表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/144

エピローグThe♍

 目を覚まし、まず感じたのは無力感。

 せっかく会えたのに、また手放してしまった。手を、掴めなかった。


「でも、声を聞けた。顔を見れた。それは、一歩前身よね。」


 あの時の服装のまま、かなり細くなった彼女は痛々しかったが。自分には想像のつかないような日々だったに違いない。

 なんで断られたのかは、分からない。でも、あんな状態でいいはずが無い。それに彼女は、彼女の目は、親の顔を伺う赤子のようだった。


「私が、何とかして上げたい。多分、登代にはもう、私しか...」

「そんな事は無いと思うけどね。」

「双寺院さん。あ、もしかして聞こえ...」

「顔を見れた、の辺りからかな。」

「もう!」


 ヘッドギアで乱れていた髪を手櫛でサッと整えると、弥勒は立ち上がって埃を払う。


「君は店の倉庫の奥、か...どういった繋がりなのか。」

「双寺院さんは違ったんですか?」

「私は病院の一室だったよ。」


 それこそどんな繋がりだとも思うが、それよりも。


「登代の事、何か分かりましたか?せっかく会えたのに、私...色々聴き逃しちゃって...」

「その事に関しては、私も何も言えないね。同じ町に数日も居た筈なのに、情報を掴めなかったんだから。」


 知らない土地、協力的で無い人々、精霊の存在。今までの調べ方では、無理があったのだろう。他の参加者も気にしなければならなかった以上、隠れる登代の情報は少なかった筈だ。


「いくつか見つけた潜伏先から、彼女は建物を好む事と夜間の行動に慣れている様子はあった。それに、あのメスも良く手入れされた切れ味だった。街からそう離れては居ない筈だとは思うんだけどね。」


 しかし、それは逆に場所を絞り込めない。山や森なら人の居る事の出来る環境は限られるが、人が暮らす為の社会では制限は無い。

 今の姿と声を見聞き出来たのは大きいが、あの格好で話題にならない事を考えれば、有効な情報とも言い難いだろう。


「降り出し、ですね...」

「そうとも言えないとも。結局、過程や経過を全てすっ飛ばしたような結論になってしまい、好みでは無いが...良い協力者だったと思うよ。車は表に回してある、少し乱暴でも構わないね?」


 そう微笑んだ三成が見せるスマホの画面には、不器用な日本語で一つの住所と名前が書かれていた。




「こんなに近くに...」

「だからこそ、君を迎えに行く時間があったとも言う。もしかしたら、全て計算済みだったのかもしれないね。このゲームの運営者とやら、気になるな...」


 考え込み始めた三成だったが、走り始めた弥勒にその思考を中断する。彼女がどんな状態か分からない。懐の相棒(ベレッタ)を確かめながら追随する。


「登代...!」


 何かの美術館だったであろう、二階建ての建物。空になったショーウィンドウに積もる埃や土が、ここは人のいる場所では無いと告げている。

 しかし、傾きかけた日の中で目を凝らせば、床の埃が確かに擦られているのが分かる。誰かが来たのは確実なようだ。


「...人一人の痕跡だけ?」


 三成の呟きを後ろに、暗い館内を走る。

 これだけ暗くては、床など確認できない。窓は釘で止めてあり、壊すのも申し訳ない。片端から、部屋を見て回るのが手っ取り早いだろう。


(話したい事、やりたい事、いっぱいある...今度は、逃がさないから。)


 ここには精霊はいない。彼女の誰も満たさない我儘なんて、通してあげない。


(何があったのか、分からないけど。

 どうしてきたのか、知らないけど。

 それでも貴女が消えなくちゃいけない事なんて、無いって言える。今度は何を言っても、絶対に離れたりしない。)


 突然の遭遇では無い。今度は、こっちから迎えに行くのだ。覚悟を決める時間はある。

 どれほど拒絶されようと、どれほど重い事実があろうと、正面から受け止めきってやる。


(貴女は私の...大事な友達だから。)


 扉を開く音が何度も響く。

 埃を被った棚、外れ。

 割れたガラスケースと鳥の巣、外れ。

 倒れた銅剣とズレた兜、外れ。

 熊と狼の剥製、外れ。

 転がった火縄銃と火薬、外れ。

 大きな蛇の抜け殻、外れ。

 蓋の空いた金属の揺籃とコード...誰もいない。


「...でも、諦めないから。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