表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第一章 出会い
2/144

目覚めた獅子

 眩い光は納屋の地面から、円を描いて広がる。それは刹那の間に一際強く輝き...


『ダアァァァララララアアアァァァァァァ!!』


 猛々しい雄叫びと共に、現れたのは一体の精霊。高い身長と、それに負けない肩幅は、力強さを感じる。炎の様に揺らめき鬣の如く広がる頭髪を持つ、あまりにも肉体的な精霊。

 簡易な装飾と刺青の目立つ、その大男。光から飛び出した精霊は、月明かりを浮けながら拳から闘気を放つ(比喩ではなく本当に炎の様に吹き出している)。


『くっ、未契約の精霊...。』

『攻撃禁止規約は参加者だよなぁ?精霊は入ってねぇぜ。』


 不意打ちを喰らった【宝物の瓶】は、不利に思ったか姿を霧散させた。契約者の判断を仰ぎに行ったのかもしれない。


「助かったよ...えと」

『血は...お前か。』


 床に散った血痕を見たあと、精霊は健吾の頬を見る。

 鈍く熱く、痛みを訴えてくるこの感覚は、今の目の前の非現実な光景を、真っ向から否定してくる。既にこれは虚構か現実か、健吾には区別がつかない。


『よし、良いだろう。《我、【積もる微力(レイジングダスト)】の名を揚げて問う。契約を交わすか?》どうだ?人間。』

「えっ?契約...そうか、精霊の。あぁ、良いぜ!元からお前を探してたんだ!」


 健吾がそれに応えた瞬間、背中を一瞬焼けるような感覚が襲う。

 痛いと思う間も無く、それは去ったが、変わりに確かな繋がりを感じる。


『俺達、精霊は契約者の願いを成就させんのが役割だ。てめぇの勝ちに力ぁ貸すぜ。』

「てめぇは止めてくれ。俺は獅子堂健吾だ、よろしくな【積もる微」

『ダルい、縮めろ。』

「...よろしくな、レイズ。」

『はっ!よろしく頼むぜ、レオ。』


 獅子堂だからレオ、という事か。随分と雑、いや荒々しい奴である。


「あ、忘れてた。えと、怪我は無いか?」

「...あっ、うん。その、ありがとう、助けてくれて。」

『あんだ?...不思議な奴だな。精霊の気配がねぇぞ。』


【積もる微力】は首を傾げながら少女を見下ろす。健吾よりも一回り大きな精霊は、少女より頭二つは行きんでていた。


「あんまり怖がらすなよ。」

『ぁ~ってるよ。まぁ良いさ、引っ込んどくから用がありゃ呼べ。お前の周りに居るからよ。』


 霞の様に消えた精霊に、健吾は肩の力を抜いた。敵対してない雰囲気だろうと、未知との遭遇には緊張感がある。


「さて、あんたも参加者か?」

「...。」

「いや、俺は何もしねぇよ...いきなり過ぎて、理解も追い付かない。」

「それが...私も確信は、してない、から。」


 外見年齢の割には、少し辿々しい言葉。それでも意味は伝わるが、それが逆に混乱する。


「あーっと?参加者ってのは通じてるよな?」

「うん。」

「分からんと?」

「...うん。」


 おかしい。参加者は自分で望んだ者だけの筈だ。参加者で無いならば、こんな中途半端な返事にはならないだろう。


「しかしよ、なんでこんな場所に...?」

「精霊を探して...。他の所は契約が終わっている、から。」

「最後かよ...まぁ起きたの昼過ぎだしな。」

「...お寝坊さん?」

「否定できねぇけどよ...。」


 あんまりな言い種に、少し肩を落とす。しかし危なかった様だ。これを逃せば精霊と契約が...


