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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第四章 これはdeath game
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~happy birthday to ♈~

 何人かの子供達のはしゃぎ声に、綻ぶ初老の男性。その背中からでも分かる穏やかな雰囲気に、呆れた様な安堵した様な感覚で、一人の青年が歩み寄る。

 子供たちがより一層はしゃぎ、それに気づいた男性が振り返るより先に、その肩に手を置いて笑みを浮かべる。


「よ。相変わらずだな、おい。」

「...かず君!立派になって、まぁ!」

「んなに変わってねぇよ!二ヶ月前に来たばっかだろーが!!はしゃぐな、年寄りの癖してよぉ!」

「私はね、毎週でも待ってるんだ!」


 勢いよく振り向いて肩に手をかける男性に、引き離そうと手をかける。が、それに力を込める前に、少年達に囲まれた。


「怖ぇ兄ちゃん!俺強くなったぜ〜!」

「新作!やろー!」

「いいから離れろお前らぁ!」




「それで走ってたの?何してんだか...」

「俺が悪い訳じゃねーだろ、これ。」


 水を出して貰い、それを一気に飲み干して礼を言う。どういたしまして、と返す女性は、彼の向かい側に座り直した。


「それで?先生にはもう挨拶したの?」

「途中でバテてたけどな、真っ先に俺を追いかけたのがおやっさんだ。」

「それはまた...先生らしいというか...」


 苦笑いを浮かべた彼女に、だろう?と笑った彼だったが、すぐに眼前に指を突きつけられ、目を丸くする。


「かず君もね。高校を卒業したらすぐに出ていくし、それから一年も顔も見せないし...」

「盛るなよ、十ヶ月だ。それに、今回は早めに来ただろ?」

「もう少し、頻繁に帰って来ても良いのに、って言ってるんだけど?大変でしょ、色々。」

「そりゃお互い様だぜ。」


 未だに修理の終わって無い天井を見ながら、話の方向を逸らす。穴に紙を貼り付けたそれは、彼が中学の頃からそうだ。


「それは、直ってないけど...少しは余裕あるよ?」

「つってもな...十八になりゃ、大概は自立するもんだろ。」

「出来てないけどね〜。」

「うっせ。」


 机の上に置かれた煎餅をかじり、カレンダーを眺める。今は三月、卒業の季節だ。中学に進学する子供も居たのを記憶している。

 ファミリーホームと呼ばれる、施設感の薄い小規模な場所。児童養護施設とは違い、個人での慈善事業に近い物で、里親として預かる形と言える。


「で?今度は何で戻って来たの?弱音なんて今更でしょ、私には吐いちゃえば?」

「酒癖悪ぃのが煩いから殴った...おやっさんには黙っとけよ。」

「ホント...そういう所だと思う。正義感というか、融通効かないトコ。」


 仰け反って天井から目を逸らさない彼を、睨みつける様に見つめる。顔を合わせない。見続ける。視線は降りてこない。仕方なく、再び口を開く。


「アンタさぁ...どうせその人も大概なんだろうけど、もう少し賢く生きられない?暴力以外で、って意味で。」

「怒りたきゃ怒って良いんだぜ。」

「怒んないよ。心配だから説教はするけど、腹が立ってる訳でも無いし。」


 そこでやっと顔を下ろし、目を合わせる。少し悲しげな顔の義姉がそこにいる。


「親か、お前は。」

「今は補助者やってるし、実質的に親でしょ。」

「一年前に出てんだよ、俺は。」

「...それで、家族ごっこは終わりって?」

「おま、バカ!何年前だ、その話持ち出すなよ!また、おやっさんが泣くだろ!?」


