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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
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~happy birthday to ♎~

 歌を作ろう!とびっきりの、僕らの歌を!!

 小さな頃の、夢物語。キラキラの思い出。

 娯楽、興奮、夢、学び、教訓。様々なコンテンツが取り囲む事で、吸収しては構築される。

 その中でも、記憶に残っているのは...いつも聞こえてきた、「音楽」だった。




「なーなぎん!今日は来れるっしょ?」

「うわっ!?っ~!!」

「あ、ごめん。ダイジョブ?」


 後ろから飛び付かれて、天野(あまの)那凪(ななぎ)は打ち付けた額を抑える。

 窓の外に偶々あった木の板。()()()()が刺さらなかっただけ、マシかもしれない。


「相変わらず、ついて無いねぇ~。」

「今回は、君が突き飛ばしたじゃないか。もー...。」

「ごめんって。帰りにジュース奢るからさ!」


 窓から他の生徒を眺めていた那凪に、彼は手を合わせながら頭を下げた。別段、今更気にする仲でも無い。それは良いよ、と断りをいれて、那凪は向き直る。


「何時から?」

「お?放課後すぐ!」

「貸してもらえたの?」

「勿論!今日の担当はコバヤンセンセーだもんよ。」

「あぁ、それなら納得。」


 規則って言葉を問いただしたくなる教師だ。生徒の事も、周囲の折り合いも見ているので、人格者であることに違いは無い。

 周囲から、フワフワした奴ら、と評される那凪達には、良い味方である。


「さっ!放送室にGO!」

「半分、私物化してるよね...。」


 中学生ともなれば、流石に遠慮も出てくる。しかし、それ以上に大切な物が、彼等にはあった。キラキラした、清く正しいと思える物。恥ずかしいが、夢と呼べる物。

 まるで、自分そのものの様に感じる事さえある、その思いを。多くの場合は、あまり良い顔はされない。良くも悪くも、人は安定が好きなのだ。


「投げ出してのギャンブルも、良いと思うけどね...。」

「ななぎん、敗けるんじゃない?」

「これは運じゃないから。僕らが勝ちを決めるんだしね。」

「でも、価値は人が決めんのよねぇ...。」


 スマホを弄りながら、溜め息を吐く友に、那凪も苦笑する。手軽に誰でもアーティストになれる時代、再生数という結果は残酷だ。

 残れるか、否か。それを現実というナイフで、明確に叩きつけてくる。


「とにかく、今日も一本、収録行こうぜー!ななぎん!」

「遅いぞ、お前ら。」

「機材とマイク、セットしといたよー。」


 ドラムの向こうから睨む少女、キーボードの前で微笑む少年。後ろから駆けた彼は、ギターを肩にかける。


「よし、行こうか!」


 キーボードの少年が、一声発してから、その指で曲を奏でていく。遅れて合わさっていく三人の演奏。

 マイクを握り、那凪は後ろのそれに身を預け。

 閉めきった防音扉の中で、今日も音楽は作られる...。




「...ん、朝か。」


 懐かしい夢を見た、まだ四人が揃っていた頃の。そして、もう二度と、叶わない光景だ。


「ん~...。昔に囚われるな、なんて歌う僕が一番囚われてるよね~。」


 枕元の写真立てを倒し、見えないようにして。彼はカレンダーに目線を向ける。


「今日と明日は休み、か...。」


 バイト暮らしの彼に、贅沢は許されない。窓際で栽培するバジルとリーフレタス。追加でニンジンでサラダを作り、ご飯と共に頂く。


「給料日まで、あと10日...。お肉が恋しいなぁ。」


 サラッと食事を済ませると、彼は壁の時計を見る。そういえば、時間の指定はなかった。

 メールを開けば、『願いを持つ者に、その成就を。精霊舞闘会に招かん。』とある。

 場所とルールはあるが、時間も人数も、必要な書類も無い。


「まぁ、行ってみて何も無いなら、それでも良いよね。」


 限界を感じていた那凪には、渡りに船である。もしかしたら、インスピレーションが湧くかもしれない、と乗り気であった。

 朝食を終えて、少し街を散策する。少し早起きなこの時間。通勤する者も少なく、街はまだ眠っている。


「お、朝日...んー、次の曲はこれをモチーフにしようかな?」


 綺麗な朝日。自分の心情は、この際記憶から引き出す。景色巡りの旅を計画しつつ、骨組みをスマホで作っていく。簡単な楽譜と、歌詞。アプリでも作成出来るとは、便利な世の中だ。


「そろそろ向かおうかな...?」


 既に終わりました、では面白くない。人の往来が増え始めた辺りで、那凪は目的地に進み始める。怪しげな工場の近く、謎のビル。これはこれで、インスピレーションが湧く。


「いいねぇ...ん?」


 どうやら先客が居たらしく。二人程、人影が見える。


(確か...あの人は女優だったような?)


