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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
17/144

大乱戦

 大蠍の針は、再生時間こそあるが無限。廃材置き場のような、隠れる場所の多い此方は、有利と言えた。

 ポルクスの合流の後がどうなるか、それはその時に分かる。重要なのは、精霊が二柱、揃うこと。


「仁美君、無事か。」

「...っ!?双寺院、さん。」

「身を隠す事に専念してくれ。あの精霊の毒を食らえば、君の働きで状況は左右される。それまで無事でいることが重要だ。」

「大丈夫、です。この子がいるから...。」

「...そうか、還すのだったか。心配は無用か。」


 肩のカストルが短く鳴き、三成は走り出す。姿を見せた三成に、何度目かしれない針が撃ちだされる。

 振り向き様に発砲。カストルの補助もあり、針に掠めるそれは防御の役割を果たす。


「やれやれ、弾丸も有限なのだが。」


 リロードをしつつ、物陰に飛び込む三成。銃と精霊を警戒してか、大蠍の契約者も近づきすぎる事は無い。

 あわよくば制圧を狙い、牽制を続ける三成を見つつ、仁美は思考を巡らせる。派手な力を持つ精霊は、日のあるうちは動くのを避ける。NPCが、どう動くか分からないから。

 その点、【辿りそして逆らう】は心配ない。遠目から気づかれる様な、大きな力は無いからだ。夕刻の今、銃声を響かせている危険人物よりも、自分に出来る事は無いか。そう考えるのは必然だ。


