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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第三章 舞踏にして武闘
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双児の銃声

 路上に止まったランサーの中、カロリーメイトをかじりながら三成は外を観察する。

 家屋の中から出る気配はなく、よって三成も動けない。


(騒動の間は出ないつもりか?えらく小市民的だが...あの精霊が許すだろうか?)


 己の精霊の合流を待ちながら、彼は次の動向を考える。


(彼女が動くなら、その追跡。彼女を射ていた、彼は厳重警戒だ...後は海辺の二人組。此方は索敵しやすく、接近されなければ驚異になり得ないし、仕留めにくさもある。放置だな。他は...場所が割れない事にはな。)


 依頼の達成の為、好戦的な物は潰しておきたい。柏陽一哉、【母なる守護】、【積もる微力】、羯宮八千代、陣場九郎等がそれに当たる。

 ターゲットである、魔羯登代は除外である。


『よう、兄弟。散々だ。』

「何があった?」

『まず、契約者が青い目立つ車に居やがる。』

「そうか、それで?」


 中に滑り込んできたカストルが、諦めを滲ませて三成を睨んだ。

 涼しい顔の三成に、仕方なく続きをぶつける。


『俺は肩をやられた。日本刀なんて、お目にかかるとはな...』

「そんな敵もいるのか...把握しておこう。」

『あと、ポルクスが捕まった。』

「そうか、やはり目端の効く人物らしい。」


 ホテルの上階からの狙撃。まるで、来るなら来いと挑発でもしているようだ。とはいえ、この異常事態では、NPCも目立った動きをしないようだ。

 警察とは名ばかりの武装集団以外、出歩く者達がいない。今も通りを、此方を怪しみながら通りすぎていった。


「何がタブーだったのか...分かるかね?」

『さぁな、その辺りは分からない。んで、そっちは?』

「動きは無い。あの矢が当たった訳でも無さそうだが、この場所で籠城するつもりではないかな?」

『...あの精霊でか?』

「私もそう思うよ。」


 いつまで持つか、見物ではある。だが、そのまま待ち続けても、進展する事も無い。

 時間は限られている。あと、3日。それまでに、登代本人との接触か、潜んでいる地域の情報を得られれば...彼の仕事は、大きく進展するだろう。


『おっと...ポルクスの奴、助けを求めてるな。』

「珍しいな?何があった?」

『ドレスはゴメンだと...』

「...何があった?」


 探りに行かせたのは、陣場九郎の元である。ドレスなぞ...いや、やりかねない。


『あんな爺さんが、んな事すんのか...?』

「彼は中々の破天荒ぶりだよ、少年に近い。」

『そうなのか?...あ、逃げ出したってよ。』

「捕まらずに帰れるか?」

『いやぁ、無理じゃないか?』


 随分と冷たい対応だが、それはそれ。仕方がないので、張り込みは止めて救助に向かう。

 とはいえ、確実にドンぱちすることになるだろう。夜まで待つのがベストである。


『そういや、兄弟。嬢ちゃんは?』

「早乙女君なら、昼食を買いに出てもらっている。」

『依頼人をパシるかね、普通...』

「彼女に張り込みが出来るなら、私は喜んでコンビニに行くよ。」


 食べ終えたゴミを袋に捩じ込み、煙草を咥えて火をつける。窓の外に吹く三成を見て、カストルが顔をしかめた。


『ケムい。』

「ゲームの中でくらい、勘弁してくれ。現実だと中々に場所が無いんだ。」

『健康的な趣味は無いのかね...』

「健全な精神を育むのを、怠ったのでね。」


 ゆるりと曇らせながら、その目はしっかりと家の方向を睨んでいる。窓から見えるカーテンの揺れ、裏口の付近の風向き、換気扇の動き。

 そろそろ昼時だな、と検討をつける。おかげで暫くは、気が抜けそうだ。


『ストーカーみてぇだな。』

「目的が違うだけで、行為は同じだからね。」

『全国の探偵と法律関係者に謝ってこい。』


 そこは反論しろよ...と長くしなやかな尾で煙を退ける。

 苦笑しながら、彼は火を摘まんで消すと、ポケット灰皿に突っ込んだ。


『人がいると吸わねぇ癖に。』

「好む人の少ない臭いだからね、仕方ない。」

『自制できんならしろよな...』

「自制っていうのは、他人に対してするものだよ。」

『健康ってモンがあってな?』


 意地でも煙を遠ざけようとするカストルが、ふと宙で鼻を引くつかせる。


『なぁ、兄弟。こりゃお前の煙じゃねぇな?』

「うん?...あぁ、もしかして。」


 ノートパソコンを取りだし、アクセスする。このゲーム中、時事を探ればこの街以外は弾かれるのは、本来は救済目的なのかも知れない。健吾は困っていたが。

 あっという間に上がったのは、二ヶ所の建物の崩落と、道が荒れる怪奇現象。そして、赤い光の矢である。


「二つもオカルトとはね...」

『こうも都合良く出てくるか?仕組まれたんじゃねぇの?』

「いや、この状況だからだろう。動く人がいないと言う事は、問題も騒動も起きようが無いからね。橋の崩落が未だに存在感が凄いがね。」

『ま、1日と経ってねぇし。仕方ないだろ?』


 パソコンの裏を尻尾で叩きつつ、カストルが覗き込む。その画面を、三成は真っ赤な物に切り替えた。


『火事かよ。』

「獅子堂君達だろう。これで警戒すべきは、天秤座か蠍座、山羊座となった。」

『三ヶ所か...まぁ、もう一つの崩落がそれだろ?』

