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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第四章 これはdeath game
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炎と鮫と不穏な気配

 現在時刻、6時。

 残り時間、2日と1時間。

 残り参加者、11名。


「さ〜て、お嬢ちゃん。どうするね?」


 ニヤリと笑い、赤熱する鉄棒を剣のように構える。左手に握る石ころは、【意中の焦燥】の羊毛から出したもの。発火するのは間違いない。


「って、初日のガキじゃねぇか。良いリベンジチャンスだぜ。」

『あの後、結局下りるの失敗して川の中に落ちたもんね。』

「てめぇが止めれば良かったんだけどな!」


 頬を抓りあげ、その時に大笑いしていた精霊に仕返しをする。

 今のうちに逃げられないかと思う寿子だったが、動き出した瞬間に目の前で炎が巻く。振り返れば、今しがた小石を放ったであろう左手を下ろしながら、一哉が睨みつけていた。


「悪ぃな、動くもんは何となく分かんだよ。ガキの頃からな。」

『ワンちゃんみたいだよね。』

「もうお前黙ってろ、マジで。」


 口にハンカチを突っ込まれ、モゴモゴ言う精霊をフードに放り込み、一哉は鉄棒を掲げる。


「ガキをボコす趣味はねぇけどよ...プレイヤーなんだ、とりあえず焼けてくれや!」

「急過ぎひん!?防いで、【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】!」


 彼女の足元から、喰らいつかんとばかりに飛び出して顕現した精霊が、振り下ろされる鉄棒を噛みちぎる。

 焼けた肉の臭いと共に、隻眼の精霊が呻きを上げる。


『なんと度し難い事を...焼いた鉄を握り、振り回すなど。』

「それを食ったお前が言うかぁ?イカれてやがるぜ!」


 根元で折れたそれは、鋭い形となっている。直ぐに突き出した一哉だったが、【浮沈の銀鱗】の鱗の前ではそれは無意味。金属でも叩き合わせた様な音と共に、弾かれて終わる。

 一度潜水し、縦に一回転して尾ビレを叩きつけてくる【浮沈の銀鱗】に、足が沈んだ一哉に出来ることは無く。肩を打ち据えられて沈む事になる。


「アルレシャ、強いやん...」

『それは否定しないが、今回は契約者が前に出張ったのが全面的に悪手だっただけだ。毎度こうはいかん、無断はするなよ?』

「あぁ...マジでなぁ!」


 精霊が離れて路面が固まるまえに、石を爆発させて液体になったアスファルトを弾き飛ばす。炎の熱は周囲を瞬間的に高圧にし、数瞬の間空間を作るくらいはやってのけた。

 その間に羊毛を足場に上へ駆け上がった一哉が、背を向けている【浮沈の銀鱗】に飛び乗った。


『ち、しぶとい...!』

「どっちが!くたばりやがれってんだ!」


 軟らかいであろう目玉に、容赦なく折れた鉄棒を差し込もうと振り下ろす。そう来るだろうと予想していた精霊は、振り落とす為にその身を回転させる。

 遠心力により、あっという間に宙に放り出された一哉を、金の羊毛が受け止める。その下で、路面を液状化して待ち構えていた【浮沈の銀鱗】が舌打ちをする。


『まだ耐えるか。』

「ハメ殺しかよ、えげつねぇ。」

『ハックー、警戒。ちょっと攻めっけ強いよ。』

「あぁってるよ。」


 鉄棒を寿子に投げつけておいて、懐から銃を取り出す。当然、防御に回る【浮沈の銀鱗】だが、爆発的に発火した鉄棒に視界を塞がれる。


『ぐ、走れ!』

「えぁ!?はい!!」

「無駄だっつの...!」