「どうにか、あの人の動きを止められれば...。」

「可愛娘ちゃん、みっけ。何してるんだい?」


 驚き振り向く仁美に、鎖紐が絡み付く。巻き付いていた【辿りそして逆らう】が眼光を発して力を使えば、それは踊り子の様な少女の手元に戻る。


「っとと。あれ?【裁きと救済(ジャッジリカバー)】の鎖が...戻ってきた?」

『確定...精霊です。』

「うん、だろうね。」

『...?口説く...必要?』

「ごめんて。もうしないから。」


 肩を竦めながら歩いて来るのは、髪を明るく染めた青年だ。彼は響く銃声に驚きながら、仁美の前に立つ。


「やぁ、僕は天野那凪だ。覚えててくれると嬉しいかな。」

「こんな場所なのに...?」

「こんな場所でも、だよ。」


 青年が微笑み、そのまま近づいてくる。警戒を露にする仁美に、彼は少し大袈裟に否定する。


「まってまって!僕は怪我人だし、君とやりあうつもりも無いって。元々、平和主義者なのさ。」

「怪我人...?」

「うん、お腹を、ね?実はかなり痛いんだ、これが。」


 ヘラリと笑う様からは想像出来ないが、少し青い顔色がそれを真実だと告げている。


「いやぁ、実を言うと少し追われててねぇ...ちょっと隠れるつもりだったんだよ。はぁ、どーして僕のいく先々で、契約者が居るんだか。」

「いきなり、鎖を飛ばして?」

「いや、殺されたく無いし。食われかけて、燃やされかけて、殴られると思えば射たれて、潰されかけて...もー、散々なんだよ。」


 首を振りながら那凪は語り、その後に大きくため息を吐く。

 そんな事を聞かされても、仁美としては知ったこっちゃ無いが。あまり騒いで、大蠍に見つかっても愚かだ。何も言わず、大人しくしておく。


「ありがと。いやぁ、しっかし。銃?なんで?」

「...分からない。」

「えぇ、さっき止めるって...?あぁ、君も巻き込まれたクチ?」

「一緒に、しないで、ください。」

「...嫌われちゃったかなぁ。」


 あまりにもグイグイと来る那凪に、少し避ける様に接する仁美。

 苦笑いを溢す那凪だったが、外で明らかな破壊音が聞こえて表情を一変させる。


「うそ、もう?」

「何...!?」

「アハハ、連れてきちゃったみたい...。ごめんね?」


 謝罪をする那凪の横で、隠れていた家屋が壊れる。吹き飛んだ壁の一部が、崩壊の危険を思い起こさせる。


「【裁きと救済(ジャッジリカバー)】!」

『...了解!』


 反対の壁と、天井。そのバランスを、伸ばした鎖紐を概して均一化し、その精霊は崩壊を止める。


『フゥー...!』

「何...!?」

「うん、確実に僕だ、これ。ごめんね?」


 穴から現れた顔は、長く逞しく。立派な角と短い毛が特徴的だ。

 鼻息も荒く、此方を見定めたそれは、紛れもなく牛。

 蹄から肩まで、1800㎜はありそうな、その巨体。白く輝くそれは光沢を放ち、硬い印象を思わせる。


「ここだと...気をつけてね。多分、アルミかなぁ...。」

「アルミ...?」

「あぁ。触れている金属の性質を、肉体にコピーするのさ。パワーもスピードも、尋常じゃぁ来るよ!?」


 壁を荒々しく吹き飛ばした精霊は、次の瞬間には猛然と駆け出す。金属の塊が、凄まじい速さを持って、すぐ隣を駆け抜けた。

 遅れて吹き出す冷や汗に、緊張が全身をめぐる。


「僕と均一化しろ、【裁きと救済(ジャッジリカバー)】!」

『把握...!』


 牛の精霊と、那凪の肉体。鎖を介して、それらが均一化される。


「重ぉ!?」

『モオォォ...!』

「ダメだね、これ。同じ硬度でも、吹き飛ぶの僕だね!?」


 動きの鈍った那凪に向けて、鎖を引いて突進する精霊。その重量を止められず、【裁きと救済】も引きずられる。


「止めて、【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】。」

『ギャウ!』


 小さな竜の体当たりは、ぶつかった衝撃そのままを互いに返す。

 全く同じ力を受け、精霊の巨体が停止する。


「おお、助かったよ...。」

「私も、轢かれる...。」

「あぁ、狭いものね。」


 すぐに均一化を解いて、【裁きと救済】に壁を壊してもらう。

 牛の壊した壁と、均一化すればかなり脆くなった。細腕でも殴り壊せる。


「外に...うわっ!?」


 足元に大針が跳ねて、那凪は尻餅をつく。

 後ろから脱出を試みた仁美も、彼につまづいて倒れる。


「物騒だなぁ!ここ!」


 仁美を抱えてて、横に飛び退いた那凪。その後を、牛の精霊が駆け抜ける。


『見事。』

「そりゃ、ドーモ。それよりも、上に引き上げてくれるかい?」

『了解。』


 上に位置すれば、視界は広く、移動も容易だ。見つかりやすく、囲まれやすいが...あの牛にそれは、警戒するだけ無駄である。