 慌てた様に口を抑える彼に、少し顔を赤くした彼女がその手を振り払う。


「近いわバカ!」

「だったら言うなっつの。ったく、人の黒歴史ばっか掘り返しやがって...」

「だって、覚えてるんだもん。アレで本気で泣いちゃった先生見て、この人は味方なんだなぁ、って思えたし。」

「止めてくれよ...あの頃は荒れてたんだ。」

「今もだし、素でしょ?」

「家族は家族だ、バーカ。」

「一言、余計。」


 バカバカ言われ、少しムッとした表情の彼女が言い返そうとした時、後ろの扉が開く。

 オールバックにした髪が乱れ、お疲れなのが分かる風貌で、壮年の男が入ってきた。彼は此方を見ると目を開いて驚いた。


「お〜、一哉(かずや)。帰ってたのか。何しでかしたんだ?」

「そんなに信用ねぇのか?」

「逆だな、やらかすって信用してんだ。で?痴漢か、不良か?」

「酒癖。難癖つけてタダ飯集ってた。」

「あ〜、あの手のは店員次第で面倒だもんな...スルーだな、スルー。」


 一哉の隣にどっかりと座ると、彼は欠伸を一つして人差し指を立てる。


美陽(みよ)ちゃん、お酒一杯くれる?」

「かず君、そのバカ殴って良いよ。時には暴力も必要だよ。」

「ジョークだっつの。昼間から飲まねぇおい一哉、拳下ろせ?」

「ジョークだよ。」

「兄弟達が冷てぇよ...親父の所で育ったのに、何でこんなに逞しいのやら...」


 それでも水はくれたので、それを飲み干すと大きく息を吐いて背伸びをする。


「お、そだ。玉ねぎ採れたぞ、持って帰るか?」

「それ持って電車に乗んのかよ?ここで食わせてくれよ。」

「あん、泊まりか?...あぁ、再就職の為に保護者同意書を貰いに来たか。住所はここの使うか?」

「いや、兄貴が借りてくれたアパートので。」

「あそこか。もう少し良いとこ...いや、今無職だったな。」

「うっせ、すぐに探すっての。」


 言いながら差し出した履歴書に、兄貴と呼ばれた男がサラサラと名前を書いていく。


「おぅ...つか自分で書けば?俺は反対しねぇよ?」

「あん?本人じゃないとダメじゃ無かったか?」

「お前、高校出たろ?良かった筈だ。第一、バレやしねぇって。」


 紙を突っ返しながらいい加減な事を宣う彼に、それでいいのかとツッコミながら受け取る。そんな二人に美陽が思い出したように立ち上がった。


「そうじゃん、かず君来たなら部屋。」

「あん?お前ん所で良くね?」

「良い訳あるか!私たち、もう十九だからね?子供じゃないんだから。」

「そういやそうか。」


 さっき年齢の話したよね、と頬を抓りあげる彼女に、ギブアップだと手を叩いて伝える。痛む頬を擦りながら、一哉の方に振り返って尋ねる。


「じゃ、俺の部屋で寝るか?一日ならまだ徹夜できるぞ、俺も。」

「いや、普通にリビングで寝るって。」

「腰痛めんなよ?」

「俺、兄貴と違って若いし〜。」

「一言余計だよな?」


 喧嘩なら買うぞ、とにこやかに返す彼を見て、逞しいのはどっちだか、と呆れが浮かぶ。

 そんな親しい雰囲気の彼等の間に、血の繋がりは無く。しかし、兄弟として互いの事を信頼していた。もっとも、一人は四十近い年齢だが。


「所で、随分と静かだが...親父は?」

「おやっさんなら、バテて木陰で座ってんぞ。」

「んじゃ、チビ共はゲームか...」

「ずっとやってんのよ...宿題終わったのかな。」

「誰かさんを思い出すなぁ?」

「うっせ、俺は賢いからいーの。」

「ほ〜?」「ふ〜ん?」


 適当な事を言ってヒラヒラと手を振る彼は、懐疑的な目を双方から向けられる。


「ダメージ計算、謎解きの為の雑学、物理演算の処理や化学式、武器や素材の名前から、傾向の推測...俺の学業はゲームで鍛えた。」

