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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
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パワー!Power!

『来やがったな。』

「レイズ、準備は良いだろうな?」

『てめぇよかマシだ、半裸男。』

「お前もだぞ、それ。」


 崩したビルの破片を辺りにバラまき。健吾は待ち構えていた獲物の到来を予感していた。

 健吾の直感を得ている【積もる微力】も、同じく察知し。やがて響く地響きに、ニヤリと獰猛に笑う。


『当たりだ、牛だぜ。』

「獅子らしく、食らい尽くせよ。レイズ。」

『たりめぇだ。俺は負けねぇ。』


 闘気の滾る拳を打ち合わせ、【積もる微力】は契約者を振り向く。


『おい、レオ。俺の全力が奮えるのは、お前が近い時だけだ。精々二~三m、離れんなよ?』

「おぅ。全力で信じてるぜ、かましてやれ。」


 押し負ければ、確実に一手の届く距離。【積もる微力】の防衛能力が試される。


「来た!」

『フウウウゥゥゥー!!!』


 金属と化した猛牛は、瓦礫を撥ね飛ばしながら突進する。健吾はそれを避けようともせず、一言叫ぶ。


「喰らわせろ、【積もる微力(レイジングダスト)】ぉ!!」

『ダアァァララララアアァァ!!』

「きゃあ!」

『吹キ飛ベイ!!』


 角と拳が打ち合い、撃力による振動が互いの芯まで響く。

 しかし、止めた。突進を、片腕で。


『コノ、パワーハ...!』

『契約者が手綱みてぇに持つとは、考えたな?だがよぉ、ワイヤー程度の重みで押しきれると思うのかぁ!?』


 啖呵を切った【積もる微力】が、角を掴み膝で蹴りあげる。顎に入ったそれは、普通ならば昏倒するだろうが、ステンレス鋼の表皮では大したダメージにもならない様だ。

 首と肩の筋肉だけで、【積もる微力】を軽々と持ち上げた【母なる守護】が、角を持ったままの【積もる微力】を叩きつけた。


『がはっ...!』

『重サガ足リンゾ?童子ガ!!』


 そのまま踏み潰そうとする【母なる守護】だが、その重みを【積もる微力】は堪えて見せる。

 蹄をがっちりと持ち、押し返そうとする【積もる微力】...いや、違う。むしろ、その場に縫い付けているような。


『離れろ!小娘ェ!』

「あぐっ...!」


 背を丸める様にして、放り出された二那が、地面を転がって呻く。

 それが間に合うと同時に、辺りを闘気が巡る。


「も、もしかして。この瓦礫が全部...」

「やれ、レイズ!!」『たりめぇだ。』

「『イグニッション!」』


 燃える闘気が、蓄積された力を一気に解放し。凄まじい速度で【母なる守護】に叩きつけられる。

 鋼にコンクリートが当たる音が、数秒間響き。その間、僅かに浮き上がった隙は、決定的だった。


『ダアァララアァ!!』


 喉をしっかりと捉えた拳が、数秒間に何度も襲う。【積もる微力】が、健吾の側まで飛び退いた時には、近場の金属が吹き飛んで金属ではなくなり、アザを点在させる【母なる守護】が立っていた。


