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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第六章 決別
76/144

目的

 現在時刻、20時。

 残り時間、1日と11時間。

 残り参加者、10名。


 巨大な爆発音と火柱。それを確認しながら、健吾は仁美を引っ張りあげた。


「ったく、山登るだけでも大変なのに...なんでこんな燃えてんだ、はた迷惑な。」

「ゲームだから、少し箍が外れたのかもしれないです、ね。」

「いや、ありゃ端からプッツンしてるだけだろ。」

「「プッツン...?」」

「あれ、通じねぇの!?」


 前を行く弥勒からも首を傾げられ、健吾は少し悲しそうな顔を見せた。


「まぁ、いいや...しかし、どうします?詳しい場所が分かんねぇんじゃ、どうしようもねぇっすけど。」

「そうよね。ポルクスの事、追い立てなければ良かったかしら...」

「いや、それはそれで怖いっすけどね。」


 数刻前、随分とご機嫌なポルクスを怪しみ問いただした所。嘘は言っていないものの、どうも三人をここに連れ出す事自体が目的だとポロッと零したのである。

 わざわざ隠すなど、罠だと言っているようなもので。更に聞こうとした矢先、「そりゃねぇぜ、兄弟!」と叫びどこかへ走り去ってしまった。今思えば、この山にいると言っていたカストルと話していたのかもしれない。


「とにかく、警戒して進むしか、無いと思います。」

「だな。三成さんがいりゃ、止めてくれたかもしれねぇけど。」

「その人の、指示かも。」

「ホントに嫌ってんな。ま、それなら今の所大丈夫だろ、互いに切り捨てて得は無いさ...多分。」


 少し自信なさげに言いながら、仁美を引き上げる。道は警官がいっぱいで、山の斜面を登るしか無い。小さい仁美や、体格の大きく重い健吾は歩くだけで精一杯である。

 時折、二人を振り返りながらスイスイと進む弥勒は、服の裾もあまり汚れていない。


「なんか、以外っすね。早乙女さんと山ってあんまり結びつかねぇんすけど。」

「私も山に慣れてなんていないわよ?少し体幹に自信はあるけど。」

「なんで足下崩れないんすか?」

「体重の差じゃないかしら...」


 流石に健吾に比べたなら、多くの人物はかなり軽いことになるだろう。もう木の枝などにぶら下がっている様な格好で登る健吾は、先程から足場に嫌われている。


「もっとしっかりした足場に行かないと、また崩れるわよ?」

「っすよね。仁美、見て分からないか?」

「流石に暗くて...向こうにまで行けば、明るいですけど。」

「ま、行きたくねぇわな。」


 登るにつれて、火が増えている。急がなければ、【積もる微力】の救出も間に合わないだろう。場所が分からない以上、怪しい場所を虱潰しに探すしか無い。

 天球儀で確認した時、精霊は死んでいなかった。連れ去ってしばらく拘束しておくなら、どこか屋内だとは思うのだが...


