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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第三章 舞踏にして武闘
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炎と闘気

 一瞬にして多大な撃力が解放された柱は、まるで巨大なハンマーで殴られた様に、あっという間に折れる。勿論、橋は崩壊を始めた。

 咄嗟に綿毛を展開して、それをクッションにした一哉。一気にそれを引き抜き、ばら蒔いて炎で周囲を囲う。


「無茶苦茶しやがる...!」

「どっちが、筋肉ダルマめ。」『ハックー、禿げるぅ~。』


 精霊の泣き言は無視され、熱した鉄棒が健吾に振り抜かれる。流石に回避を強いられる健吾だが、横にズレただけの【積もる微力】は、一哉を射程圏に捕らえている。


『ダラァ!』

「ぐぅ...!っは、か。」


 炎を撒き散らして距離を取り、呼吸を整える一哉。【積もる微力】が強引に炎を散らした頃には、痛みを忘れる程に、興奮状態を保っていた。


「イイね、イイねぇ!やっぱりゲームってのは、こうでねぇとよ!リアルじゃ絶対に出来ねえ、最高の一瞬だぜ!」

「イカれてやがる...レイズ、一気に潰すぞ!」

『端からそのつもりなんだよ!』


 走り込む健吾に追従する様に、【積もる微力】の拳が一哉へと迫る。距離を取って炎をばら蒔き、接近を防ぐ一哉が憎々しげに呻いた。


「なんとか出来ねぇのか、【意中の焦燥(ターゲットファイア)】!」

『出来たらやってると思わない?僕はあんな、強引な接近戦なんて出来ないし。』

「なら...やれ。」

『えぇ!?無茶』

「いいから、やりやがれ!どうせゲームだ、ハイリスクハイリターンだぜ!」


 肩から放り投げた精霊が、そのまま宙を駆けてどこかに行ってしまう。

 爆発と発火の妨害が無くなり、容易に接近した健吾が、取り押さえようと試みた。


「させねぇよ!」

「くそ!レイズ、頼む!」


 熱した鉄棒は既に白熱し、近づくだけでも危険だ。多少なら問題ない【積もる微力】に、接近させようとするが...次の瞬間、一人と一柱は飛び退いた。


「勘が良いなぁ、おい。」


 突如として揺れ始めた工場に、警戒を強める健吾。その間に吹き上がった炎が、工場を崩壊へと持っていく。


「マジかよ...!」

「どうした?逃げなくて良いのか?」

「逃がしてくれねぇ癖によ...!」


 冷め始めた鉄棒を捨て、ナイフを手に持った一哉が笑う。落ちそうになる天板を支え、【積もる微力】が怒鳴る。


『レオ!撤退だ!こんな場所じゃ死ぬぞ!』

「道が塞がれてる!他の道も...探してる暇はねぇだろ?」

『なら早く潰せ!意外に重いんだよ!』


 持ち上げられている方が異常な気もするが、気にしない事にする。切りかかってくる一哉をいなし、肩と肘を捕らえようと狙うが、即座に回された脚が横からとんでくる。

 力んで受け止めたそれを、しっかりと捕まえて押し倒そうとする。しかし、わざと倒れた一哉が手を床に付き、捕まれていない足を振り上げる。


「危ね...っ!」

「お前もケンカ慣れてやがるな、オイ!」

「一緒にすんな、んな暇ねぇんだよ!」


 回避の為に足を話した健吾に、ナイフを突きだして襲いかかる一哉。ここから出ないと危ないのは、彼も同じだ。

 早々に決着をつけるため、二人とも積極的な距離。攻め続ける一哉と、それを押し止めていく健吾。


「どんどん来いよ、ヒヨってんのか!?」

「生憎と、俺のこれは仕事なんだよ。」


 日本の法が、人を襲うことを是とするか。問われるまでもない。健吾が教わったのも、制圧術である。バイトの様な物ではあれど、警備員なのだから。

 しかし、使い方次第では凶悪だ。思い切り投げれば床は凶器となり、関節を上手く極めれば外す事も可能。素人の人間相手ならば、十分に渡り合える。


『レオ、火が回ってきた!』

「分かってる!」


 そう、渡り合えるだけである。火に囲まれ、刃物を持った相手となれば、経験は無く。平常心も既に失せているのだ。

 一方の一哉は、どこかこの状況を楽しんでいる節さえある。ハイになっている人間は、時として恐ろしい。


「いい加減、諦めちまえよ!」

「断る!」

「強情なヤローだ、くたばれっつってんだぜ!」


 精霊を排したこの状況、一対一のぶつかり合い。互いに目指すものがある以上、引く筈が無く。欲望なのか、願望なのか。両者を突き動かす物は、衰えていないという事だ。


「てめぇ、殺す気あんのかよ...!」

「あるわけ無ぇだろ。警備員だぞ、俺は。」

「はぁ!?なんでここに居やがる!」


 まぐれかもしれない。覚悟の証明かもしれない。一哉が叫んだ直後に、健吾のすぐ横にパイプが落ち、体勢を崩す。

 起き上がる間に接近した一哉が、構えきっていない健吾にナイフを振り下ろす。


「この半端野郎がぁ!」

「バカ取っ捕まえて、牢屋(リアル)に引き渡す為に...決まってんだろうが!!」


 落とされたナイフを掴んだ健吾が、それを頭上に持っていき。後ろに倒れ込みながら、一哉の腹を蹴り上げる。ともえ投げの様に後ろへ飛ばされた一哉が、受け身も取れずに背中を打ち付けた。

