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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第三章 舞踏にして武闘
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大乱戦を超えて

 四日目の朝。それは、とても騒々しい幕開けだった。


『おら、レオ!!起きろや!』

「うぉわ!?敵か?」

『みてぇなモンだな。』


 眠気に押されて、近場の公園で寝ていた健吾を、【積もる微力】が蹴り起こす。

 彼の親指の指す背後を見れば、そこには一人の男性が微笑んでいた。


「やぁ、獅子堂君。良く眠れたかな?」

「三成さん...レイズ、敵か?」

『いけ好かねぇからな。』

『そう言ってやんなよ、兄弟。迎えに来たんだからよ。』


 ふわふわの尾で、【積もる微力】の頬をはたくポルクスを、彼は鬱陶しそうに払う。笑いながらそこを離れ、健吾の肩に乗った精霊は、心底楽しそうだ。

 公園の入り口で、ランエボのドアを開けて待つ三成が、健吾を呼ぶ。


「一晩で、【狩猟する竜巻(ハンティングストーム)】に探らせてね。ある程度なら、参加者の居所を掴めた。昨晩の様な、大乱闘はいただけないからね、攻める場所を決めよう。」

「うっす、了解です。」


 今日は安全運転な三成にホッとしつつ、二人は互いに情報交換に入る。


「昨晩、襲撃者は追っていた蠍の組以外、羊と牛の二組かな?」

「いえ、こっちに馬が来ました。」

「馬?...射手座かな。」

「弓矢使ってたし、そうみたいっす。」


 頷く健吾に、軽く特徴を聞き。三成は頷いた。


「此方は、天秤座と魚座と思われる二組も見つけた。仁美君も、甲殻と泡を使う人魚...おそらく蟹座だろう者とも。かなり判明したね。」

「笛吹は来なかったんすね...あと、瓶のアイツ。」

「そちらは、後で聞こうか...ふむ、出揃ったな。13の精霊が。」


 対応策を考えているのか、三成はそれきり黙り込む。程なくして、ゲストハウスへと到着し、二人は家の中へと足を運んだ。


「...ますから!」

「...って!」

「ん?少し騒がしいな...」

「どうしたんすか?」


 健吾が扉を押し開けると、そこにスリッパが飛んで来て、側頭部へと激突した。


「でぇ!?」

「「...あ。」」

「何をしているんだ...?」


 呆れながら、中を覗く三成に、黒い毛並みのカストルが呟く。口に加えた物を、三成に見せながら。


『これだろ、これ。』

「...蜂?入り込んでいたか。」

「え?これ蜂っすか!?デカぁ...。」


 頭を擦りながら、スリッパを持った健吾がそれを覗き込む。オオスズメバチだ。


「すいません...」

「いえ、大丈夫っす。」


 スリッパを飛ばした犯人、弥勒にそれを返しす健吾。その横で、ポルクスが蜂を美味しく戴いた。


「げっ。」

「おい、ポルクス...」

『だって美味そうでよ。』


 へへ、と笑いを溢すポルクスに、三成は溜め息を落とす。そそくさと離れ、霊体化する一対の精霊。...蜂はどこへ消えたのだろうか。


「とりあえず、全員無事で何よりだ。仕事の調査と行きたいが、それも参加者が多く、乱闘の中では厳しい。私一人では、危ない場面もあるからね。」


 三成が、居間に入り、大きめの紙を広げる。横には地図を広げ、そこに簡単に記しを打っていく。


「潜伏先と思わしき場所だ。この四ヶ所だよ。残念ながら、天秤座の彼と、蠍座の彼女...そして、魔蝎登代の潜伏先は不明だ。」

「それで、四ヶ所ですか?」

「あぁ、二組居る場所が、二つある。このホテルと、海岸の空き家だ。」


 問いかける弥勒に、三成は地図を示しつつ答える。


「そして...おそらくだが、ここからは別れて動くのが良い状況になるだろう。」

「なんでっすか?」

「昨日の乱闘に、様々な地形の破壊。参加者もだが、ここにも警察がいるようでね...動きがある。」

『確かだぜ、兄弟。羊座の野郎も、拠点を移すみてぇだった。徒党を組んで銃をぶっぱなされたら、堪らねぇだろ?』


 これはゲーム、警察も穏健に等と言わない集団のようだ。流石に、首都高や倉庫地帯を破壊するのは、不味かったらしい。


「そちらで何かあれば、連絡をくれ。メールアドレスは渡してあるだろう?」

「はい。でも、メールってどうやって送るんすか...?」

「...そう来るか。」


 前途多難である。




 朝食後、四人は二組に別れてそれぞれの場所へ向かう。日のあるうちからドンパチは出来ないが、相手の動向を把握出来れば、奇襲が可能だからだ。

 もっとも、【積もる微力】は向いているては言えず。奇襲を避ける意味合いが強い。その為、動きについていけて、危険度の高い相手。羊座の精霊の契約者、柏陽(はくよう)一哉(かずや)を担当する。


「怪我ぁしたら、頼むぜ。」

「ん。...生きてて、よかった、です。」

「あの程度なら、大丈夫だって。」


 火傷を見られていないのを良い事に、平然と嘯く健吾。仁美の心配など、どこ吹く風である。

 若干、すれ違いが生じつつも、二人は町の外れ、工場へとたどり着く。もう稼働はしておらず、元は製鉄所だったようだが、簡単に侵入できた。


「まさか、あの棍棒が自作ってか...?」


 動きそうな旋盤や溶接の機械に、放り捨てられた()()()()やペンチを見て、健吾が驚く。

 厚めの革手袋も、ここで入手したのだろう。


「ここ、動くの...?」

「明かりがついてる機械あるし、電気は止まって無いんじゃないか?小さなのなら、動きそうなもんだが...」

「かえって、危険そう...」


 注意深く辺りを見回す仁美だが、健吾は持ち前の勘に任せて、ホイホイ奥に進む。なんとなく、触れない方が良い物は分かる。無意識下で判断しているのだろうが、言葉に出来ないといった所である。

