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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第一章 出会い
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it's The game

 夜。結局、近くの公園に足を運んだ健吾の元に、一通のメールが届いた。


「あっ?何だってんだよ...。」


 ごそごそと、ポケットからスマートフォンを取り出す。ベンチで上着を押し付けられた仁美も、興味深そうに覗いて来た。


『一日目の終了も間近だ。さて、無事に十二の契約は揃った、おめでとう。

 参加の意思も本格的になってきただろうが、ここで新しい情報を提供する。気づいた者もいたが、町の中央に天象儀がある。そこは現在残っている精霊と、参加者の参加権利の剥奪を行える。要はリタイアだ。

 詳しくは観察して把握してくれ。それでは健闘を祈る。』


「...天象儀?」

「プラネタリウム、の事。」

「へぇ、物知りだな、お前。しかし観察たって...不親切な説明だな、おい。」


 とにかく一度、足を運ぶ必要はありそうだ。現在残っている精霊の把握は、しておいて損は無いだろう。もしかしたら、他の精霊の概要を知れるかもしれない。


「そういえば、仁美が契約出来なかったのって、精霊が足りなかったのか?」

「十二の契約は、終わったって...ある。」

「あっ...うん、まぁ。とにかく明日にでもいって見るか?他の参加者とは、鉢合わせ無い様にしながら、な。」


 健吾がそう言えば、不意に肩に手が置かれる。驚く健吾に豪快な声が降ってきた。


『何、消極的な事言ってやがる。見つけ次第、ぶっ潰せば良いだろうが。』

「レイズか...。お前がどんくらい、出来るかも分かんないんだ。それに殺し合いなんて、積極的にしたくはねぇよ。」

『けっ、日和んなよ。俺は強いぜ?レオ、お前の想像以上にな。』

「余裕があれば、試しても良いんじゃないか?とにかく、プラネタリウムの中を見るのが優先だからな。」


 既に闘気を滾らせる精霊に、健吾は落ち着く様に諭す。


『こりゃ失敗したかな...わぁったよ、大人しくしてるさ。でもな、間違えんな?こいつは取り返しの着いちまうゲームだが、お遊びって訳じゃねぇ。死んだらチャンスは無くなるデスゲームだぜ?』

