようにしてもらおうかな。」

『次がありゃあな。』


 狙いは逸れすぎてなければいい。気楽に銃身を傾け、引き金を引く三成は、己の精霊に文句を言う。要領の得ない返事だったが、それで彼には十分だったようだ。

 そんな風に気も漫ろに撃たれたのでは、【混迷の爆音】とて当たっていられない。音に合わせて笛を振るい、爆音でその軌道を強引にねじ曲げた。

 弾丸の、それも螺旋状の風を纏っているそれを曲げる程の音波にも関わらず、【混迷の爆音】は特に疲労も見せずに回避を続ける。


「二対一...続くかしら?」

『無論...とは言い難いですね。実質、四体一ですので。』


 銃を持つ三成とまだ元気な身である弥勒、二人を合わせて精霊一人分の脅威と見たらしい。とはいえ、【狩猟する竜巻】はあまり戦力になる精霊とは言いづらい。龍が還るまでが鍵だろう。


『お嬢、自衛を。私は手一杯ですので。』

「勿論よ。」


 精霊が自由にならなくなった途端、契約者の危険が無くなった龍が登代に向かうだろう。【混迷の爆音】は弥勒を襲える位置にいなくてはいけないのだ。

 そして、自衛として初めにやることは...


『痛てぇ!?』

「白猫ちゃん、少しイタズラが過ぎないかしら?」

『っつ〜、猫じゃないしね、俺っちは!』


 メスで切られたポルクスが、登代から離れる様に三成へと駆け戻る。雷の降る戦場を、ちょこちょこと走り回る彼等。人の首の血管等、易く裂ける精霊を近づけない事だ。


『んでも、役目は果たしたからな?』

「十分だ。ポルクス、ターゲット。カストル、ハンティング。」

『へいへいっと!』


 三成の声に応え、カストルが手の方に駆け、狩りの為に風を纏わせる。

 僅かに風を感じるメスに、登代がハッとしたのも束の間。その刃物を弾丸が弾き飛ばし、登代を丸腰にする。


「このまま取り押さえさせて貰おうか。その方が、手っ取り早く済みそうだ。」

「女性を押し倒す趣味がおあり?」

「私も男なものでね。」


 狩人の視線は登代から逸らされる事無く、愚直なまでに一直線に走る。二柱の精霊の逆向きに渦巻く風が、高い風圧となって三成から吹き荒れる。

 近づこうにも、これではその前に撃たれるだろう。足をすくわれないようにするだけで手一杯、近づくのも離れるのも難しい。背を向けるのは論外だ。


「君に精霊が居たならば、私は絶対に挑めなかっただろうね。」

「二人がかりだなんて、酷いヒトね。」

「そこまで言わなくても良いだろう?たかがゲームじゃないか。」


 風の及ぶ範囲では、目も開けるのは難しく。ゆっくり歩み寄る三成から離れるのも至難の業であり、登代は逃げる事も諦めた。

 その場に座らされ、銃口を突きつけられたのでは動けない。【混迷の爆音】もトゥバンも、争いの終わりを察して停止する。


『結局、テメェの願いは何だったんだよ、兄弟?』

「あれだけ騒がせて分からなかったんだ、諦めるのが筋だろう?」

『そうもいかねぇんだけどな...ま、依頼人が大事なのは分かったよ。』


 流石に契約者の前で、好き勝手は許されない。カストルも大人しくするらしく、肩の上で伸びをして腕を組んだ。

 それでも、たった一つの引き金がこの戦場を縫い止めている。勿論、三成とて此処で登代に退場されては困るのだが、そんな事を【混迷の爆音】が確信できる筈も無い。

 完全に心を平静に保ったまま、何度か引き金を引いた三成の事は、警戒しかしない。笛を地面に置き、降参の意図を表していた。


「さて、諦めてくれるかな?」

「そうね...乱入者がここまで重なるなんて、思わなかったわ。」

「...重なる?」

『兄弟!上だ、避けろ!』


 カストルの声が響き、皆が上を向いたその時。小さな人影が月を遮ったと思えば、次の瞬間には大kiな景ミか゛




 おい、記録が止まったぞ。

 べつの場所から再生しろ、再生機器が潰れたのだろう。

 いけ、今度はジェミニではなく...アクエリアスだ。巻き戻せ...




