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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
15/144

炎の激突

 唸るエンジンは獣の如く。疾駆する四足はアルミ合金の輪。

 三成の手繰る猛獣は、町の北から南へ、200㎞/hを越えて追跡する。狩猟者の様に。


「獅子堂君、私がFDを止める。早乙女君の居場所も聞いた方が、おそらくポルクスが見つけるよりも早い。」

「はい。」

「私は戦力としては薄いだろう。だから君に、前の契約者を生け捕りにして欲しい。」

「私、は?」

「獅子堂君の援護を。君の精霊は、面白い力だからね。何かあった時には、頼らせて貰うよ。」


 町並みを下に見ながら、次々と車を追い抜いて行く。前のRX-7も相当な物で、ヒヤリとする距離を抜けていく。


「この人達...何なの...?」

「こんなゲームに、参加する人だろ。」


 慣れてきた健吾は、少しずつ縮まる距離に睨みを聞かせる。拳を握り、力の入り具合を確かめる。


『兄弟...!向こうが仕掛けてくんぞ!』

「日の高いうちから、お盛んな事だ...!」


 漆黒の流線型ボディが、3D映像の様にカラフルにぶれたように感じた。瞬間、ランサーの上に衝突音が響く。


「カストル!」

『剥がせって?無理だろ...!』


 開けられた窓から、イタチの精霊は飛び出す。が、一瞬にしてアスファルトに叩き落とされる。


「くっ、不味いな...かなり素早い。」

「双寺院さん、屋根、少し凹ませても良いっすか?」

「...構わない。やってくれ。」

「安全運転頼むっすよ...!落とせ、【積もる微力(レイジングダスト)】!」

『しゃあっ!ダアァララララァァ!!』


 扉を開き、縁に手をかけて乗り出す健吾から、獅子の戦士は飛び出した。

 200㎞/hの世界で、派手に吹き飛ばされたそれが、トラックの上に着地する。人と同程度の大きさのそれは、濃紫色の硬質な輝きの甲殻に身を包み、鋏を高く振り上げて威嚇する。


「蠍...!?」

『発現しろ、【積もる微力(レイジングダスト)】。』


【積もる微力】が拳を握れば、蠍の甲殻に浮き出た炎が重みを持つ。振り上げられた鋏が内側に叩きつけられ、無機質な目が此方を睨む。

 車の中に戻る健吾と、上で拳を打ち付ける精霊。離れていくそれに、蠍は尾を構える。


『おいおい、跳ぶ気か?』

「馬鹿言え、倍以上の速度が出てんだ。跳ぶ訳がねぇ。」


 単純計算で、一秒に30m近く離れる。見る間に小さくなるトラックだが、健吾とその契約精霊の【積もる微力】の勘が、警鐘を鳴らしていた。

 次の瞬間、謎の音がする。同時に弾けとんだ尾灯を見て、【積もる微力】が叫ぶ。


『撃ってきやがった!針だ!』

「はぁ!?」

「何!?」


 続けてもう一発。驚き、少しぶれたランサーの後輪のすぐ横を、アスファルトが悲鳴をあげる。


『ちっ、不味いな。俺が弾くからとっとと加速しろ!今なら無防備だろーが!』

「承知している...!」


 アクセルから足を離すこと無く、尻振りでカーブを曲がり続けるランサー。無茶苦茶な運転に、そろそろタイヤが悲鳴を上げている。


「持ってくれよ...!」


 かなり近づいたRX-7を視界に収め、三成は祈る。

 巨大蠍の出現に、パニックになった道路は清々しい程に空いている。走りながら針を撃つ蠍だが、飛び下りた【積もる微力】はその尽くを殴り飛ばす。


『ンな距離で撃ち抜ける訳ねぇだろえが!』

「レイズ、乗り遅れて離れるなよ!」

『わぁってんだよ!』


 再装填に時間がかかるらしく、その間に車に飛び乗る【積もる微力】に、健吾が叫ぶ。強力なパワーとスピードも、契約者から離れるとがた落ちするのが【積もる微力】だ。


「200㎞/hに平然と、飛び乗るの...?」

「仁美、精霊とか言ってる奴らだぞ。深く考えたら負けだ。」

『いや、俺が凄ぇだけだ。』


 馬鹿な会話をしながら、後ろを観察する二人と一柱。既に碌に見えない蠍が追い付くのは、不可能に近い。あの距離ならば針をいくら飛ばそうと、勘とフィジカルの合わさった【積もる微力】ならば対処可能だ。


