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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
16/144

プレイヤー

「ウラァ!」

『ダアァララアァ!』


 爆弾の投擲と共に、振り払われる燃える鉄棒。それを全て殴り飛ばし、健吾の守護を果たしながら、【積もる微力】は距離を詰めようとする。

 離れる程に弱体化する為に、健吾も共に突っ込まざるを得ない。拳が爆弾を弾く後ろで、徐々に前進する。


「くっそ、そんな筋肉ダルマと殴り会えるかっつーの!」

『んだとコラァ!』


 どうにか後ろの健吾を狙おうとする一哉だが、彼も喧嘩事は素人とは言わない。【積もる微力】の対角で、荷物にならないように動き回る。


「逃げんじゃねぇよ!」

「じゃぁ、捕まえてみろよ。」

『レオ、そのままくっついて来いよ!』


 遂に我慢の限界が訪れたか、猛る【積もる微力】が猛然と駆け出す。

 弾き、避け、駆け抜ける精霊に、持ち前の勘で合わせて行く。


「ちっ、【意中の焦燥(ターゲットファイア)】!壁だ!」

『えぇ~、ハゲるぅ~。』

「うるせぇ!」


 羊の精霊から毛をむしり、眼前にばらまく一哉。途端、それは爆発的に発火し、炎の壁をつくりだす。


『レオ!』

「あぁ!」


 なんと、炎の壁を無視し、そのまま突っ込んでくる【積もる微力】。燃える前に強引に突破し、その拳を振り抜く。


「はぁ!?...っ!」


 手に持つ燃える鉄棒を、その拳に目掛けてフルスイング。見事に打ち止めたが、積もった力が発動し、鉄棒を取り落とす。


「流れっ...!」

『ハックー、避けて!』

「あぁ!?ガッ!」


 突如、飛んできた飛来物。それはとんでもない衝撃で、一哉の腹にめり込む。めり込み続ける。


『俺の拳と、人間が打ち合えるかっつーの。』

「レイズ、当たったか?」


 炎の向こうから、健吾が叫び、【積もる微力】は短く「おぅ」とだけ答える。呻く一哉を炎へ投げ、慌てて【意中の焦燥】が火を消した。

 突然、人を投げつけられ、健吾は慌てて回避する。


「何しやがる!」

『あたんねぇんだから、いーだろーが。』

「この、野郎共...!」


 ふらつきながら立ち上がった一哉が、健吾の服の袖を掴む。そこを駆け上がった【意中の焦燥】の毛皮が、上着に擦り付けられる。


「やれ、羊野郎!」

『ふぁいあ~。』


 一哉が蹴り飛ばして、距離を取った瞬間。健吾の上着から炎が吹き出し、その凄まじい熱が肌を焼く。


「ははっ、やっと仕留められるかぁ!?」

『ハックー、詰めが甘いからねぇ。』

「うるせぇ。ゲームよりも頑丈なんだよ、人間って。」

『えぇ~?すぐ壊れるのに。ゲームってどれだけ脆く作られてるの?』


 ふざけた会話を繰り返す横で、【積もる微力】が健吾の服を破りさる。


『おい、レオ。生きてるだろうなぁ!?』

「ったり、めぇだ。くそっ、全身がジクジクしやがる。」


 寒空の下、上を取り払った健吾が悪態をつく。

 火傷が出来たばかりの生々しさで、晒された筋肉の上に点在した。


「燃えてる服とはいえ、引きちぎるかよ...。」

『ハックー、精霊の事、もー少し把握しようよ。』

『その前に脱落させてやんよ!ダアァララララアアァァ!』


 油断していた一哉達に、機関銃の様な乱打が迫る。

 一撃でも貰えば不味いと判断し、全力で回避する。置き土産の瓦礫や石ころも、大盤振る舞いと発火させていく。


『はっ。中々つかまんねぇな...。』

「レイズ、時間は十分だろ。マジでキツいから、仁美と合流したいんだけど?」

『逃げろってかぁ?』

「出来るか?」

『.........ちっ!俺の契約者なら、もちっと頑丈になんねぇのかね。』


