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エピローグThe♋

「い、たたたた...腰がぁ。」


 丸一日、寝返りも打てずに半ば拘束されていたような物。凝りまくった体を思い切り伸ばし、四穂は外を見る。


「おー、いい景色...でも、なんで灯台?」


 今は使われて居ないのだろう、電球も無いこの塔の中で、作動音をあげる機械だけが異質だ。

 山に沈む夕日が海を赤く照らす中、錆びた階段(というには梯子に近い物)を慎重に降りて、割れた窓から外に出る。施錠された扉は鎖と錠前でいかにもな雰囲気だ。


「ボクも、良くこんな所入ろうと思ったよね〜。」


 とりあえず建物の中を探すかという思いと、高いところから見下ろしたいという狙い。それがそのまま見つかるとは思わなかったが。


「んー!負けちゃったけど、スッキリした気分。ボクはボクに出来ることから、だよね。」


 先を目指す事を、諦めた訳では無い。でも、今に手が届く人を救えないで、未来の自分が誰かを救える筈がない。


「とりあえず、マネージャーさんに迎えに来て貰おうかな...こんな郊外に行くと思わなかったし...多分、エリカ先輩も来てくれるし。」


 というか、最近はずっとマネージャーに引っ付いている気がしないでも無い。もう二十歳になるというのに、親離れの出来ていない先輩に呆れが湧いた。




 草を結びながら待つこと数時間。草地へとバンが走って来て停車する。

 そこから飛び降りた少女が、体当たりのように四穂へ飛びついた。


「コラー!先輩を使うとはいい度胸じゃないかー!」

「読んだのはマネージャーさんですよ〜。」

「その、君ら共通の俺なら良いって風潮はなんなの?今日は久しぶりの休日だったってのに。」

「というか、ここ何処?なんでいるの?」

「さぁ?ボクも分かんないんですよ。」

「なんなのお前ら...脳みそ綿菓子なの?ホントになんかあった訳じゃねぇんだな?」


 真剣な顔をする彼に、真面目な顔で頷いて返した四穂が、数秒後にエリカに押し倒された。


「あの...エリカ先輩?重いです。」

「はぁ!?失礼じゃない?ボク君より軽いし。」

「そりゃ先輩の方が色々小さ」

「その先を言わせるか〜!」

「おい、土の上で転げ回るなよアイドル。」


 車に乗せねぇぞと脅された二人が起き上がり、服に着いた草を払っていく。少しぶすくれた四穂と、あっけらかんと笑っているエリカを見て、深い息を一つ、零す。


「まるで姉妹だな、小学生の。」

「ボクを見て出る感想がそれってどうなの?」

「自分である自覚はあったか、偉いぞ〜。」

「怒る!」


 蹴られてたまるかと走り出したマネージャーと、彼を追いかける先輩を尻目に、四穂は車の後部座席に乗り込んだ。

 数十分もすると、バテたエリカを抱えたマネージャーが戻ってくる。


「四穂ちゃん、コレ抱えといて?」

「はいはーい、喜んで〜。」

「えぇ...ボク荷物かなにか?」


 はしゃぎすぎてバテてる子供がなにか言っているが、双方無視が手馴れている。ここ数年の付き合いだが、既にエリカの先輩としての仮面は見るも無惨な事になっていた。

 昨日は寝ていなかったのか、膝の上で呼吸もしないくらいぐっすりと寝入るエリカの髪で遊びながら、ため息が落ちる。


「...でも、ボクより向いてるよなぁ。」

「止めとけ。」


 海岸沿いを運転しているマネージャーの声が、シート越しに聞こえる。顔を上げても顔を合わせられる訳では無いが、ミラー越しに真剣な顔が映る。


「いいか、君が最近悩んでるのも知ってる、少し迷走気味だったのもな。まぁ、何があったのか知らないが、今は初心に帰るって時期か?」

「見てきたみたいに言いますね。」

「何人、見てきたと思ってる。」


 若いというのに、数多くのアイドルと接し、導いてきたのは確かだ。担当こそ少ない物の、彼がヘルプに行った場所も多いと聞く。


「それも踏まえて、キツい事を言うぞ。君にその方向は向いてない、止めておけ。」

「それは...アイドルを、って事ですか?」

「それもあるが、そんなものは君の努力でカバー出来る。そのポテンシャルはあるさ、保証する。止めておけって言うのは、エリカになる事を、だ。」


 首を捻る四穂の気配を察したのか、少し口篭りながら続きられた言葉は、先程まではしゃいでいた彼とは別人に聞こえた。


「思い過ごしなら、それでも良いんだが。君がエリカへの憧れとアイドルとしての成長を一緒に考えているような気がしたんだ。」

「えっと...ボクがエリカさんの真似に過ぎない、って事ですか?」

「言葉を選ばずに言うと、そんな一面もあるかもな。エリカはさ、天才なんだ。」


 強められた語気には、確信がありありと滲み出ていた。


「アイドルなんてのは、他人の夢だ。自分に無い元気や煌めきってやつを、求めた果ての偶像だ。だから、そこに人間らしい不安定さが混ざると、リスキーになる。」

「人気が落ちる、って事ですか。」

「そんな奴はファンなんて名乗るんじゃない、とも思うけどな。失望、期待はずれ、そういったもんは夢や希望には一番あっちゃいけない。

 その点、エリカはブレない。一本筋を貫く、とかじゃない。他の事が出来ないんだ。しかも、常に笑ってるなんてあまりにシンプルだろう?良くも悪くも無垢が過ぎるんだよ。

 誰かの中に居座る存在として、これ程に分かりやすい奴は居ない。裏表がほとんど無いからな。合わない奴は絶望的に合わないって端から分かるし、合うやつが合わなくなる事がない。」


 だからこそ、広めるのが大変だったが、と嘆く声にさえ、優しさが滲んでいる気がした。ファン零号、と自称するには十分な程に。


「君は賢いし、常識に沿ったり思いやったりする...事も出来るタイプだろ。」


 チラリとミラー越しに見た光景に、少し言葉が変わった気もする。

 それは置いて置くとして、彼の言葉を考えてみる。確かに「エリカのようになる」が先行していたのかもしれない。彼女に追いつこうと人気になると足掻いていた時も、きっと彼女は、ファンなんて少ない石を投げられたあの日と、そんなに変わっていなかったのに。


「色々と考えられる奴は、逸れるし躓く。でもな、それは色んな事に気づけるからだと思うんだよ。心機一転、君のやり方を模索してもいいと思うよ...まぁ、そのキャラは素だろうけどな、セクハラだから止めとけ。」

「はーい。」


 エリカのお腹に伸ばしていた手を引っ込め、ユラユラする四穂を確認し、アクセルを踏み込む。


「ま、頑張れよ。」

「うん、ボクに出来る事から、全部やっちゃいますよ。」

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