『...兄弟、戻って、きた、ぜ。』

「カストル、ちょうど此方も追い付く所だ。」


 霊体化して戻ってきたカストルに、三成が頷く。RX-7の左に着くと、おもむろに右手を懐に持っていく。

 コートの下から抜き出した()()をタイヤに向け、彼は呟く。


「カストル、補助を。」

『あいよ。』


 黒いイタチが彼の手に触れる。数瞬の構え、そして、乾いた破裂音。

 螺旋回転は纏う風で強化され、僅かにだが標的に向けて逸らす事さえ可能にする物。ジャイロ回転は直進性を高め、真っ直ぐに金属をゴムへとめり込ませた。

 勿論、気圧の高いゴム風船が割れれば、どうなるかは明白だ。しかも、200に近い速度で。4つの一つが完璧にグリップを失い、流れてしまった車はスピンする。当然、壁に激突し、クラッシャブルゾーンはベコベコだ。


「拳銃...!?何でンな物...。」

「あれ、生きてる、の...?」

「燃えてはいない、生きているだろう。」


 車体をぶん回しながらのターン、少し戻って事故現場に横付けてから、ランサーは止まる。

 壊れたRX-7から、一人の女性が降りてくる。少しふらつきながらも、凛とした態度の女性は、此方を見るなり警戒を露にした。


「無茶、苦茶な。男ねっ...!」

「昼中に精霊を出す誘拐犯に、言われたくはないな。」

「あの速度で発砲する方が、どうかしてるわ!撃ち抜いて、【魅惑の死神(ラストピオン)】!」


 いつの間に戻っていたのか、霧が形を成すように現れた大蠍が、尾を構えて鋏を鳴らす。


「狩りとるぞ、【狩猟する竜巻(ハンティングストーム)】。」

『引け、兄弟。引き金を!』


 互いに撃ち出した凶器が、対象を屠ろうと風を切る。針はカストル本体が纏う風が剃らし、弾丸は彼女の足を貫いた。


「うっ...!寄って集って女を傷物にするなんて、酷いヒト。」

「心にも無いことを...。」


 逃亡を阻止、次は精霊を無力化しようと、三成が再び拳銃を構える。

 しかし、その瞬間に聞きなれない声が場を支配する。一瞬、全てが動揺して動きが止まる。


「へぇ、ベレッタか。残りは何発だ?」

「っ!カストル、標」

「燃えろ!」


 投げ込まれたのは河原で見かける様な、丸い石。しかし、それぞれが爆弾の様に発火し、視界を塞ぐ。


「おー、しかもランエボまであんのかよ。どんだけ金持ち歩いてンの、腹立たしい野郎だぜ。」


 辺りに火の柱を作った青年が、獰猛に笑う。肩掛けのバックを背負い、バットケースを肩に掛けながら、遮音壁から飛び降りる。


「双寺院さん、残弾は?」

「15発だ。私の90-twoは、17発までだからね。」

「撃てますか?」

「それが...さっきの針、毒でもあるらしい。掠ったのか、腕が上がらない。情けない話だが。」


 二人が見つめるのは、乱入者ではない。この場から逃げる影、蠍の精霊【魅惑の死神(ラストピオン)】と、その上にしがみつく契約者である。


「仁美、そいつで解毒出来るかな?」

「多分...。」『ルルゥ。』

「...良いのかい?」

「あいつ、やる気満々ですからね...。追っかけるのに力には慣れねぇし。タイマンなら俺が向いてます。」

『おいおい、レオ。俺達、だ。』


 一人と一柱が並び、その青年に相対する。ランサーに火を着けようと近づいていた彼は、塞ぐように立つ彼等に眉を潜める。