 結構な無茶苦茶を言い放ち、【積もる微力】が一哉達を睨む。向こうの殺意は衰えていない。

 楽しい遊びの様に、虫をバラバラにするように。無邪気な獰猛性が、健吾に当てられている。


『レオ、少し耐えろ。数十秒だ。』

「はぁ!?...逃げるだけならな。」

『よし、巻き込まれんな!』


 走りだした健吾に、投擲が届く距離まで近づく一哉。

 それを尻目に、【積もる微力】は姿をくらました。


「はっ、見捨てられたかぁ!?」

「どうだろう、な!」


 投げ込まれた爆発に被せる様に、もう一つ石を投擲する。蓄積していた力が発散され、豪速でそれは人体に命中する。


「アがっ!?」

「続けて当たるとは、幸先いいね。」

「てんめぇ!」

『ハックー、落ち着いて!相手は怪我人なんだから。』


 上半身の痛みを無視し、更に走ろうとする健吾だが、突如起きた振動に膝をつく。

 一哉も手をついており、振動は錯覚ではないらしい。


「レイズか...!」

『ハックー、またにしない?』

「しない!もう三日目だぞ?そろそろ脱落者ぐらい、出てくる頃だろ!」


 いつの間にか近づいていた、燃える鉄棒を拾い上げて。一哉は健吾に急接近する。

 とっくに白くさえなっているそれは、明らかにヤバい代物。赤い炎を剣筋において、それは右へ左へと振るわれる。


「くそっ、一体何百度だよ...!」

『900℃だよ~。』

「黙れ羊!うぉらあ!」


 振り回される武器に、健吾は距離を取るしかない。そうでなくとも、近づいて対処できる体力があるとは思えなかった。


「ラスト一発...!」

「しゃらくせぇっ!」


 健吾の投げた石ころも、鉄棒に打たれて飛んでいく。投擲後の隙をついて、一哉が一気に肉薄する。


『ダメだよ、ハックー!』

「...今から投げるぜ?」


 絶対に外さない距離。すっと離された手から、風を押し退けて石が飛ぶ。めり込み、尚も押し続ける石に、抗う一哉は動けない。

 すぐに身をどけて、石を後ろに流すも。その一瞬は致命的だった。


『あばよ、クソガキ。』


 健吾を肩に担いだ【積もる微力】が、その拳の闘気を一瞬滾らせる。

 途端、ミシリと嫌な音。それは徐々に大きくなる中、【積もる微力】は首都高から飛び降りる。


『ねぇ、ハックー?』

「なんだよ...?」

『これ、不味くない?』

「だよなぁーーー!!!」


 崩れる橋から、絶叫が響いた。




 少し時間を戻そう。記録を辿れ...そう、そこからだ。




「仁美、そいつで解毒出来るかな?」

「多分...。」『ルルゥ。』

「...良いのかい?」

「あいつ、やる気満々ですからね...。追っかけるのに力にはなれねぇし。タイマンなら俺が向いてます。」

『おいおい、レオ。俺達、だ。』


 契約者を乗せて逃亡する大蠍。

 それを横目に、後ろの車に近づく青年の前を、一人と一柱が塞ぐ。


「死にてぇのか?」

「まさか。」


 乗り込んだ座席に腰を沈め。三成が振り向いて、仁美に声を駆けた。


「右腕、治して貰えるかい?」

「は、はい。やってあげて、【辿りそして逆らう(トレスonリベリオン)】。」

『ルルゥ。』


 既に走りだした車(ハンドルが握られていない!)に、青年が悔しそうにしている。


「獅子堂さん...。」

「心配かな?」


 前を見ながら、手近のインターを探す三成が声をかける。右腕は、少し固い動きだが、ハンドルは握れている。

 仁美は頷いた後で、それでは分からないと気づいて声をだす。


「なんだか怖い人、だったから。」

「ふむ、確かに威圧的な態度ではあったが...。あれならば心配は無い筈だ。獅子堂君が消極的なのも、彼の態度ならそうもならないだろう。」

「...?」

「加減は無くさば情けを求めず、だよ。」


 それでも首を傾げる仁美に、クスリと笑いながら三成は言う。