「取り返しがつくのか、つかねぇのか。どっちだよ...。」

『覚悟しておけって話だ。引っ込んでて、他人を潰す気もねぇのに勝ち取れるモンはな、庇護下で与えられるモンだけだぜ。勝ち取れ、レオ。ここはそういう場所なんだ。』


 不機嫌に健吾の胸に拳を押し当てて、【積もる微力】は消えた。

 覚悟。まだ頭が、追い付いて無いのか。理解はしても、やはり実行に移すには戸惑いがある。

 日本社会では正しく賢いだろう。しかし場所が、状況が変わればそれは愚鈍の証に過ぎない。


「...まぁ、全く違う存在だしな。」

「良いの...?」

「アイツの事も、よく分かってないしな。まずは此所について、少しでも理解しねぇと。」


 少し険悪になりはしたが、頭を切り替える。

 明日やることは、三つ。

 ・天象儀に行き、現状を探る。

 ・地形なんかを探って、隠れる場所や戦う場所を選ぶ。

 ・【積もる微力】の実力を把握する。

 健吾のやることはこれだ。出来るなら仁美の精霊も探すだろうが、その優先度は低い。


「とにかく、日が登ってからにしよう。もう寝ようぜ、体力を回復しとかねぇと。」

「...ん、おやすみなさい。」


 山を模した様な遊具の上で、健吾は横になって目を閉じる。ベンチに座る仁美が、健吾の上着を羽織りながら頷いた。


 現在時刻、23時。

 残り時間、6日と8時間。

 残り参加者、???。




 翌朝、目が覚めた健吾が起き上がると、掛けられていた上着がずり落ちる。

 少し働かない頭で辺りを見回せば、仁美は公園の水道で顔を洗っていた。...日の昇る前に、公園で身嗜みを整える。家無き子の様で、少し涙を誘う。

 健吾も状況は変わらないので、隣に並び待った。


「っ!...おはよう、ございます。」

「おぅ、おはようさん。場所変わってくれるか?」


 頭から水を被り、強引に目を覚ました健吾。頭を振って水を飛ばし、仁美に向き直る。

 ハンカチで顔を拭う仁美に、上着を羽織ながら健吾は問いかける。


「さて、結構早く起きれたけど...もう動けるか?」

「ん、大丈夫。」

「うっし、じゃあ行こうぜ。まずはプラネタリウムによって...誰か居たら、地図を探そう。スマホの地図も開かねぇし。」


 自分のいた町の地図をスワイプし、現在地がダイブした山の中になっているのを確認する。画面を覗き込んだ仁美も、顔をしかめて唸る。


「電波は、肉体の位置...かな?」

「みてぇだな。検索とか連絡は出来んのか...?出来そうではあるな、7倍早い事に目を瞑れば。」


 最悪、データ通信の速さに携帯が止まるかもしれない。受信もそこそこ、送信はやめた方が良さそうだ。


「こっちの媒体で、調べ物はするしかねぇな。パソコンとか、使えると良いけど。」

「買うの...?」

「いや、ネカフェとか...どうせ短時間だし、金に余裕も無いからな。」


 健吾が財布を開くが、その中身は潤沢とは言えない。体を休める為にも、精神的にも、ホテルの一室くらいは取りたい。そうなると自由に使えるのは五万円も無い。

 これがゲーム...にしてはあまりにもリアルだが。とにかくゲームならば、この財布の中身も戻ってくる筈。惜しみ無く使い、何としてでも勝ち残る必要がある。


「お前の所持金って...」

「あ...えーと。」

「...少ないのか?」


 情報を得るなら、協力して半額で得ようとしたのだが...健吾の前で仁美は指を付き合わせて、人差し指をクルクルと回した。

 気まずそうに俯く彼女に、健吾は頭をかく。流石に無いものを搾り取るのも気がひける。


「まぁ、少しくらいなら」

「...0、です。」

「...ん?」

「その...服以外、何も持って...無い、です。」


 選択を間違えたかもしれない。健吾は天を仰いで、これからどうするかを考えた。




 とにかく?朝の早いうちに動けるのだ。無駄にすることも無いだろうと、二人は町の中央、天象儀に来ていた。

 人に聞きながらの進行は遅く、既に日は昇り、少ないが人も動き出していた。


「ここ、だよな。」

「...少ない、ね。」


 辺りに建物は無く、当然人もいない。避けている、のだろうか。意図的な物を感じながら、健吾は唯一の建造物、古いドームの扉に手をかける。

 少し高い丘になっているここは、広大な地形とは裏腹に小さなドームだ。しかし、それは中に入ると印象を一変させる。


「デケェ...。」

「地下に、広がってるの?」

「みてぇだな。」


 天球を模した天井は、星の海が広がっている。そこには十二の星座が線で結ばれ、その形を表していた。

 健吾の立つ入り口は、真ん中に向けて傾斜している階段の最上段だ。下に見える中央には、光を天井に広げている投影機がある。

 土台には十二の紋様が光っていた。土台を囲む様にグルリと取り囲んだそれは、見覚えのあるような、無いような...健吾にはピンと来なかった。


「星座にちなんでんのか?下のが精霊か参加者か、どっちかを表してる訳だな。」

「上の星座は...?」

「え~と...すまん、分かんねぇわ。そういうのは、あんまり詳しくねぇんだよ。」


 健吾が頭を捻っていると、下から声が聞こえてきた。


「これは、横道を通る十二星座だよ。おそらくサインによって精霊は作られている。」


 突然の声に驚き、健吾達がそちらを向く。そこには投影機の後ろからゆっくりと、昨晩の青年が姿を表した。儚げな印象のその男は、改めて見れば少し幼くも感じる。


「仁美、下がってろ。」

「...う、ん。」


 僅かに強張った声だが、確かな歩みで後退する仁美。

 階段を上りながら、青年は此方に声を投げ掛け続ける。


「君達がどんな関係かは知らないが、参加者の馴れ合いは出来ない。最後には敵対しなければ、いけないルールだろう?」

「んな事は分かってる。ただ、力もねぇ女子供を痛め付けるのが嫌なだけだ。」

「ふ~ん...まぁいいや。待ってたら最初に来たのが君達とは、少し運命を感じるけど。それだけだ。【宝物の瓶(トレジャーピトス)】。」


 青年の背後から、平安の武士の様な精霊が立ち上がる。

 今回は健吾にも精霊がいる。彼の言葉の意味を探るためにも、ここで潰すと健吾は判断した。幸いにも【積もる微力】に凶器は無さそうだったのも後押しする。


「来やがれ!【積もる微力(レイジングダスト)】!」

『ハッ!結局ヤルんじゃねぇか!』


 闘気を漲らせ、上半身を覆う刺青を光らせながら、【積もる微力】が煙の如く立ち上がる。

 出現した精霊に、青年は目を見張る。強い迫力を持つ、大柄な姿は思わず驚愕させる。


「実際に見るのは初めてだ。...おそらく獅子座?う~ん、検討がつかないな。」

「来いよ、やるんだろ?」

「分かってるね。ピトス、行け!」

『Roger、戦闘を開始します。』

『また寝かせてやるよ!』


 駆け出した【宝物の瓶】は、あっという間に健吾達の前に躍り出て、小刀を横薙ぐ。

 それを左腕で受け、【積もる微力】は右の拳を打ち出した。抜けない小刀に、一瞬回避が遅れた【宝物の瓶】に、重い一撃が入る。


「おいレイズ、大丈夫かよ!?」

『けっ、ちゃんと殴ったろうが。』


 腕の血を拭う精霊に、健吾は心臓が煩くなるのを感じる。

 血、それが飛沫した事。改めて命の取り合いを思い起こさせる。


「精霊にも血液があるのか...ピトス、動けるかい?」

『問題ありません、マスター。』


【宝物の瓶】が浮かぶ瓶を手に取り、蓋を開ける。そこから飛び出したのは、古びた木の扉。それで視界を塞ぎながら、精霊は駆ける。


「レイズ!右」

『手遅れなんだよ、ダボが。』


 横から見ていた健吾の叫びに、【積もる微力】の呟きが重なる。

 途端、【宝物の瓶】の腹、【積もる微力】の拳がめり込んだ辺りが光る。

 吹き出した闘気に驚く間もなく、【宝物の瓶】が仰向けに地面に倒れる。


『お、もい...!?違う、これは。』

『へっ。散りな、ひょろいの。』

「ピトス!」


 青年が駆け寄り、隠し持っていた瓶の蓋を開く。飛び出したのは...消火器。

 突如吹き掛けられた消火剤に、【積もる微力】がたたらを踏む。その間に立ち上がる【宝物の瓶】だが、明らかに動きが鈍い。

 それでも斬りかかる精霊に、健吾が走りよって襟を掴んだ。


「させねぇんだよ!」


 足をかけつつ押し倒せば、【宝物の瓶】は簡単に仰向けになる。


『ナイスだ、レオ。』


 横に転がって逃げた健吾の後ろで、連続した強打音が響き渡った。

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