 現在時刻、21時。

 残り時間、1日と10時間。

 残り参加者、10名。


「来る!」『マスター!』

『ヴァアアアアアアァァァァァァ!!!!』


 木々さえ根こそぎ飛ばしそうな爆風が吹き荒れ、至近距離に居た真樋達を吹き飛ばした。

 宙に浮いた彼ら目掛け、位置を合わせる程度に跳躍した精霊が、その笛を大きくぶん回す。


『少しばかり付き合って貰おう、悪く思うな。』

「なんでも良い!防げピ」

『Roger、マス』


 最後までいい切る前に、迫る笛から発せられる音が意識を奪い去る。瓶が開く前とはいえ、その身を呈して庇う事は出来る。

 笛の一撃が【宝物の瓶】にめり込み、精霊越しに二人も吹き飛ばされる。意識が戻ったのは、空中。落下までに備えられる時間は少なく、【浮沈の銀鱗】は追いつきそうになかった。


「ぐ...ピトス、瓶!二つだ、守れるか?」

『Roger、マスター。次こそは。』


 宙を浮く瓶を操り、あっという間に二人を入れると胸に抱えて体勢を整える。

 木の上を跳ぶように渡りつぎ、勢いを殺して地上に立つ。すぐに瓶を解放し、来るであろう精霊に備える。


「っは!何、何が起こったん!?」

「おはよう、体が動くなら僕の後ろに。【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】が戻ってきたら、すぐに離脱するよ。」

「うぅ...お腹痛いんやけど。」

「僕もだ。良いから後ろ。」


 なかなか動かない寿子を引っ張り、真樋は精霊に目を向ける。抜刀して一点を見つめる精霊は、まだ動けそうである。


「一撃貰ったのは、支障なさそうかい?」

『Yes、マスター。空中であった事、音波で笛が当たるより前に飛び始めた事が良かったのかと。』

「次は危ないって事ね...連続で呑むのは避けたい、極力シラフで挑んでくれ。」

『Roger、マスター。』


 平坦な声でそう返し、精霊はそのまま動きを止めた。いつの間にか、目の前に【混迷の爆音】が立っていたからだ。


『お待たせしましたか?』

『...No、早いくらいです。』

『それは良かった。では、お引き取り願いましょう...この世界より。』


 問答無用とばかりに速攻を仕掛ける【混迷の爆音】を、止める術など無い。後ろの二人を瓶に詰め、即座に回避する。

 命じられて居ないのに契約者に能力を使うなど、越権行為と取られかねないが仕方ない。打ち合うどころか、音波が届く範囲に居れば死だ。


『Question、いつまでそうして追い続けますか?契約者は無防備では?』

『この距離であれば、向こうの機微もまだ分かります。間に合うでしょうね。』

『Jesus...見かけによらずギャンブラーですね。』


 まだほんのりと酔いが残り、軽い酩酊の中での攻防。自然に余計な動き、大きな距離が増え、疲弊は増していく。


『人型の割に素早い。』

『Laugh、貴方が言える事では無いかと。』


 直線限定ではあれど、【混迷の爆音】の跳躍は【宝物の瓶】の最高速度を凌いでいる。少し気を抜けば、あっという間に一撃、流れるように追撃まで入るだろう。

 ここに至るまでに、殆どの瓶も使い切っている。空ばかりであり、戦術の幅が無い。せめて酔いが覚めれば、交錯する一瞬で笛を収納出来そうだが...少しばかり、時間が足りなかった。


『いい加減に止まったらどうかな?疲れているのでは?』

『What?聞き入れるとでも?』

『ならば...仕方ない!』


 もう何度繰り返したか分からない、突進と回避。その慣れきった攻防に、唐突な変化が差し込まれる。振るうのは笛では無く、脚。

 当然、多少軽くなった所で体勢を変える手間がある。回避のタイミングも変わらない。しかし、その後の早さが段違いだった。前になった蹴り脚から着地する【混迷の爆音】は、まだ【宝物の瓶】が振り返る前に跳躍、一気に肉薄したのだ。

 霊感で接近は感知出来ても、それを回避するには身体が追いつかない。笛での衝撃をいなそうと小太刀を構えたが、それは来なかった。


『Great...見分けていましたか。』

『笛を振ったのでは、致命傷には間に合いそうもなかったので。』


 【宝物の瓶】の周囲を浮遊していた瓶。その一つを握り、【混迷の爆音】は此方を見下ろしていた。

 木の上まで追えば、自由の効かない空中へと跳ぶことになる。それでは、打たれ強いと言い難い【宝物の瓶】は再起不能となるだろう。


『Please、マスターを返して下さい。』

『であれば少女と交換ですね。そろそろ魚の精霊も、復帰してくるでしょうから。』

『それは...』


 ほんの一日前なら、喜んで渡しただろう。しかし、既に【宝物の瓶】の中で彼女は、大切なキーパーソンになっていた。


『...まさか、同情し契約者を救おうなどと思ってはいるまいな?』

『Not matter、答える必要が?』

『それは記録では無い、精霊の役目では...いや、私が言えた立場でも無いか。そういう意味では、私と似ているな、水瓶の精霊よ。』


 嘆息した【混迷の爆音】が、瓶を握り締めながら尋ねる。


『して、貴公は何方を選ぶ?己が契約者と、変革の為の少女と...選べ、精霊。』

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