 腹をおさえ、背中の痛みにも呻く。暫くはまともに動けないだろう。


「てんめぇ...。」

「レイズ!外に出るぞ、コイツ担げ!」

『あぁ?ほっとけ。どうせ、そいつの精霊がどーにかすんだろ。』


 健吾の性格が分かってきた【積もる微力】は、殺す事はせずにナイフだけへし折る。...いや、ついでに肩を踏み抜いている。外れない程度だが、違和感はかなり残るだろう。

 流石に説得する時間も、自分が担いで走る時間も無いだろう。自業自得なんだと頭に叩き込み、すぐに脱出を試みる。


「朝っぱらから災難だ...」

『俺も暴れたりねぇ!』

「そういう意味じゃねぇよ!」


 道では無いところを強引に通り、時には瓦礫を壊しながら進む。

 いつの間にか爆発は止んでいるが、炎が広がり過ぎており、崩壊は止まりそうも無い。


「あった!出口だ!」

『あぁ?どこだ?』

「向こう...瓦礫の間から、光が漏れてるだろ!」

『なら、ぶっ壊せってこったな!』

「そういう事だ!」


 豪快にその拳を振るい、瓦礫を弾き飛ばして道を作る。崩れる前に健吾が走り込み、スライディングで抜けた瞬間、その道は上から潰れてしまう。

 振り向いた健吾の前で、崩れた通路にトドメを差すように、強引に拳が突き出される。


『ダラァ!!...ったく、物ばっかり殴ってる気がするぜ。』

「殴り会う精霊なんて、中々に居ないみたいだな。」

『山羊と牛は良かったんだがな。鎖紐の奴も。』


 健吾からすれば、出来れば会いたく無い奴らばかりである。他の奴らなら良い、という訳でも無いが。

 しかし、そんな思いも空しく。悪寒を感じて振り返った健吾の目の前で、大針が【積もる微力】に握り止められる。どうも昨日から、皆が好戦的らしい。


「蠍座の、針か...」

『本格的に潰しあいに入ってるな、こりゃ。三日もヒヨりゃ、十分だけどよ。』


 握るそれを潰し、獰猛に笑う【積もる微力】。だが、健吾の考えは違った。


「アホ、流石に2日も連続で、大事を起こしてんだ。すぐに離れた方が良いって。」

『あぁ?吹きとばしゃ良いだろ。まとめて全部を、よ。』

「体力が持たねぇわ!」

『ったく、軟弱な...』


 だが、そうも行かないらしい。彼女の精霊、【魅惑の死神】は移動能力も中々だ。最悪、逃げきれると考えたのか、攻撃の手を緩めない。


『おい、どうする。一発一発なら、こうして潰せるが...しつこいぜ?』

「弾丸みてぇな物、良く掴めるな...。仕方ねぇ、早々に本体を叩く。殺気向けてんだ、ぶっ叩かれても文句はねぇだろ。」

『いや、あるだろ...まぁ叩くけどよ。』


 まずは位置の把握...はする必要が無いらしい。ポケットから聞こえた声に、スマホをすぐに取り出して尋ねる。


「どうした?今、結構忙し」

『崩れ始めて...ずっと呼んでて。生きて...良かった...』

「あ、悪い...聞こえなかったんだ。」