 炎の向こうでも、動く気配は分かる。当てる必要は無い、近ければ良いのだ。

 寿子の足を狙って発砲された弾丸は、脹脛の皮膚をかすめ取りながらアスファルトに突き立ち、火の手をあげる。痛みに立ち止まった、寿子の足元で。


「あああぁぁぁ!?」

『ちっ、息を止めろ!』


 契約者事地中に沈め、炎から逃れる。酸素の無い地中では、炎は存在出来ない。精霊による炎である弾丸は別だが、燃え移った炎は消えていく。

 咄嗟の潜水だったが、寿子ならば数分は潜れる筈。ある程度の距離をおいて、地上に浮かび上がった瞬間に石を投げつけられる。


『何?』「はぇ?」

「やれ、【意中の焦燥(ターゲットファイア)】。」

『久しぶりに名前呼ばれた気がする〜。』


 精霊の背中で発火するそれは、辺りに乱雑に炎を振りまいた。慌てて燃え移った上着をはたき、気持ちばかりの消火を急ぐ。

 その間に撃鉄を起こした一哉が、今度は狙いをつけて発砲する。破裂音と共に、痛みがじわりと広がった。


「お、当たるもんだな。」

『何?おい、小娘!無事か!?』

「凄い痛いんやけど...無事な訳ないやん...」

『ならば、せめて掴む力は込めておく事だ!』

「は?逃がす訳ねぇだろ!」


 足場にする羊毛から千切りとり、それをばらまく。炎の壁に辺りが塞がれ、逃げ道が消える。


「そのキズなら、地中に行くのも躊躇するよなぁ?万が一、手が離れりゃジ・エンドだ。」

『ハックー、調子のり始めてるよ。クールダウンしなきゃ。』

「水指すんじゃねぇよ、今いい所じゃねぇか。」


 バックパックから手持ちサイズのガスボンベを取り出し、それを羊毛に突っ込んで取り出す。

 何をするつもりか、考えずとも分かる。あまり速度をあげる訳にもいかず、歯ぎしりをする【浮沈の銀鱗】だったが、背中を叩かれてそちらに意識を向ける。


「大丈夫やけん...潜って、アルレシャ。」

『...信じるぞ、小娘。』

「手遅れだっつの!」


 投げ込まれたボンベが発火し、爆発を起こす。今までの類似した発火ではなく、本物の爆発。

 ボンベの破片を飛ばしながら、熱と爆発を撒き散らすそれから逃れる様に、浮力を弱めたアスファルトへと沈んだ精霊を、一哉は必死に目で追う。


「...ち、深くまで潜られたな。」

『ハックー、そのボンベいつ拾ったの?』

「サソリ女んとこに、ガスコンロあったろ?」

『手癖悪ぅ。』

「アイテムは取れる時に取れるだけ。鉄則だぞ。」


 羊毛から飛び降り、辺りを見回す一哉だが、誰か来たような気配も無い。

 羊毛が縮んだ【意中の焦燥】が、肩に飛び乗る間に耐熱手袋を外しておく。燃える鉄棒は壊れたので、分厚く物を握りにくいそれは着ける意味が無い。


『どこに行ったと思う?』

「そうだな...着弾してんのが腹だからな、弾丸取って止血すりゃ問題ねぇ。どっちをするにも、病院だろうな。」

『朝から開いてるかな...』

「いや、急患だろ。まぁ、あの精霊じゃ携帯も使えねぇだろうし...街中を歩くんじゃねぇか?」


 そこまで言った所で、ふと一哉は視線を横にずらす。その先は崖。先程、真樋を落とした場所。


「なぁ、あれが生きてりゃ、そっちんが近いよな。救急車も呼べるしよ。」

『潜れるなら、崖とか関係無いもんね。下りる?』

「当然だろーがよ!」


 雲の様に浮かぶ羊毛を足場に、崖下へと下っていく一哉。崖の捕まれそうな所へ、そして下りた【意中の焦燥】へ。

 交互に飛び移り、その高度を下げていく。意外に高かったようで、その工程は十を超えた。


「ふぅ...何メートルあったんだ?」

『20に届かないくらいじゃないかな?』

「はぁ〜、普通は助かんねぇんだけどな...」