「死にてぇのか?」

「まさか。」


 そのまま走り去る車を見送って、舌打ちを一つ。その後、かれは肩に毛玉を乗せる。

 パステルな金色の羊のぬいぐるみの様な。そんな精霊だ。


「尽く獲物が逃げやがる。名前くらい知って死ね。柏陽(はくよう)一哉(かずや)だ、デカブツ共。」

「獅子堂健吾だ。止めるつもりはあるか?」

「はっ、何でもありのデスゲームだろ?燃やせ、【意中の焦燥(ターゲットファイア)】!」

「血の気が多いな!迎え討て、【積もる微力(レイジングダスト)】!」


 放たれた石ころが爆炎を撒くが、連続して打ち込まれる拳がそれを叩き落とす。


「いいねぇ!マジでゲームみてぇな動きだ!」

「てめえ、遊んでんのか!」

「は?楽しまなくてどーすんだよ。しかも、これはゲームだぜ?リアルなんてクソゲーよりも、遥かにイカした物だろぅが!」


 爆弾は辺りに散らばる全て。それが撒かれ、爆発し、燃え続ける。弾き飛ばした欠片はめり込み続け、そのうちに砕けて炎が消える。


『ハックー、相性悪くない?』

「黙ってろ、羊野郎。」

『キリがねぇ!マトモに食らえば命取りだぞ、レオ!』

「砕き続けろ、レイズ!隙を見て突っ込むしかねぇ!」


 爆弾をばら蒔きながら、一哉は【積もる微力】から距離を取って動く。引いて、距離を詰めるときに発火。

 慣れている。明らかに場馴れしている。結局、毎晩戦っていた健吾達よりも。


「そんなもんかぁ?ったく、ヘタレ共め。骨があんのが爺さん一人とはな。」

「んだと?」

「睡眠装置に入るときに切っといた腕の傷も。携帯の履歴や財布の中のゴミも。完全に再現されてはいるがな。明らかにゲームなんだ、ここは。スキャンの後に噛んどいた口の傷は、綺麗さっぱり無いしなぁ?」


 得意気に語る彼の肩で、【意中の焦燥】が頭を振る。呆れているらしい。


「人も良くできたNPCだよ。燃やした時の気持ち悪さはマジだが、あんまりにも感情ってのがねぇ。決まりきったルーチンと応答だぜ。」

「...いや、まて。燃やした?」

「相手は精霊と人間だぞ?検証にゃ、同じもん使うに決まってんだろ。」

「野郎...!」

「何キレてる?こりゃゲームだぜ?」


 つい、拳を固めて走り寄る健吾の足元で、地雷のように起爆する。その様を眺め、テストで満足な点でも取れた顔で、一哉は笑う。


「おー、良いタイミングだ。」

「残念だったな!」

『ピンピンしてるぜぇ!ダアァララララアアァァ!』


 悪寒を感じ、一瞬早く飛び退いた健吾は、熱波で煽られただけに過ぎない。左右から、【積もる微力】と共に殴りかかり、鎮圧に入る。


「くそっ、ざけんな!【意中の焦燥(ターゲットファイア)】、これ燃やせ!」


 バットケースから、持ち手をコンクリで固めた鉄棒を取り出す。バットよりは大きく重そうなそれが、炎が付くことで徐々に赤熱していく。

 厚手の手袋をはめて、己の身は守る。準備が入念だ。


「くるんじゃねぇぞ!」


 大きくぶん回して牽制し、再び距離を取った健吾達と睨み合う。


「やってやんよ、デカブツ野郎。」

「へし折ってやんよ、クソ野郎。」


 炎と闘気が荒れ、互いに衝突した。

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