「ん?」

「どう、したの?」

「いや、なんでもない。そういや、お前の名前は?俺だけ聞かれるのも理不尽じゃね?」


 勝手に聞かせておいて、少し理不尽だ。しかし少女は気にしていないのか、すぐに答えてくれた。


「私、巳塚(みつか)仁美(ひとみ)。」

「ひ、とみ...。」

「...んぅ?」


 突然だまる健吾に、少女...仁美は小首を傾げながら、手を顔に伸ばす。

 目の前で振られる手に、健吾は頭を振って再起動した。


「あ~なんでもねぇ。此方の話だ。まぁ、改めて。俺は獅子堂健吾だ。よろしくな、巳塚ちゃん。」

「ごめんなさい、あんまり巳塚とは、呼ばれたく無い...。」

「...?なら仁美ちゃん、で良いか?」

「呼び捨て、希望...!」

「何で...?まぁ、良いけど。」


 第一印象は大人しいと思ったが、かなり変な娘のようだ。とはいえ、目の前で殺されかけていたのでは、ここでハイ、サヨナラとは出来ない。

 健吾は、基本的に世話焼きなのだ。参加者ならば、せめて精霊と合流位は、出来ないとフェアじゃない。健吾にも譲れない物がある。そこから先は...今は考えないで良いだろう。


「獅子堂、さん。...良いの?」

「なにが?」

「最後の一人にならないと、願いが...」

「それは遠慮せずに狙う。でもまぁ、他の奴等も色々あんだろ。俺は俺が納得するために、こうしてるだけだっつの。」


 真正面から叩き潰す方が、健吾の性にあっている。それで損をするよりも、自分に自信を持ち続ける事。不知火さんに教わった事だ。

 自分が心地好く、止まることなく進める様に。その為の手段の一つ。人は感情の生き物なのだから、効率だけでは進めないのだ。


「...ありがとう。」

「おー、とりあえず行くぞ。ここにいたら、場所がバレてるから危ないだろ。」


 明らかな危険を目の前にしたあとで、健吾の警戒心も最大限にひきだされている。既に始まっているのだと、遅れながら頭に警鐘が響く。


「よし、今は外に人はいねぇみたいだ。ずらかるぞ。」

「ん、分かった。」


 外に出れば、今正に日が落ちた所だ。夜、人の動きが止まり、他のモノの活動が始まる時間。

 今尚、混乱している状態、わざわざ敵対者を増やす事は無い。一時的な協力者、危ない綱渡りだが。

 仁美は力を、健吾は信念を。お互いに動き続ける為に、お互いを利用する。そんな協定。




 一方、少し時間を戻す。此方は昼頃、まだ町中での事だ。

 一人の少女...宇尾崎(うおさき)寿子(とじこ)は河川敷を歩いていた。


「多分、この辺りなんよね...って、なんか人がおらんような。」


 彼女も淡い違和感とでも呼ぶべき物に引かれて、この場所を訪れていた。夢中で進んでいたが、橋の下の影に来て、ふと人影が見えない事に気づく。


「なんでやろ?まぁ、ちょっと入り組んどったけん、それかな?」


 歩いて20分、都会ではちょっと、とは言いがたいだろう。おそらく検査用の通路を歩く寿子は、ふと水音を聞いて足を止める。

 明らかに流れの違う場所。緩く渦を巻くそれに、彼女は見いっていた。


「なんか、おるん...?」


 ふらりと一歩を踏み出し、水の中を歩く。僅かに発光している渦まで、浅い水溜まりの様に。

 そこに足が入った瞬間、彼女は渦に呑まれる。頭の中に声が聞こえた様な気がして...寿子は指を強く噛む。血が滲み、次の瞬間には辺り一帯を照らす光が、水中から二つの影を、水面に落とした。


「おさ、かな...?」

『おさ...!?ふん、《我、【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】の名を揚げて問う。契約を交わすか?》無礼な娘。』