『貴様ら、ここまでコケにして、ただですむと思うなよ!!』

「随分と聞き取りやすくなったぜ!聞く気は無ぇけどな!」

『このまま、叩き潰してやるよ!!ダアァララアァ!』


 愚直なまでに突進を繰り返す牛の精霊に、【積もる微力】は拳を叩き込んでいく。

 しかし、【母なる守護】はそれを物ともせずに。強引に突破し、角で突き上げてくる。呆れる様なパワーが、互いにぶつかり合う。


「タフな奴だ...」

『此方のセリフだ、小僧。』


 その中で。巨体の【母なる守護】と、戦士である【積もる微力】のぶつかり合いの中で、常に距離を離さない健吾。

 時には【母なる守護】の上を、パルクールの様に飛び越えたりまでする。


『いい調子だ、レオ。このまま潰してやる!』


 単調ではあるが、契約者から離れても、その巨体から来る重い一撃は強烈で。

 人型である【積もる微力】が、契約者のすぐ近くに居ても、全くの互角。元々、単独でもある程度は、動ける精霊なのだろう。


「っ...!【母なる守護(プロテクトガイア)】...何か、来るわ。」


 熱中していた中では聞こえずとも、外からならば気づく事もある。二那が辺りを見渡していれば、突然に紅い光が通る。

 咄嗟に避けた健吾の横を掠めて、それは後ろの【母なる守護】に突き立てられた。悲鳴を遮る様に、高笑いが響く。


「随分と楽しそうだのぅ!儂らも行くぞ、【疾駆する紅弓(アルスナルケイロン)】!」

『ふん、楽しむ余韻も無いわ...』


 既に二射目を放った弓弦が、振動を終えるまでも無く、三射目。

 二発、立て続けに飛んできたそれを、【積もる微力】が掴んだ二射目で最後の一矢を弾く。


『あっ...ぶねぇな!おい!』

『ほう、素晴らしい動体視力と反射神経だ。』

「ナ、ナイスだ。レイズ...」


 額を伝う汗を感じつつ、健吾はすぐに走り出す。怯むのも一瞬、今は距離を詰めるべきと、判断したからだ。

 直感に任せた回避も、何度も矢は避けられない。突進ならば間に合う、ならば狙うは馬に跨がる射手一人だ。


「来るぞ?相棒。」

『何を落ち着いている...?走れ、ルクバト!』


 健吾にぴったりと付き添い、守護霊の様に飛ばされる矢を殴る【積もる微力】だが、すぐに振り向かざるを得なくなる。

 猛然と突撃してきた【母なる守護】を、積もった力+右のストレートで迎え撃つ。角と、喉。二ヶ所で光る闘気は、今なお力を保持しているのだ。


『牽き潰す...!』

『やってみろ...!!』


 その隙を、【疾駆する紅弓】が見逃すか?いや、それは無い。続けざまに放たれた四発が、的確に【積もる微力】の四肢を狙う。


『クソが!!』


 すぐに【母なる守護】の横面を支点に、回し蹴りの要領で横へ逃れる。直進した牛と矢が、正面からぶつかった。

 しかし、既に二那が上へと戻っており、ワイヤーで再び金属化している。矢は刺さらず、弾かれて辺りに落ちる。


『グウゥッ!!』

『通っていない...?傷が浅いな、鋼の牛か。』

「鋼じゃと?処刑具でもあるまいに...」

『ファラリスか?では、熱してやるとしよう。』


 相性が悪い【積もる微力】より、今仕留められそうな【母なる守護】に狙いを変えて。つがえた矢を2連続で放つ。

 それは、すぐ横を通りすぎ、後ろの柱を破壊する。嫌な音を立てて倒れたその上には、機械油が保管されていた。


『主、火を。』

「やってやれぃ、相棒。」


 ライターを矢の先にかざし、火矢として放つ。精霊の矢は、炎を消すことなく油へと着火した。


「火が...!」

『ヌゥ...徹底ダ!突進シテモ、奴ニハ当タラン!』

『逃がすとでも?』

『追えるとでも思ってんのかよ!』


 投げられた石が、加速気味に飛び込み、【疾駆する紅弓】の肩を捉えた。めり込んだ石に顔を歪めつつ、即座に弓を足に当て、矢を番える。

 放たれたそれは、【積もる微力】の喉に向かう。手では間に合わないと勘づいた精霊は、ガチリと噛みつき、矢を止める。


『まるで獣だな...!』

「突っ込む!そのまま喰らわせろ!【積もる微力(レイジングダスト)】!」

『勿論だ、ダアァララアァ!』


 足を鐙から離した不安定な体勢では、即座に馬も駆け出せず。結果、その隙に接近を許してしまった。咄嗟の反撃は見事だったが、裏目に出たことに苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 だが、馬上には精霊だけではなく。もう一人、男が乗っている。