 謝罪する健吾に、仁美は短く答えてから、すぐに続ける。


『今、東の入り口に隠れて、ます。上に昨日の人が...無事ですか?』

「レイズが全部止めてる。数秒事の単発射撃なら、怖くねぇな。」

『良かった...。止めますか?』

「いや、先に合流しようぜ。レイズ、近づいても止めら『誰に言ってやがる。余裕だ。』れ...だとよ。そのまま待っといてくれ。」

『ん。分かりました。』


 再びポケットに捩じ込むと、健吾はすぐに駆け出す。狙撃した時点で、大まかな位置がバレるのは想定内の様で。そのまま射撃を続行する。

 だが、近づいて間隔が短くなっても【積もる微力】はその針を通さない。掴めずとも、殴って弾く事ならば易くやってのける。


「このまま走り抜けるぞ、レイズ!」

『まーた足場を壊さねぇと...』


 高所に登るのは得意では無いのだ。とはいえ、何度もやった手口。相手も直接は見てないとは言え、予想は着いているだろう。

 近くまで行くと射撃も止まり、移動したのだろうと見当がつく。


『どこ行きやがった?』

「こういう時、三成さんの精霊は便利だよな...。」

『けっ、チマチマした力だけどな。』


 精霊を引っ込めて、健吾は電話越しに仁美へと尋ねる。


「足元にはきたが、今どこだ?」

『見失わないように、追いかけて、ます。崩れた工場に、行くみたい...です。』

「工場に?...もしかして、俺達を離したのか?」


 深追いしても、厳しい事になりそうだ。仁美に聞いた話では、弥勒との戦いにもなったのを思い、二対二の構図を思う。

 果たして、それは安全か?健吾はすぐに判断を下した。


「仁美、撤退だ。少なくとも、すぐには動けないだろうさ。人も集まれば、逃げづらくなるし...早めに移動しよう。」

『分かりました。』


 見逃されたか、気づかれてないか。どうやら、安全に場を離れる事は出来そうなようだ。


『ちっ、つまらん。』

「俺はお前ほど頑丈じゃねぇの。」


 なんだか失敗続きだが、欲張って自分が落ちては敵わない。逃げる事と生き延びる事は、直結することが多いのである。


「獅子堂さん、何処に行くん、ですか?」

「無事みたいだな。場所は...追々考えよーぜ、ここより危険では無いだろうさ。」

『どうだろうな、そいつは...』


 このまま逃してくれると良いが。三成からの連絡は無く、此方から伝える事も無い。

 今は、潜伏先を探すので良いだろう。乱入の危険を減らす事は出来たのだから。


『ここまで長引くのを、想定されてんなら...。いや、良いか。俺の気にする事じゃねー。』

「何してんだ、レイズ。行くぞ。」

『勝手に着いてくっての。』


 現在時刻、10時。

 残り時間、3日と21時間。

 残り参加者、13名。

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