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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第二章 game start
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嵐の前の静けさ

 朝。日が差し込む部屋で、もぞもぞと動く人影。

 巳塚仁美は、布団を押し退けて目を擦る。


「...え。獅子堂さん?あれ?何で...?」


 隣で眠る男性に驚き、一瞬で意識が覚醒する。起こさないように布団から出て、部屋を見渡した。


「そっか、昨晩は...そのまま寝ちゃった...?」


 どうやら眠気が限界で、部屋まで戻らなかった様で。どうするべきなのか悩む仁美に、唐突に肩を叩く手が一つ。


「ひゃっ!」

『朝から何してんだ?』


 顕現した【積もる微力】は、そのまま部屋を見渡した。


『ちゃんと荒れてねぇな。お守りご苦労、チビッ子!』

『シュー...。』


 いつの間にか扉の辺りに浮いている、【辿りそして逆らう】が不満げに声を出す。


「何処か、行ってた、の?」

『ちと気になってな。まぁ、離れりゃ離れるだけ、しんどくなるからよ、結局ダメだったんだがな...。』

『ルゥ?』

『あの、病院以外に崩れた場所とかよ。調べに行くのも面倒だし、な。』

「ぅぐえっ!」


 精霊が座った布団から、呻き声と共に健吾が目を覚ます。苛立ちまぎれに【積もる微力】を突飛ばし、部屋をぐるりと見渡した。


「何でのった、レイズ...。」

『とっくに起きてると思ったんだよ。』

「起きてても布団に座んじゃねぇ!」

『煩ぇなあ...。』

「こんの野郎...!」


 鬣をかきながら他所を向く精霊に、健吾が拳を握る。しかし、すぐにそれを解いて、仁美に視線を移す。


「というか、何でいるんだ?オートロックだし、鍵かかってねぇっけ?」

「ぁ、えと...ずっと、いました...。」

「ん?うん...うん?...まぁいっか。飯にしよう。もう少し寝てたかったけど...。」


 もぞもぞと文句を言いながら起き上がり、布団を畳む。

 そういえば、昨晩は半ばふて寝の形で寝た為、着替えてもいない。まぁ、臭いもないし、無視をする。シワにはなるが、これはゲームだ。1日ならば不衛生を気にする程も無いだろう。アバターなのだから。

 何はともあれ、二人が母屋の方に出向けば、既に三成は起きて朝食を取っていた。トーストとサラダ、コーヒーとかなりヘルシーな印象だ。


「おはようっす。」

「獅子堂君か、おはよう。答えは出たかい?」


 椅子で寛ぐ彼に、健吾は頷いて椅子に座る。腹拵えの前でも、問題ない時間で終わるだろう。


「では、聞かせてくれないかな?どういう形に落ち着いたかを。」

「俺と仁美、少なくとも【混迷の爆音(アイギバーン)】を倒すまでは協力をする事にしました。」

「ふむ...。まぁ、それで互いが良いのなら、私は構わない。彼女の身辺調査や、話し合いが目的なのだからね。あまり綺麗な形とは言えないが...。」


 三成からすると不安な形ではあるようだが、支障は無いと判断したらしい。

 敵が二人減ったと考えれば、大きな利点だ。


「我々は期日まで調査をするかもしれないが、それでも構わないか?彼女が、この世界に残した痕跡とやらも、必要になるかもしれないからね。」

「俺は問題ないっす。目覚める時間は同じみてぇだし。」

「...そうか、助かる。」


 隣で仁美が頷くのも見届けて、三成は一口、コーヒーに手をつける。

 話は終わり、らしい。


「ここからは、別行動で構わない。彼女も場所を移した可能性もあり、横槍も警戒して対処できる準備もしたいからね。他の参加者を調べて貰っても構わない。」

「うす、それじゃあ。」

「あぁ、それと。私からの協力。()()()()()()()()()()()から、()()()()()()()()に変えておこう。早乙女君もそうするだろうからね。」

「...?分かりました。」


 朝食を取るために、二人はゲストハウスを後にする。弥勒には、彼から上手く言ってくれるだろう。




「さて、今日の目標はどうする?」

「ん...瓶の人?」

「探すって事か?そうだな、最近の事件とか調べたら、精霊の痕跡があるかも...。図書館だと昔のだよな、やっぱりネットか...?」


 ファミレスで財布を覗いてぼやく健吾。仁美がスパゲッティを食べながら、メモ用紙を取り出す。


「パソコンの所で、調べた事件...一日目のしか、乗ってないけど。」

「よくもまぁ、こんなの見つけてきたな...いや、凄ぇよ、マジで。」


 備え付けのメモを二、三枚ほど失敬してきたそれ。いくつかの事件が語られている。


「このパイプとか、壊れた納屋の神社って...」

「...。」

「だよな...。よし、次。」


 管理人の愚痴コメントだったようだ。スルーしておく。


「溶けた高架下ぁ?溶けたって...なんだそれ。」

「不可解だから、絡んでるかもと思って。」

「まぁ、場所が河川敷だもんな...。と、これは...あー...。」

「...?馬の、ニュース。夜中に、燃えているみたいな馬が、目撃されて、いるって。都市伝説、かな?」

「いや、多分見た。これも当たりだ。」

「廃病院の幽霊...」

「はい、次!」


 あまりにも心当たりのありすぎる内容に、それもスルー。先に知っていても、どのみち遭遇しただろうが。


「ビルの倒壊事故...一様、見るだけ見てみても、良いかもな。」

「道が濡れる...これは?」

「場所が無いからなぁ...難しい。関係ないのも混じってるだろうしな。」

「これぐらい...です。」

「十分だろ?むしろ、良くこれだけメモとったなぁ...。」


 地名は、携帯に移した地図で照らし合わせ、近場から探る事にする。一番ここから近いのは、廃病院...