「山ん中にありますかね?」

「入口に、案内板がありました。なので、何も無いって事は無い筈、です。」

「なら道沿いの方が良いか...もう少し上に行ったら、道に戻ります?」

「そうね、その方が」


 同意しようとした弥勒が、ガクンと下がる。困惑から戻る前に、その足元の土が飛沫をあげて飛び散った。


「ぇ?」

「早乙女さん!」


 咄嗟に手を伸ばす健吾だが、如何せん距離が足りない。その手が届く前に、弥勒は大地に溺れていく。

 銀色の反射が閉じられ、そのまま地面の中へと消えていく。慌てて地面に拳を叩きつけるも、それは痛みを返してくるだけで沈んでは行かない。


「くそっ、やられた!」

「どうします、か?すぐに」

「いや...俺たちじゃ無理だ。俺はレイズが居ねぇし、その蛇は戦い向けじゃないだろ?足引っ張るだけだ。」

「でも...」

「噛まれて無かったし、なんか別の目的があんじゃないかと思う。すぐには危なくなんねぇだろ、急いでレイズを見つけよう。」


 心無しか焦りながら、健吾は斜面に足を踏み出した。




 現在時刻、19時。

 残り時間、1日と10時間。

 残り参加者、11名。


 肩に乗る獣を撫でながら、寿子は今しがた逃げてきた方角を見る。炎が広がり、既に良く見えない中で、銃撃の音が響いていた。


「それで?随分とタイミングが良いね。」

『けけ、バレてら。まぁそうさ、俺の相方が連れてきた。仮に当たってもアイツは死なねぇし。』

「仮に、ね...銃弾も当たらないなら、僕に出来ることは無いか。」


 手に持つ瓶を弄びながら、真樋は精霊に顔を近づけて囁く。


「じゃ、そろそろ聞かせてよ。」

「うひゃ!」

『お、積極的だな?兄弟。』

「君に言ってるんだよ、分かってるだろ?」


 肩に乗る精霊の顔と寿子の耳が近かったからか、ビクリと跳ねた彼女の反応に、カストルが笑いながら嘯いた。

 そんな精霊の首根っこを捕まえ、寿子から離しながら真樋は問いかける。


「君の言う、攫って欲しい人と連れていく場所。さっさと終わらせて解放して欲しいものだね。」

『このまま逃げればいいんじゃねぇの?』

「君がそれを許すタイプだと思わない。」

『良くご存知で。』


 ニヤリと笑ったカストルが、真樋の腕を伝い頭へ駆け登る。艶やかな毛はよく滑り、掴んでおくのには向かなかったようだ。

 機嫌を損ねる真樋の頭上で、前足を枕にしたカストルは告げる。


『ターゲットは龍に護られた乙女の契約者、目的地は終焉を知らせる笛の音響く山頂だ。』

「どういう事なん?」

「回りくどい言い方だね。」

『へい兄弟、あんたはこういうの好きだと思ったが?』


 首筋を尾で叩きながら、カストルは真樋を覗き込む。いい加減、鬱陶しくなり頭を振った真樋から、寿子の肩へと跳ねて精霊は笑う。


『ま、そういう事だ。返答は如何に?』

「この鮫は僕の精霊じゃない、決定権は彼女にあるよ。」

「へ?うち?」

「当然でしょ?」『そりゃそうだろうよ。』


 蚊帳の外だと思い、カストルの毛並みを堪能していた寿子が、驚いた様に振り返る。

 バランスを崩し、【浮沈の銀鱗】から落ちそうになった彼女を引き上げながら、真樋が続けた。


「僕はいま、何も出来ない。行先も目標も、決めるのは君の権利だ。」

「そんなん、急に言われても...」

『ふん、こんな妖怪モドキなど、叩き落としてさっさと帰るのが我の思う最適解だがな。』

『何のために来たんだよ、お前さん...』


 ようやく喋ったと思えば、第一声が散々である。当然の様に二人には無視され、カストルだけが会話相手になる。


「このイタチに、今襲われるのは不味いと思うよ。【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】では闘いにくい相手だろうし。」

『今はこの嬢ちゃんの首に俺がいる事、忘れるなよ〜?』

『何かしたら、まず貴様を喰らう。』

『おっと、怖い奴だね。』


 首を撫でて貰いながら、カストルが【浮沈の銀鱗】の言葉に笑いを漏らす。撫ぜる手を止めない寿子に、少し呆れながら真樋は嘆息した。


「...連れていく人って、どんな人なん?どこにおるん?」

『ん?そうだな...強いていえば、気の強い奥さんみてぇな?』

「その情報貰ってどうしろと?」

「奥さん...」

「いや、関係ない所に引っかからなくて良いから。」


 視線で真樋が先を促せば、カストルは諦めた様に口を開いた。


『背は高く細め、長い髪の控えめな格好の美人だ。格闘技でもやってんのか、身体能力は高い。比較的お人好しの部類だろうが、好まない相手には割と冷淡な方じゃねぇかな。』

「急にスラスラ出てくるやん!?」


 驚く寿子の口を尾で塞ぎ、彼は言葉を続ける。


『契約した精霊は、単体だとひ弱な女性って精霊だ。だが雷を操る龍を呼び出し使役する。雷だけを出すこともできるみたいで、龍は一度呼べば暫くは休まないといけない。』

「呼び出した後が狙い目、か?」

『待ってたら終わっちまう、戦う訳じゃねぇし良いだろ?あんまり察しがいい方じゃない、地面から行きゃ楽だろうさ。』


 つまんない奴だな、と零しながら真樋に視線を移し、カストルはお気楽にそう告げた。自分は逃げられるものだから、投げやりな態度である。

 せめて隠せと思いつつ、真樋は精霊の尾を払い除けた。


「っぷはぁ!いきなり何するんよ!」

『あ、塞ぎすぎてたか?悪い悪い、嬢ちゃん、ちっこいモンだから感覚が違ってな。』

「むぅ...」


 不貞腐れる寿子に、ケタケタと笑い声を浴びせながらカストルが精霊から飛び降りた。見失うまいと進行を止めた【浮沈の銀鱗】の鼻先に立ち、口角をあげて問いかける。


『なぁ、答えはどうだ?俺はせっかちだぜ?』




『と、ここだ。』


 カストルが止めたのは、山頂にある見晴台だ。嫌でも目立つその場所に、真樋は眉を顰める。


「ここに置いておけば良いのかい?」

「うぅ、犯罪みたい...」

「いや、やってる事はそうだけどね。攫ってきて薬で眠らせてる訳だし。」

『美人だが、手を出すと火傷するぜ?』

「興味ないよ。それに火傷と言うより、焼死体になりそうだ。」


 既に山を覆い尽くすような勢いの炎が、下の方から迫っている。

 ここに居ては焼け死ぬのを待つだけだ、すぐにでも脱出したい。


「君が火を避けてくれるのかい?」

『え?そんな事言ったか?』

「何のために居るんだよ。」

『そりゃまぁ、記録だよ。精霊だしな。』


 ベンチに横たえられた弥勒の上に立つと、カストルは睨む少年少女を嗤う。


『俺は場所を教えてやるとしか言ってないぜ?そう怒るなよ、可愛い顔が台無しじゃないか、なぁ?』

「ここまで来なければ、もう少し脱出も容易だった。」

『来る選択をしたのは、兄弟。アンタ達だ。さ、早く逃げな、お子ちゃまの出る幕じゃない。』

「脅すような真似をしてか?」

『そこの嬢ちゃんを見捨てなかったのは、アンタだろ?それに俺が首を噛むなんて言ったか?』


 一度も明言はしていない、勝手に察して勝手に思い込み、勝手に行動したのは其方だろう、と言いたいらしい。

 詐欺師の様な会話に、早々に説得を諦めた真樋が寿子に向き直る。


「まぁいいさ。もう少ししたら下りようよ、ピトスが覚めたら、僕は瓶に入っとくから。」

「あ、それなら潜って行けばええんよね?」

『...そう易く無いらしいな。』

『あ〜ぁ、チンタラしてっから...?』


 ニヤリと、口角を上げながら風を纏うカストルに、二人は警戒を強める。とっくに臨戦態勢の【浮沈の銀鱗】が、空を見上げて叫んだ。


『来るぞ!』


 登った月が陰り、空気が振動した。

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