 チェックしている人物が近く、それで偶々覚えていたぐらい。しかし、自信に溢れた態度と気品は、中々の物だろう。

 もう一人はさっぱりだ。


(僕が詳しい訳でもないけど...芸能関係者って線が消せないなぁ。)


 目立たない様に、服装は気をつけているのだろう。しかし、美人が隠せていない女性。

 自分も、一時はいい線にはいったのだ。そちらを疑っても良いだろう。とはいえ、遂にテレビに映る事は無かったが。


「おはようございます、奇遇ですね?」

「あら?おはよう。本当に奇遇ね。」


 軽く世間話と洒落こんでいれば、再び扉が開く。茶髪の青年がこちらを見てぎょっとし、すぐに笑った。


「あんたらが相手って事か、悪ぃが手加減しねぇぜ。」

「あら、どうやら悪戯でも無いみたい?」

「その様ですね。」

「...何の話してたんだよ。」


 どうやら、反応を見るに三人とも参加者。さて、どうやら主催者はよほどの酔狂者らしい。願いなど、どうやって叶えるのだろうか。

 暫く待てば、もう一人の少女が扉を開ける。少し派手な服装だが、嫌味な印象は受けない。それ以上に、その笑顔が目を引いた。


(ほんとうに、どういう集まりなんだか...。)


 続々と人が集まるなか、朝と呼べるか否か、といった時間に一人の青年が入ってくる。


「やぁ。」

「うわぁっ!?」


 驚かれてしまったが、少々強引に挨拶を済ませる。女性達は一ヶ所で話している様だが、茶髪の青年がいない。

 不平を言いながら戻ってきた頃、人形が現れた。オートマタとでも言うべきそれは、明らかにオーバーテクノロジー。


(小説家や画家なら、インスピレーションが湧きそうだ。)


 説明を聞き、それぞれが車に乗せられて移動する。

 時間がかかる様で、少し微睡み...

 ...



 雨が降っていた。その日は、一人の少年を惜しむように、雨が。

 子供の視界というのは、世界を随分と狭いものに写す。まるで、ごっそりと欠け落ちた、地球を見ている気分だった。


「なんで...なんでよ!」


 おそらく、三人の中でも一番ショックを受けていたのは、彼女であろう。普段なら絶対に見せない涙も、雨に負けない程に足元を濡らしていた。

 その傍らで、血が滲む程に唇を噛む自分を、那凪は上から見下ろしている。


(夢、か。)


 気づいても、どうすることは出来ない。過去は死人の領分であり、生者には干渉できない物だ。


「お、俺のせいじゃ...違う...俺は...。」


 いつもなら快活な彼も、今はヒドイ顔色だ。青くなった顔は、怯えの色を孕んでいる。

 全くの偶然だった。彼はいつもの様に、自転車を押していただけで。飛び出した子供に驚いて、それを離してしまっただけなのだ。


 だからきっと。誰が悪いという事も無くて。

 倒れた自転車に、自分の荷物が乗っていた。重いそれは、彼を押して...。

 車道は雨で濡れて、滑りやすかった。ブレーキは効かなかった。


 本当に、不幸が重なった、ただの事故。

 しかし、各々の心に罪を遺すには、十分な事故。

 もし、子供に早く気づけていれば?

 もし、自転車を離さなければ?

 もし、荷物を乗せていなければ?


 自分は悪くない。でも、もしかしたら...。思考が止まない。



(あっ...寝てた。)


 目を覚ました時に、少し頭が痛い。運転手に起こされ、着いた先は...


「...は~、趣味悪いね?」

「何の事ですか?」

「...ごめん、こっちの話。」


 あの後、一度だけ三人であった場所。決別を確かにした、廃工場の中。たしか、立ち入り禁止だったのだが...。どうやら、想像以上に上が関わっているのか。


(探らない方が良いね。用件だけ済ませて、さっさと帰ろうかな。)


 あの後。皆で作って曲を、大手の企業に売った奴がいる。

 軽くブームとなったその曲を、彼への手向けへとしたかった気持ちが、それぞれに違ったのだ。


 彼は、名が知れなければ意味がない、と。

 彼女は、彼の名が無ければ意味がない、と。

 そして...那凪は、四人の曲として。思い出と共に曲を残したかった。



 中心に居た彼の、最後の欠片が離れた様で。それきりだ。

 アニメで見た様な、近未来な筒に入り。那凪は今一度強く想う。


「僕の中に残っている、あの時の夢を。過去を越える為に、チャンスを。」


 鮮やかな色彩の中、那凪の視界は現世を離れていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 那凪くんを求めてTwitterから来ました(´・ω・) とっても楽しそうな学生時代と思ったら……友達とバンドを楽しんでいたのは過去の事なんですね。 自転車の事故とか、色々と辛い過去に囚われ…
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