「おそらくね。さて、残る一つの介入に警戒しながら、九郎氏と、か。」


 目的が掴めない以上、対立は免れないだろう。圧倒的に向こうが有利であり、彼は譲歩と言う物を知らない。

 そして、【疾駆する紅弓】は、非常に厄介な射程圏を持つ精霊だ。三成としても、潰したい思いが強い。


『やるか?兄弟。』

「無論だとも。蛮勇を試みる気はないが、機会を見送るつもりもない。」

『ま、確かに。乱入者の可能性が、二~三しか無いってんなら、仕掛けるな。』


 ヒョイと肩に飛び乗ったカストルが、ノートパソコンの画面を覗けば、それはホテルの一室を写している。


『宿泊予約?』

「この手のサイトは、大概は簡易的に見取り図を作れる程、内装を載せている。誘き出すにしろ、先手はうちたいだろう?」

『物騒なモンはしまってくれ。先手は打つもので、撃つモンではねぇからな。』


 カストルが肩からダッシュボードに跳び移り、三成の手を尾で叩く。

 肩を竦めた彼がそれをしまい、ノートパソコンの電源を落とす。視線を家屋に戻すと、未だに沈黙を保ったままだ。


「夕方まで動きが無いなら、このまま行こうか。彼女は放置だ。」

『了解。従うぜ、兄弟。』

「とりあえず、休んでいてくれて構わない。用が出来たら頼む。」

『あぁ、任された。』


 影に潜る様に姿を消した精霊を尻目に、三成は深く溜め息をはく。四日目、そろそろ疲れも出てきた。

 神経が高ぶり、満足に休めない。観測を繰り返すほど、痛い程に殺気に触れる。ほとんどの人間は困惑していても、精霊はそうでも無いのだから。

 かといって、他人に任せる性格はしていない。故にあくまでも協力関係となる、言い方を考えないなら、捨て駒とも言える者が欲しかった。依頼人には、流石に任せられない。


(あと三日...持つと良いが。)


 体力の衰えを、そろそろ感じてきた。学生の頃の様にはいかない。

 とはいえ、これがゲームならば、この疲労も精神的なものでしかないだろう。思ったよりも、精神は幼稚なままだな、と自嘲気味に笑いが溢れた。

 その時、コンコンと音が聞こえる。視線を向ければ、袖で覆った手で、弥勒が車の窓を叩いていた。鍵を開ければ、入り込んで来た彼女が問う。


「何を笑っているのですか?」

「早く美人さんが戻らないかと、カストルと話していたのさ。」

「ふふ、その人は戻りました?」

「昼食と共にね。」


 心得たもので、三成がはぐらかした話は、弥勒は尋ねない。大事な事、重要な事ならば、彼はどんな内容とて隠しはしないからだ。

 誤魔化す時は、大抵はしょうもない話である。本人の基準で、だが。


「そういえば、獅子堂君達から連絡はありました?」

「いや?彼の事だ、何も起こらなければ、連絡をする人物では無いように見える。仁美君には、私は嫌われている様だしね。」


 残念がる素振りをするが、それが本心では無いのは見れば分かった。どうやら、折り込み済みであるらしい。


「彼女は...」

金牛(かねうし)二那(ふな)、当時26歳で兄弟や子はいない。一度、友人が浮気調査を任された事があってね。もっとも、依頼人は彼女の友人で、その時にひと悶着あった様だが...」

「よく資料を見せてくれましたね?」

「見せてくれると思うかい?まぁ、二年程前の話だ。今は分からない。」


 中途半端に話を聞いて、消化不良な分は自分で調べたのだろう。そういう男である。


「まぁ、動く気配が無いのだが...ポルクスも捕まった、夕方まで動きが無ければ、そちらに行こうと思っている。」

「相手は?」

陣場(じんば)九郎(くろう)氏だ、破天荒の代名詞は知っているかな?」

「いえ、どんな人です?」


 世代かな...と少しもの悲しげに呟くと、彼はノートパソコンを開き、画面を見せる。


「この本の作者だ。実話だそうだよ?」

「旅行記、ですか?」

「遺跡やジャングル、紛争地帯だがね。」

「旅行ですか、それ...」


 大概に頭のおかしい人物だと言うのは、本人さえ公言している。だが、それは日常での話し。この殺し合いの許された空間では、むしろ彼は誰よりも有利だろう。

 ルールに縛られるという事は、安全な庇護を受けるという事だ。そこから外れた彼は、もっともこのゲームに向いている。


「確か、少女と行動していましたよね?」

「彼の目的は不明だが...最悪、何も無いというのもあり得る。ゲームとはいえリアルな殺し合いだが、それを楽しめる人種だろう。それ目当てとも考えられるからね。」

「分からない人ですね...」

「君はそうだろう、それで良いと思うよ。」


 パソコンをしまいながら、彼は話を続ける。


「まぁ、そんな所だ。とりあえず、少女の抑止力として、君には同行して貰えるかな?彼女なら、荒事にもならないだろう。」

「えぇ、快活そうな良い娘でしたから。」

「面識が?」

「ゲームの前に。」

「開始位置が同じだったか。まぁ、方法は任せよう。一時間、止めてくれれば足りる。」


 弾丸の歪みを確認しながら、シートに身を沈める三成に、弥勒は軽く頷いて仮眠を取る事にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三成さんと弥勒さんのこういうやり取り好きです…っ。こっちまでニマニマしてしまう。 永遠にやっていて下さい。 もし、依頼達成したら、この二人どうなるんだろうな…って、もし最後まで生き残って全…
2022/05/18 22:27 数屋 友則
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