「気を抜くで無いわ!」

『ぐぁっ!?』


 突如として迸る閃光。九郎が、スタングレネードを投下したのだ。強い光が目に痛みを覚えさせ、健吾も【積もる微力】も、数瞬だけ停止する。

 そして、首筋が冷えるような感覚。咄嗟にしゃがめば、馬の蹴りあげた足が、頭上で夜の空気を裂く。


『ほぅ、ルクバトの蹴りを避けるか...勘の良い奴だ。』


 流石の【積もる微力】も、しゃがむ動作から素早く反撃は難しい。下手に上へと延び上がれば、対処するのに遅れが生じて、カウンターを受けやすいからだ。

 素早く転がる様に離れ、攻撃に対応出来るだけの距離を取る。共に飛び退いた健吾が、止めていた息を大きく吐き出した。


「厄介だな...どうする、レイズ。」

『あぁ?知るか。叩き潰す以外にアンのかよ。』

「だよな...!」


 脳筋極まるは馬鹿の知恵。迷うは僅かで済ませ、再び接近する隙を伺う。どうやら、【母なる守護】とその契約者は、既に離れた様である。


「さて、相棒。どう仕留めるね?」

『ふん、貴様の様な道楽男が考えるべきでは?仮にもマスター、契約者なのだから。』

「ならば、そうさせて貰おうかの。駆け上がれ、【疾駆する紅弓(アルスナルケイロン)】!」


 瓦礫の山を軽やかに走り、周囲から睨みを聞かせる。先のスタングレネードを警戒し、視線を会わせ続ける訳にもいかず、【積もる微力】は苛立つ。


「レイズ、マークした瓦礫は?」

『全部、撃っちまった。回りのはガラクタの山だよ、クソ。』


 駆け回りながら、矢を生成して放つ精霊に、【積もる微力】は拳で矢を弾き続ける。横から殴るという、飛来物に対する離れ業をやってのける。

 このままでは、じり貧と悟ったのか。【疾駆する紅弓】へ、九郎は次の指示を出す。


「まずは動きを止めるか。左腕に集中じゃ、出来るか?」

『狙えはするが、当たるかは別だ。』


 連続した矢も、悉くを反応してくる。近づけば反撃の危険もあり、どうしても射てから着弾までに猶予が出来るからだ。

 時々投げ返される矢は、加速して避ける。契約者も左腕も射抜けず、段々と疲労していく。肩の痛みで、狙いが逸れる可能性もある。


『いくら目が良くとも、掴まれてはな...。』

「準備をせずに挑む相手ではなかったか...。仕方あるまい、撤退じゃ!今夜も誰も減らんかったのぅ...」

『途中で、あれも拾うか?』

「勿論じゃ、探しながら行くぞ。」


 離れる動きを開始する彼等に、【積もる微力】が怒鳴りながら投石をする。しかし、それが当たることは無く。健吾達は残される。


『ちっ、逃がしたか...。どいつもこいつも、根性が無ぇな。』

「俺でも、お前相手なら辟易するとは思うけどな...」

『文句でもあんのか?』

「いや、頼りにしてるぜって事だよ、レイズ。」

『へっ、最初からそー言え。』


 鼻を鳴らした精霊は、霊体化して姿を消す。時間も少しは稼げただろうか?健吾は先に三人の帰っておるであろう、ゲストハウスに急ぐのだった。


現在時刻、21時。

残り時間、4日と10時間。

残り参加者、13名。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに混戦! 健吾とレイズって元々性格的にも合ってるのかも。 二人のやり取りもすっかり「バディ」って感じですね(*'ω'*)好き! 息もつかせぬ迫力の戦闘シーンがカッコ良い! 特に【母なる…
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