「あの精霊、潜在能力は凄まじいだろう。引き出すのは、獅子堂君の心次第、という訳さ。」

「...?」

「...まぁ、負けはしないだろうって事だよ。一度、姿を見つければ、あの精霊と真っ向からぶつかって勝てる精霊は、多分いないだろうさ。」


 精霊は、契約者の精神に大きく影響される。近いと強く受け、遠いとエネルギーの供給が薄い。

 健吾の勘の良さや、登代の読心術も、それに当たる。単純なフィジカルも、影響されるだろう。


「...まったく、難儀なシステムだよ。」


 ぼやきながらインターを出て誘導路を下り、そのまま街を走る。随分と南に来たが、対象は北上している様だ。


「人質と離れる動きだったか...早乙女君の拘束に、余程自信があるのか?」

「精霊、は?」

「その無力化も含めて、ね。一体どうやったのか...。」


 悩みながらも、市街地で出す速度とは思えない程に、景色が後ろへと流れていく。現在80㎞/h。距離を縮めていく。


「カストル、弾丸の位置は?」

『このまま、まっすぐ...いや、少し左だな。』


 脚に撃ち込んだ弾丸を頼りに、ランサーを操る。肩に乗る黒い精霊も、前方を見据えて探知に専念する。


『...そうだ、その位置。...分かった。いや、少しずれた...。』


 片割れのポルクスとの会話を溢しつつ、カストルが三成にもナビをする。


「この辺りの地形も覚えていないな...仁美君、分かるかな?」

「いえ、私も細かい所は...。」

「そうか。先回り、とはいかないね。それなら、せめて近づいておこう。目標はあくまでも、早乙女君の奪還なのだから。」


 相手の後を追うように、車を走らせて行く。

 速度は此方が上。しかし、首都高からの脱出と道選び、これで差が出来ていた。大蠍は、ある程度なら地形を無視し、そのままその八足で登るからだ。


『兄弟、良い知らせと悪い知らせ、どっちを聞きたい?』

「突然だね...良い物は?」

『ポルクスが見つけた。この先の廃ビルの中だな。』

「そうか。悪い知らせを聞こう。」


 仁美と三成が耳を済ませるなか、固い物がすれる音がしたような気がする。


『ポルクスと早乙女嬢が戦闘してんのと...ここはうってつけの狙撃ポイントだって事だ。』


 次の瞬間には、タイヤのすぐ横で、コンクリートが弾ける。咄嗟に曲がり角に入り、真っ直ぐに走らないようにする。


「...不味いな、誘導されていないか?」

『兄弟、手遅れだ。止まれ。ポルクスが、お嬢をこっちに引き付けてる。針が刺さってんだ、毒ならあれがなんとか出来るだろ?』

『ルゥ?』


 首を傾げる【辿りそして逆らう】。だが、蛇の巻き付いている仁美が、すぐに頷くのをミラー越しに確認し、三成はランサーを止める。


「足はある方がありがたい。出来れば離れて、傷物にしないでくれると嬉しいね。」

「分かり、ました。」

『兄弟、追い付かれる。目標は?』

「1、ポルクスの到着まで生き残る。

 2、早乙女君と合流及び解放。

 そして3、車による脱出もしくは全脅威の撃退。至ってシンプルだ。」

『そうかねぇ...。』


 カストルが見上げたのは、夕日を背に立つ女性。


「やっと見つけたわ、獲物達。」

「狩りならば、姿は表さない事だ!」


 銃声、そして跳弾。盾となった大蠍が、針を発射し...二人が散開する。

 長い、激闘の火蓋が切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 狩猟する竜巻、索敵・隠密メインな能力なんですが三成が運転できる・戦える・頭脳戦強いからめちゃめちゃ頼りになりますよね。精霊と相性一番良いってイメージです。 精霊を従えてバトルというより使い方…
2022/05/13 22:25 数屋 友則
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