 その辺りの通路を彷徨き、羊座の契約者を探す。鉄板で出来た通路が、カンカンと音を立てる。


「獅子堂さん、足音...」

「結構、静かにはしてるんだけどな...」

「でも、響き、ます。」


 かく言う仁美も、足音を響かせている。放置され、多少なりとも錆びた鉄板は所々が浮いており、音を立てずに動くのは至難の技だ。


「向こうも、おんなじだろ?分かりそうなモンだが...」

「まだ寝てる、とか?」

「いや、出る準備してるとか言ってたしよ...。多分、起きてんだろ。」


 昨日は、橋の崩壊に巻き込まれている筈なのだ。慣れていたとしても、足音を消す程の余裕があるとは思えない。

 無傷であるなら、発火や爆発以外に能力を隠している、と思われる。


「どうする?もう少し奥に行くか?」

「ん...でも、あんまり奥に行くと、出られない、から。ここは相手の居た場所だし...すぐに離れられる方が、良いんじゃないでしょうか?」

「それもそうか...。でも、外を包囲出来ないんだよな。」


 逃がしたくは無いから、ここに来ているのだ。出来るなら追い詰めたい。


「仁美、出口を固められるか?最悪、俺なら強引に外に出て、お前に治して貰えるし。」

「単独行動、危険なんじゃ...」

「でも、固まってたら火に撒かれる。だったら、自己防衛出来る俺が良いだろう?」


 健吾の精霊、【積もる微力】なら。一度はやりあっているし、近接戦闘での防衛力が高い。【辿りそして逆らう】程では無いが、機動性と攻撃能力も考えれば、差は歴然だ。


「......分かり、ました。でも、気をつけてくださいね。」

「おぅ、任せとけ。」


 奥から探す健吾が、見逃したなら仁美が。電話(仁美は三成に貰った物だ)を通話状態にして。健吾は奥を、仁美は入り口を目指す。

 見つけ次第、それを通じて把握できる。

 奥に進んだ健吾が、辺りを見渡せば。停止した炉や、布の被されたローラー等、色々な物が目に入る。


「こんな所で、良く寝泊まり出来んな...。」


 布をどかし、埃に咳き込んだ健吾がぼやく。もう少し奥になら、眠れる所もあるかと進む。階段を登り、製造ラインの上を渡る橋を歩いて行く。

 ふと、違和感の様な物を感じて、健吾が足を止めた。その正体を探る為に振り向いた瞬間、背後で炎が立ち上がる。


「ちっ、そのまま進んどけば良かったのによ。」

「上!?」


 配管から飛び降りた一哉が、手に持つ鉄棒を強く振り下ろす。


「くたばれ、脳筋野郎!」

「防げ、【積もる微力(レイジングダスト)】!」


 背後から顕現した精霊が、脳天に迫る鉄棒を両手で挟み込む。白刃取りの要領で掴んだそれを、横に傾けて橋から落とそうとする。


「【意中の焦燥(ターゲットファイア)】、着地!」

『はいはーい、それ~。』


 肩に現れた精霊が、気の抜ける掛け声を放つと、一哉の靴裏で金色の綿が膨れ上がる。フワリと着地すると、それは音を消して、そのまま歩くのに問題ない大きさとなる。


「なんだよ、あれ...」

『そんな事よりも降りるぞ、レオ。』


 橋の上でバラバラに撒かれた石が、爆弾の様に火を振り撒き、燃え続けている。炎に巻かれる前に、早々に下に離脱する。

 機材を足場にして、数回跳んで下へと降り立つ。一度の跳躍で下に行っていた【積もる微力】が、健吾を攻撃しようとする一哉を迎撃する。


「ちっ、鬱陶しい!離れてもこのパワーかよ!」

『ガキとどっこいなんざ、情けねぇ限りだよ!』


 降りた健吾が早々に接近すれば、瞬間的に均衡はくずれる。一哉の蹴り足を片手で掴んだ【積もる微力】が、軽々と上に放って拳を引く。


「打ち抜け、レイズ!」

「うおぉ!?足場だ、羊野郎!」


 広がった金色の綿毛が、一瞬だけ滞空し。その間に駆けて、別の橋へと跳ぶ。それが消える前に、脅威的な勘で一哉の頭目掛けて、近くの鉄骨を一つ投げつける。


『うぐぇっ!』

「あっ...ぶえねぇ!」

『ちっ、肩かよ...』


 舌打ちを一つ挟んだ精霊が、舌の根も冷めやらぬうちに、次の行動へ移る。

 健吾と共に橋の足へ駆け寄ると、その拳に闘気を纏わせて叩き込む。


『ダアァララララアアァァ!!』

「揺れ...!?何してやがる!」


 放り捨てたのは、金属の切り屑。それが着火され、簡易的な爆発を起こす。波状に連続した燃焼、粉塵爆発である。

 熱波に呻きながらも、即座に引いた健吾と【積もる微力】が、闘気を昂らせて拳を握る。そう、既に許容量は越えている。


『イグニッション。』


 グワンと音を立てて歪んだそれは、次の瞬間には折れて崩れ始めた。

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