「だから近代になった途端、歴史の点数落ちたのか。」

「無駄に回路図とかに強かったの、それね...」

「無駄でもねぇだろ、役に立ったんだし。」

「学生の頃は、な〜。」

「うぐ...」


 痛い所を、とばかりに視線を向けるが、素知らぬ顔を通される。


「つか、仕事は問題ねぇんだって。」

「問題起こしたら世話ねぇだろ。」

「最近、息抜きも出来ねぇからストレス溜まってんだよ。」

「だからって堪えなくて良いとは言わんだろ?」

「そりゃそーだけど...」

「はいはい、その話おしまい!かず君が短気なのは変わんないんだから。」


 手を打ち合わせ注目を集めた美陽が、ダンボールの中に並ぶ土の着いた玉ねぎを取り出しながら笑う。


「今晩はカレーにしよっか、好きでしょ?」

「お、マジか。楽しみにしとく。」

「俺もなんか手伝うか?」

「兄さんは休んでて良いよ?畑でさっきまで動いてたし、疲れてるでしょ?あ、かず君は子供達のゲームの相手したげて。匂いがしたら乱入してくるから、あの子達。」

「了解、行ってくるわ。」


 遠回しに戦力外通告を成された一哉は、早々に撤退を決めた。




 ゲームの上手いお兄さん、という事で子供達にはかなり懐かれていた。ここにいた頃は外か自室にいることが殆どで、同い年の美陽以外の子供とはほとんど話さなかったのだが...少し、勿体なかったかと思った。

 夕飯を頂き、子供達とパーティゲームに興じ、深夜になった。居間で自宅に近いアルバイトを探していると、夜中の静寂に考慮したように扉が開く。


「あぁ、かず君か。まだ起きていたのかい?」

「まぁな。」

「パソコンゲームかい?かず君はそういうの、得意だったよねぇ。」

「別にこれくらい、誰でも出来るっての。おやっさんも少しは馴染んだ方が良いぜ?」


 曖昧に笑って誤魔化す男性に一哉は、やはり変わらないな、と呆れと安堵が湧いてくる。

 スリープにして画面を消すと、一哉は彼に向き直る。


「おやっさんこそ、こんな時間に何してんだ?」

「最近、夜は眠れなくてね。みーちゃんに全て任せる訳にもいかないし、お弁当の準備でも、とね。」

「手伝うか?」

「いや、大丈夫だよ。そうだ、かず君の分も作って置こうか?」


 いつもの笑顔で台所に立つ彼に、本当に自分はこの人にはなれない、と思う。穏やかで、やんちゃで、懐が深い。

 自分にはゲームの世界に逃げた過去と、無駄に有り余った体力しかなく。この人の目指す物の助力には、とてもなれそうになかった。


「なぁ、おやっさん。」

「なんだい?」

「その、まぁ...あんがとな。」

「...?うん、どういたしまして。」


 翌日の早朝には、自宅へと帰り。挨拶くらいしろと、携帯に連絡が溜まる結果になった。




「ったく、美陽の暇人め...あ?これなんだ?」


 半年たっても恨み節としか思えない「おはよう」が続き、ガソリンスタンドのスタッフルームでメールを確認していると。

 見覚えの無いアドレスに、中二心をくすぐるタイトル。URLリンクを触らなければ良いだろうと、一哉はすぐにそれを開いた。しかし、リンクは見当たらず、日時と場所に謎のルールを連ねた内容。


(...ちと前なら、選ばれし者だとか騒ぎそうなモンだな。)


 ちょうど、その日はバイトも入っておらず。久しぶりに部屋に積まれたゲームでもやるかと思っていた。


(願い、ねぇ。NPCの怪物を斬るよか、楽しそうじゃねぇの?)


 文面から内容を予測し、役立ちそうな知識を集め始めた。夏も終わり、寒さが迫り始めた頃。彼の頭の中は、楽な生活でもさせてやろうかと熱さが滲んでいた。

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