 ばら撒かれた荷物はあれど、死体は無い。つまり、誰かが移動させたか...自力で逃げたか。


「足跡とか...分かんねぇわ。」

『探偵でも無いのに、何してんのさ。漫画の読みすぎ?』

「チャレンジ精神を茶化してるとな、なんにも挑戦しない奴になるぞ。例えば、精霊から毛を毟らずに取ることを諦める。」

『とりあえずでも、やってみるのは大事だよね!痛ぁ!!ハゲる〜。』


 涙目の精霊をフードに放り込み、その羊毛を放り投げる。風に乗って飛んだそれを発火させ、瞬間的に炎の道を作り上げた。

 それに焼けれた葉は消え、土が姿を見せる。しばらく観察すれば、小さな穴を見つけた。


「ビンゴ。スパイク履いてたから、あるかもたぁ思ったが、マジに残ってるとはな。ツイてるぜ。」

『どっちに行ってそう?』

「あぁ?...街じゃね?」

『見つけた意味ぃ...』


 あまりにも分かりきった事を再確認し、一哉は歩き出す。とはいえ、騙されて無いかは重要だが。真樋ならば、あえて山に身を隠す可能性もあったのだから。

 そう出来ない理由は、一つ。ここが危険だと知ったからである。



 もういいだろう。もう一つの動きを追え、code・Leoでは無くcode・Aquariusだ。



 現在時刻、6時。

 残り時間、2日と1時間。

 残り参加者、11名。


「ったた...酷い目にあった。」

『question、無事ですかマスター?』

「腕を火傷したくらいだよ。上着があったら、多少は防げたろうに...失敗したな。」


 ゆっくりと地面から立ち上がり、鋭い痛みに顔をしかめる。見れば、手にはガラス片が刺さっていた。


「あ〜あ、これで四本目だっけ。どんどん割れるね。」

『残り、12です。』

「了解。まぁ、辺りに散らばったのを回収しようか。」


 どうやら、割れたのは咄嗟に真樋が自身を入れた一つだったらしい。地面への衝撃を肩代わりしてくれた様な、不思議な確率だ。

 炎に巻かれるまえに、熱波によって起きた風圧に乗るように跳ね、崖下へと退避した。寿子が追って来ないところを見るに、呆気に取られているのだろうと解釈する。


「しかし、見事にしてやられたね。僕は油断してた。」

『Sorry、警戒を弱めており、接近を許しました。』

「いや、助かったよ。とりあえず、追われるようなら山にでも隠れておくかい?」


 土を払いながら立ち上がり、精霊を手伝って瓶を拾う。自分が持っていたのは五つ、割れていない残り四つを探す。


「念の為、印をしといて良かったね。これだけは開けたく無いし。」


 真樋が一つを見つけた所で、上から音が響いた。発砲音、しかし警察が来たような記憶は無い。


「どこで手に入れたんだろうね。」

『Answer、警官から強奪した物と思われます。』

「あれとやり合ってるわけね...好戦的な事で。」

『Question、救援に向かいますか?』

「ここを登って?出来るかな...」


 意外にも乗り気な主人に驚く【宝物の瓶】だったが、すぐにその関心は他所へと移る。危うげな気配が、山の上から感じられたからだ。


『Report、山頂付近に』

「いや、僕も感じた。これは...()()を使ってはいるね。でも、なんというか...不思議な気配だ。混ざってる?」

『Guessing、自己が極端に低迷しているのかと。その場にいる者に感化されている様です。』

「なるほどね。それよりも、精霊の気配。これはかなり...」

『Dangerous、狂乱しています。』


 荒れた大きな精神力、相対すべきでないのは明白で。少しでも距離を取る為に、町へ出るほうを目指して歩き出した。

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