 美麗な輝きの鱗に包まれた、大きな鮫、だろうか。それが少女の前にて、人の言葉を伝えてくる。


「もしかして、精霊さんなん?ほんなら契約、うちは、するけんね!」


 水中にも限らず、その声は元気に響く。それに一つの頷きを返されたと同時に、左足に鋭い痛みが走る。すぐに去ったが、靴を脱げば♓と紋様が残っている。


「ちょ、これ消えるん?先生に見つからんよね?」

『煩い小娘だ...。消えるから少し静かにせんかね?』

「乙女の肌に跡つけといて、酷いお魚やなぁ。そなガボッ!?」

『だから静かにしろと...ほれ、泳げ。』


 唐突に水中呼吸が出来なくなり、溺れかけた寿子。【浮沈の銀鱗】に押され、すぐに水面まで辿り着く。


「はぁっ!なんでなん!?」

『召喚の余波が消えただけだ。むしろ、何故水中で呼吸が出来ずに文句を垂れる...。』

「さっきまで出来とったけん!」

『それは別レイヤーの位相をここの座標に双方通信した際の一時的な』

「お魚さん、メンドクサイ人やんね?」

『魚では無い!【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】という名がある。』


 互いに叫び疲れ、息を荒げる二人(人?)だったが、その場所に石が一つ投げ込まれて止まる。


「ふぇ?」

『ぬっ?これはっ...!』


 突如上がる火柱は、辺りの熱を急激に上げて、出口を塞ぐ。橋の下から出られ無い。


「はっはぁ!最初の獲物を見つけたぜ、羊野郎。」


 通路の先から、額に♈と紋様がある青年が歩いてくる。彼が再び石ころをバラ蒔けば、辺りが炎の林へと様変りだ。


「さって、【意中の焦燥(ターゲットファイア)】。次だ、次。狭い所は集中弾幕が効くんだよ。」

『しつこいなぁ...でもさ、もう居ないよ?』

「あぁ!?マジかよ!何処から...」

『下だよ、ハックー。』


 青年の肩で、ふわふわモコモコと揺れる精霊が、警告を伝える。次の瞬間に、青年の足下は揺れ、飛び退く青年の前で牙がガチリと音を立てた。


「地面を...泳いでやがる!」

『う~ん、逃げられるよりも、狩られないか心配だなぁ。』

「寝てんなよ、羊野郎!こうなりゃ辺り一帯燃やすんだよ!」

『派手にやってバレても知らないよ~。』


 足下のコンクリートに手を付き、本当に周囲に炎を撒き散らす青年。そのまま壁をよじ登り、橋の骨組みに腰掛ける。


「OK、ここなら」

『ハックー、後ろ!』

「いっけぇ!アルレシャ!」


 壁の中から飛び出す鮫が、青年の肩に噛みつく。喰われた【意中の焦燥】が炎を撒き散らすので、すぐに離れて川に落ちた。

 背鰭に捕まる寿子が、はしゃいだ様に何度も銀の鱗を叩く。


「凄いやん、アルレシャ!コンクリートの中をバーって!」

『少し静かに...っ!?潜るぞ!』


 投げ込まれた石ころが、爆弾の様に炎を撒き散らして破裂した。水面にいくつも降ると、その波紋を増やしながら爆音を鳴らす。

 少しして、反応が無い事を見届けると、青年は舌打ちをした。


「ちっ!あのガキも結構厄介だな。潜水してられる時間が長そうだ。」

『精霊を倒す必要は無いけど、契約者を守られたら別だものね。本当なら僕も、もっと燃やせるよぉ?』

「俺ごと燃やしたら殺すぞ。」

『口悪~い。人間の間だと何だっけ?キッズとか言うんでしょ?』

「...黙ってろ。」

『うわぁ~ぁあ~あー。』


 頬をもみくちゃにされて、悲鳴(?)をあげる【意中の焦燥】を他所に、青年は下を見た。


「どうやって下りるかな。」


 火の海と溶けて固まったコンクリートの塊。青年がそこから這い上がったのは、それから一時間後の事だった。

気紛れと言いましたな?

ストックはあるにはあるのだよ(ФωФ)フフフ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