エピローグThe♐
「先生!何処に居たんですか、もう!!」
「なんじゃ、騒々しいのぅ。」
どうやってバレたのか、居酒屋で鶏肉を貪りながら、九郎が疑問を抱いていると、青年は机に手を着いて怒鳴る。
「あったりまえですよ!!」
ワナワナと震える彼が、一度大きく深呼吸をした後にスマホの画面を突きつけてくる。近い、見えない。
「打ち合わせをすっぽかして音信不通、滞在されているホテルはチェックアウト済み、僕の家に勝手に入って荷物を置いてますし、冒険用のセットは持ち出されてますし、朝ごはん用のお味噌汁は無くなってますし!!」
「美味かったぞ?」
「そーいう話はしてねぇんだよなぁ!?というか、いつ鍵を持ち出したんですか!」
「型を取っただけじゃ、安心せい。もう壊れとるよ。」
「ア!ン!タ!が!!入れるだろうがァ!!」
店内の集中が集まるものの、怒鳴られている人物の顔を見ると、納得して食事に戻る人も多い。
お水を持ってきてくれた店員に礼を言い、一息に飲み干した青年が更に叫ぶ。
「百、いや千歩譲って僕の家の件は良いです、良くないですけど!」
「そりゃ、どっちつかずな...」
「諦めてんだよ、耄碌しやがれクソジジイ。それよりも、すっぽかすんなら連絡着くようにしてくれるかメモを置けって言いませんでしたっけ?」
「言われたのう、やるとも答えとらんが。」
「ガキか!!」
「仮面剥がれて来とるぞ〜。」
「剥がしてんだよなぁ!?アンタがぁ!」
叫んだ拍子に咳き込んだ青年の背を擦り、九郎が水を勧める。
「あ、ありがとうございます...」
「そういう、お人好しな態度は君の美徳じゃのう。長所とは言えんが。」
「はい?何言ってんですか?」
「何、気にせんでええ。それより疲れたろう、飯でも食わんか?奢るぞ。」
「それは...お言葉に甘えて。」
痛いくらいの空腹を訴える腹に、まぁ三十分くらいならと了承する。メールを打ち、食事を取る彼が、ウツラウツラと船を漕ぎ、やがて寝てしまった。
「うむ、ゆっくり休め。」
机の下へと隠していた睡眠薬を仕舞い、二人分の支払いを済ませた九郎が外に出る。
すっかり暗くなった空を見上げれば、秋の星が瞬く。冷たい風を頬に受けながら、天頂に瞬く「はくちょう座」から南へ天の川を辿る。
「ふ、見えんようなってしもうたわ。山が無ければ、今なら見えそうなもんじゃが...」
さすがに疲労がある。丸七日動いた精神は疲れきっているし、一日微動だにしなかった体は凝り固まっている。
「この程度でこうなるとは、歳か。そろそろ国外を回るのも限界かもしれん。」
あのワクワクも、ひりつくような高揚感も、燻っていたウズウズを焼き払うにはちょうど良かった。腰を落ち着ける場所を探すのも、良いかもしれない。
とはいえ、心残りも増えてしまったが。まだ終活には早いようだ。
「メモに残しておかんとなぁ。そのうち会うた時の為に。」
『華二宮 四穂 応援したい不安な娘っ子』
『双寺院 三成 興味深い若造であり同志』