 その上を健吾の指が素通りし、その次に近い河川敷を指差した。


「ここだな。」

「人もいないなら、昼でも大丈夫...?」

「人がいても問題無いだろ?大概、野次馬だろうしな。」


 さっさと支払いを済ませ、二人は外に出る。今は9時前、ちょうど通勤ラッシュも落ち着いている。

 バスを利用し、大きな川の前まで来る。少し歩き、下に降りる道を探せば、それは見つかった。


「向こうのデカイ橋の下だろ?」

「だと、思います...。」

「しかし、ここだと本当に人目につかないな...。立ってても道が頭上にある。」


 夜中など、暗い時ならば身を潜めるには良いかもしれない。逃げ道が無いのが欠点だが。

 上から降るタイヤの音を聞き流しながら、二人は先に進む。川の流れをぼんやりと眺めながら歩いていたが、不意に健吾が何かにつまづいた。


「っとと...。なんだ?」

「これ...コンクリート...?」

「なんだ、こりゃ...波、かぁ?」


 それは、波紋の様に広がった揺れだった。軽く叩いても、しっかりと固まっている。

 挙げ句、金属の飛沫まで飛んでいる。上の橋が、一部かけているのを見て、仁美が眉を潜めた。


「生き物が、通ったみたい...。」

「えっ?...言われてみりゃ、そうか。壁から跳んだら、あの辺りに...いや、結構離れてるぞ?」

「それだけの、力と大きさがあるのかも。」

「...魚みてぇに、泳いだってのか。コンクリートを。」


 熱か、それ以外の方法か。とにかく、壊した感じには到底見えない。


「精霊、だろうな。」

「...焦げ跡。」

「あっ?...本当だ、こりゃ石か?」


 散らばるように撒かれた石を中心に、コンクリートが焦げている。いや、煤が付着したのだろうか?


「...衝突したのかな。」

「そう、みたい。熱で溶けたなら、こんな波紋みたいには、ならない筈、だから。」

「だよなぁ。ワケわかんない力に、火までとか勘弁だし。」


 決着はついたのか。いや、この事故を調べた後に天球儀に行っている。あの時はマークは全てあった。

 つまり、決着しなかったのだろう。初日ならば、精霊の特徴も把握してはいない筈だ。


「でも、火を使う奴がいるのは確かだな。」

「それと、地上で泳ぐ精霊も...。」

「それは、マジで対処しようがねぇぞ...。」


 ただ、知らないよりは遥かにマシだろう。少し辺りを捜索し、変わったものでも無いかと探る。

 特に見当たらず、写真だけ撮って戻る。長い道を歩き、上の道路に戻れば時刻は昼過ぎだ。


「一度、戻るか?どっかでテキトーに」


 健吾がそこまで言った時点で、携帯が音を立てる。慌てて取り出せば、非通知からの着信。少し迷ったものの、健吾はすぐに通話状態にする。


「はい?」

『出てくれて助かった、獅子堂君。』

「双寺院さん!?」

『三成で構わない。いや、それよりも急用だ。そちらに仁美君もいるね?』

「はい、いますけど...。」

『すぐに戻ってくれないか?早乙女君が拐われた。』


 あまりにも急な話に、暫し呆然とする。協力関係だって、今朝だと言うのに。


『少々、手こずりそうでね。君の精霊のパワーが欲しい。』

「...分かりました。場所は?」

『どこに居る?』

「町の北、一番大きな高架下っす。」

『車を回す。近くの公園があるから、そこで待機してくれ。』

「うす。」


 頭の中で地図を広げながら、健吾は通話を切る。充電も有限だからだ。


「仁美、聞こえてたか?移動だ。」

「聞こえてた、けど...罠?」

「だとしたら、突っ切る。あの龍を見たろ?協力出来るならそっちが良いさ。」

「分かった、信じる。」

「...やっぱり狙ってねぇか?」


 ぼやきながら公園を目指し、健吾は道を選ぶ。早めに公園に着いた健吾達は、少しばかりの休憩を挟む。

 周囲の人影を確認し、トイレの裏で健吾は呟く。


「レイズ、居るか?」

『...あぁ、来たぜ。』


 狭くるしそうに身を屈めながら、【積もる微力】が返事をする。


「この前のパイプの件、そこそこ上手くいっただろ?今回も作っときたい。何があるか、分からないからな。」

『壊さない様に殴るの、面倒なんだがなぁ。今度はなんだ?』

「石ころ。遠距離攻撃に。」

『めり込み続ける投石かよ、えげつねぇ。』


 獰猛な笑いを浮かべて、【積もる微力】が石を拾う。ゴツゴツと、強いノックを繰り返す精霊。地味な絵面の精霊を置いて、健吾は仁美に振り替える。


「多分、あと十分くらいで来ると思う。」

「ん、分かった。」


 彼女の【辿りそして逆らう】は、まだ能力の活用方法を見いだしてない。準備も無く、二人は疲労の回復に努めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 健吾と仁美がしっかり協力関係になれたみたいで良かった! それにしても、仁美の境遇が気になります(;´・ω・) 願いが「外に出ること」っていうのが……なんだか、切ない……
[一言] 仁美の願いが分かりましたね…!そっかぁ、サンドウィッチ食べた時の反応のフラグ回収、納得です。はじめて食べたのかな…。微笑ましかったです。 泳いだ跡と燃えた跡ということは…、浮沈の銀鱗vs意…
2022/05/11 16:01 数屋 友則
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