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エピローグThe♉️

 目を覚ます、暗い部屋。知らない天井と、生活感の無い空間。思い出すのは、眠る前の事。


「あの人...!」


 あんなゲームだと思わなかった。

 人が、大勢死んだ。町も山も燃え、建物は崩れ、車や船が消え...ニュースを見た人々の、深刻な顔はゲームのキャラクターには到底思えなかった。


「おはよう、ご機嫌は如何かな?」

「田辺先輩...!」

「あれ、怒ってる?なんで?」


 案内されたのが知った顔の家だからと油断していれば、あれよあれよと地下室へ連行。訳の分からない機材と密室で二人きり。

 仕方なく起動して入ってみれば、人を焼く少年に襲われ、ナンパ野郎に絡まれ、精霊から離れてしまった。そしたら龍が空を泳ぎ、銃弾は飛び交い、やっと追いついた先では危うく瓦礫の下敷き。

 暴れだした精霊を宥める間もなく、あれよあれよと炎使いの少年に拉致され、山に入ることになり、黒づくめの精霊に襲われ、何故か山が燃えた。

 這う這うの体で山頂に行き、そこにいた綺麗な巫女さんに助けて貰うも、遥か高空から落ち...


「これが怒らずに済まされると思いましたか!?」

「そんな事になってたの...??」

「見てるって言ってませんでしたっけ?」

「いやぁ、娘の誕生日だって嘘ついて、仕事押し付けて来たから...分かんない。というか、俺が仕向けても無いしね??」


 この独身男、仕事をする気が無い。なんで社会はこんな人間に給料を渡すのだろうと、八つ当たり気味な思考を無理やり押さえつける。


「でも、そんな顔の金牛さん、レアだね〜。」

「ヘラヘラしないでください。」

「はい、ごめんなさい。」


 怯えているのか、妙に素直な男に申し訳なさが募っていき、怒りが鎮静化していく。

 なんでもズケズケと言っていた【母なる守護】に影響されたのかもしれない。それとも、自分にもああいった面があるのだろうか?


「とりあえず、気が済んだ?少しはスッキリしたと良いんだけど。あのゲーム、日常の悩みを吹き飛ばすには、いい気分転換になると思ってるんだけどな。」

「ショック療法みたいです。」

「まぁ、そのつもりだし。」


 皮肉のつもりが、あんまり伝わっていない。諦めた二那へ、袋が差し出された。


「とりあえず、汗流してきたら?ご飯は作って置いてるから。」

「え、この服どうしたんですか?」

「買ってきた。君の家、もう着替え無かったし。」

「サイズとか...」

「それでスキャンしたデータ、閲覧出来るよ?権限あるのは一部だけど。」


 ビンタしなかった自分を内心で褒めつつ、モゴモゴと例だけ返す。プライバシーを酷い勢いで侵害している以外は、善意だ...そう思いたい。


「じゃ、俺はそろそろ追っかけて来そうな同僚から逃げるから。居留守しといて?」


 やっぱり叩けば良かった。




 やってきた男性には、懇切丁寧に居場所の心当たりを説明し、手馴れた料理を食べる。ゲームでも思ったが、久しぶりのまともな食事に体が喜んでいるのが分かる。

 流石に、そろそろ立ち直らなければいけないだろう。四千万もの大金が用意出来るか分からないが、働くしかない。


「アイツ、帰った?」

「窓から入って来ないでください、仕事は出来る顔だけの先輩。」

「俺ってそんな印象...?クズじゃん、金牛さんの好み?」

「ひっぱたいて良いですか?」

「嘘!ジョーク!お皿投げないで!」

「投げませんよ...」


 嫌な事を的確に選んで会話をしてくるようなこの男に、段々と慣れてきた。正直、ゲームに誘われるその時まで、こんな人だとは思わなかった。

 まぁ、仕事は出来るのにサボる人、ぐらいには思っていたが。


「...うん、そうやってたまには怒った方が良いよ。君は嫌な事を人一倍感じるのに、その何倍も我慢が上手なだけだから。」

「今更言っても、私、怒ってますからね。」

「うん、知ってる〜。」


 やはり分からない。とにかく、部屋の片付けでもしておこうと帰り支度を始めれば、彼から何かの明細が渡される。


「えっと...?」

「俺は利子取る気無いし、そのうちで良いよ。なんなら、仕事変わってくれるでもいいのよ?」

「利子って...これ、四千万円!?」

「払ったら終わりの奴らで良かったね〜。まぁ、ケジメをつけてない男の子がどうかるのかは知らないけど。」

「なんでここまで...」


 状況の飲み込めていない二那に、彼はキョトンとした顔で告げる。その程度、何故気にするのかと言わんばかりに。


「ん?言った気がしたんだけど...本業、ただの営業だよ。だから気にしないで良いよ?それも経費で落ちるか申請してるし。じゃ、帰ってゆっくりしな。」

「田辺先輩...」

「あ、今更だけど、それ偽名だから。本業の時は呼ばないでね?同僚にバレるとヤだし。」


 掴みどころの無い彼は、そう言って奥の部屋に引っ込んでしまった。

 もっと恐ろしい物に借りを作ってしまった気もするが...暴れん坊の雄牛よりは、何とかなる気がしていた

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