「放して。」

「あぁ、ごめんごめん。つい連れてきちゃった。」

『キュー?』


 建物の上から、牛を探す。破壊の後が一直線であり、すぐに見つかった。


「お、あそこにい」


 その瞬間、那凪の頬を金属がかすめる。金属化している牛の精霊に、三成の拳銃が跳弾したのだ。


「怖ぁ!?」

「向こうが気づいたみたい...。」


 暴れまわる牛の精霊に、2人の狙撃手が撃ち込み続ける。しかし、足元が鉄板だったようで、僅かな傷しか与えられていない。

 三成が此方に気づいたのか、黒い艶やかな毛並みが此方に走る。カストルだ。スルリと那凪の肩に登り、睨みを聞かせる。


『よぉ、兄弟。何者だ?』

「速いなぁ...。こういうタイプの精霊もいるのか。僕は巻き込まれただけだよ、少なくとも、この場ではね。」


 捕まえられそうになったカストルが、【裁きと救済】の手からから逃れ、【辿りそして逆らう】と共に仁美に乗る。


『じゃ、あれは?』

「さぁ?恨みでもあるのかって顔で、襲われたけど...。」

『連れてきたのはお前か...。』

「あんな暴走列車、止められないじゃない。」


 肩を竦める彼だが、直後に顔をしかめる。


『どうした?』

「いや、今なにか聞こえなかった?」


 辺りを見渡す彼だが、特に変なものは見えない。

 が、カストルは瞬間的に毛を逆立てる。


『不味いだろ...!来やがった!』


 次の瞬間、辺りを閃光が襲う。続いて、轟音。そう、雷が落ちたのだ。

 それは、此方に迫って来ている様だった。追われているのは...ポルクスともう一人いる様だ。


「カストル、状況。」


 いつの間にか此方に来ていた三成が、ポルクスの事を問う。


『龍が出た、追われてる。...魚と一緒にな。』

「魚...?やれやれ、集まり過ぎだ。」


 今の状況を嘆く三成だが、それよりも重要なのは、それが何故か、敵対して迫っている事。

 時間制限があるとはいえ、【純潔と守護神】の召喚する龍は、かなりの脅威だ。


「蠍、は?」

「牛とお見合い中だ。契約者はなんとも、目立たない女性だったよ。闘争本能なんて、無いような人だ。」

「僕には、かなり好戦的でしたけどね。」


 どうやって逃げ出そうか、頭を巡らせている那凪が、冗談を飛ばしながら空を睨む。段々と、空を泳ぐそれが見えてきた。

 那凪を撃つかどうか、迷っていた三成も。空を見て今は放置とする。健吾が来ないからだ。正面突破を望めないなら、混戦に持ち込んでおいた方が、彼には戦いやすい。


「互いに今は不干渉、でどうかな?」

「良いですよ、実に平和的。」


 薄っぺらな友好の言葉を交わした頃、地面から鮫が飛び出した。そこに捕まる少女と、肩に捕まるポルクスが、チラリと此方を見る。


『へい、兄弟!仕事はしたぜぇ、ヘルプ!!』

「あの、おっかないお兄さん?ほんまに助けてくれるんやろな!」

『乗った船は降りられないもんだぜ、嬢ちゃん!』


 ポルクスの奴...と呟きつつも、後ろに抜ける彼女を素通りさせて。三成は得物(ベレッタ90-two)を空の龍に向ける。


「ポルクス、ターゲット。カストル、ハンティング。」

『了解!』

『ラジャー。』


 駆け戻ったポルクスが、放つ弾丸に風を纏わせる。見事に龍へ到達した弾丸は、その位置を精霊に知覚させる。


「おお、凄い...。」

「普通なら当たらないさ。」


 そのまま守りの体制に入るポルクスとは裏腹に、カストルが銃を構える右手へと移る。真上へと打ち上げた銃弾は、カストルの風を纏っている。

 高くまで登った弾丸は、カストルの風操作により、僅かに弧を描いて、龍へと落下する。上空からの狙撃に、若干の混乱を見せながら龍は咆哮する。


「さて、早乙女君を探してくれるかい?仁美君、君が頼りだ。あの龍は引き付けよう。」

「分かりました。」


 大元を狙う。早期鎮圧の必須条件だ。


「僕も行こうか?【裁きと救済(ジャッジリカバー)】も頼れるよ?」

「利点は?」

「牛、任せます。」

「...受け持とう。仁美君、警戒を怠るなよ。」

「はい。」


 信用無いなぁ、と呟きながら、逃げるように走り出す那凪。彼を追うように、仁美も走り出した。


 現在時刻、18時。

 残り時間、4日と13時間

 残り生存者、???。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 辿りそして逆らうがいるおかげで次の戦闘に怪我を持ち越さずにいられているわけですが、他の参加者はそうじゃないんですよね。治療物資も自己調達って事ですよね。那凪君かなり動きにくそう…。 レ…
2022/05/14 21:48 数屋 友則
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