星空の街
弾け飛んだ噴煙の中から、闘気を帯びた砲身が姿を表す。前身する戦車だが、幾ら唸りを上げようとも加速しない。撃ち抜かれて漆黒の空を移す穴も、やがて広がり天板が崩れ落ちる。
遂には止まった戦車の前面は、揺らぐ闘気で装甲が見えない程。息を切らせた【積もる微力】の後ろで、健吾が仁美を抱え上げた。
「よく間に合ったな、レイズ。このまま、これの中の奴ら追い出せるか?」
『それは楽勝だがよ、させてはくれねぇみてぇだな!』
飛びかかってきた【浮沈の銀鱗】を殴り飛ばしながら、戦車から撃たれる機銃の盾にする。そのまま戦車の上部を液化させながら、入口へと飛んでいく銀の精霊。
乗っ取ろうとしていたのか、瓶を片手にハッチに手をかけていた【宝物の瓶】に激突し、外へと落ちていく。二柱が離れ、無防備になった真樋へ振り返る精霊へ、【混迷の爆音】が立ち塞がった。
『またかよ、おい。』
『言ったでしょう?彼の持ち物が必要だと。』
『そーかよ。だが煩くねぇテメェなんざ、片手でもどーとでもなんだよ!』
高いマズルに向け、豪快なアッパーカット。回転蹴りでそれを逸らし、その勢いのまま沈めた体幹を用いてハイキック。
傾けた首のすぐそこで鬣を揺らした蹴り足を握り、ただ腕力だけで振り上げ、投げ落とす。頭は持ち上げたものの、肩を強打した【混迷の爆音】はすぐには動けない。
打ち付けなかった後頭部も、すぐに振り下ろされた足によって地面に挨拶する。踏みつけられた角が嫌な音を立てた。
『片腕ではなかったのですか?』
『この状態でよくそんな事ほざけるな、テメェはよ。』
苛立ちのまま、踏み足を上げてもう一度振り下ろす。へし折れた角が飛び、それを手にした【積もる微力】が振り下ろす。
『あまり無視をするなよ、童が!』
『んな頃だろうと思ったぜ!』
地中から躍り出た【浮沈の銀鱗】に、迎撃するように角がめり込む。硬い甲殻に傷を残し、カン高い音を奏でて液化した地面へ埋まる。
『んだよ、硬ぇな。』
力を入れて固まった床から手を抜くと、無駄だと断じた角は放り捨てる。半分程床に呑み込まれ、四苦八苦している【混迷の爆音】の頭を跳ね、それは真樋の手に渡った。
「精霊は難しいけど、君ならこれで殺せるんじゃないかな?」
「流石にお前に殺される様な鍛え方してねぇんだよ。ちょっと待ってろ、仁美をどっかに置かねぇとあぶ」
「待つと思う?」
「だろうな、クソが!」
抱えた仁美を庇いつつ、接近した真樋の腕を蹴りあげる。そのまま降ろす足で肩を撃ち抜き、衝撃で取り落とした角を蹴飛ばした。
「だぁ、くそ!蹴り技は苦手なんだよ!」
「十分痛いんだけど...!」
「加減も苦手なんだよ!こっちも痛てぇわ!」
「痛みの原因、取り除いてあげるよ。【浮沈の銀鱗】!」
精霊を嗾け、自身は飛び退く真樋。瞬間、地面が揺らぎ健吾を呑み込まんとする。当然、足場も無いのに脱出する事は不可能。
大口を開けた銀の精霊の牙が、易く脚を噛み千切った...空を。
「助けて...【辿りそして逆らう】!」
小竜の精霊が尾で打った途端、浮力が逆巻き沈んでいく【浮沈の銀鱗】。固まった地面に立ち、蓋を閉じた瓶を抱え、仁美が走る。
「もしかして、二日目の...まだ持ってたの?」
目覚めたばかりの少女の足は遅い。呼吸を乱さないペースで追う真樋の余裕に、焦りが募っていく。少しでも離れなければと、本能が足を動かす。
しかし、その足が沈む。深くまで行ったはずの【浮沈の銀鱗】が、もう浮かんできた。二度は同じ手は通用しないだろう。
すぐに別の手を考えなければ。サッと巡らせた視界に、揺らめく炎が映る。こっちに向かっている。
「届いて...!」
投げた瓶、そしてその軌跡を辿る仁美の身体。そのままであれば、瓶は割れ、着地点で襲われるだけ。しかし、その先には猛獣がいる。
『よ、っと...ナイスだちっこいの。』
切りかかる【宝物の瓶】を蹴り飛ばしながら、片腕で仁美と瓶を鷲掴む。猫のようにぶら下げられた仁美が、懸命に伸ばした手で蓋を開けた。
「っば...痛てぇ!?」
あの一瞬でも、【浮沈の銀鱗】から逃れようとしていたのか。空中で何かを蹴るように動いた健吾は、体勢を崩して尻から落ちる。
襟足を掴まれている仁美が、下ろせとばかりにパタパタと振る脚が、健吾の髪を揺らした。
『おいガキ、蹴るなよ。』
「なら下ろして。」
更に持ち上げられた仁美が、視線の合った【積もる微力】を睨むが、その願いは叶わない。【浮沈の銀鱗】が地表スレスレで横旋回、はね飛ばした液体が固まり、水滴状の弾丸として迫っている。
空へ放り投げられた仁美が悲鳴をあげるより早く、健吾の前に立ち全てを弾き落とす。転がったそれを乱雑に拾い、狙いも定めずに投げつける。
散弾のように飛来するそれを、真樋は防げない。二柱の精霊も間に合わない。仕方がないと、【混迷の爆音】が彼を抱え去る。
『そろそろ渡して頂いても良い働きをしたのでは?』
「臨機応変はいい事だけど、契約遵守は基本じゃない?」
『左様ですか。であれば、私に無理をさせるのでは無く、貴方の精霊に身を守らせて下さい。』
「攻めきるには手が足りない。君が引き付け切らなかったのも一端にはあるよ。」
『よく回る口ですね。』
「否定しきれないからそう思うんだよ。見当違いな事なら、呆れ以外に出てこないさ。」
契約者を第一に置く【混迷の爆音】の性格を、信頼しきっている。胸元の瓶は脆く、奪い合いには向かない事も。
良いように使われている事実に歯噛みしつつ、真樋の予想通り、彼は慎重に距離を取り、真樋を下ろす。感情を抑え、最善を尽くす。
「大分、空が見えるようになっちゃったね...北極星を真上に見る星空も、嫌いじゃなかったんだけど。」
明かりの消えた夜景のように、黒塗りとなった空。落ちた天球儀の天板が増えるにつれ、その面積は広がっている。
「でも妙だね?街にざわめきが無い。流石にそこまではAIを管理しきれて無いのか、それとも...」
「グダグダ呟いてる場合か?捕まえた、ぜ!」
袖口を掴んだ健吾が、足を払いながら引き寄せる。精霊から引き離されるように投げられた先には、【積もる微力】。
投げられた真樋と、此方を睨む健吾。どちらが精霊に対処出来る時間があるかなど、考えるまでもない。健吾を攻撃していれば、真樋はやられる。すなわち、彼の持つ瓶の安否も不明。
まだ契約者は残っている、【積もる微力】が再契約すれば...待つのは破滅。【混迷の爆音】に選択肢など無かった。
『させません...!』
『いーや、間に合わねぇな。』
「僕が何もしないならね?」
己に瓶の小口に押し当てた真樋の姿が、忽然と消え失せる。空ぶった腕は宙を掴み、数瞬遅れて【混迷の爆音】の蹴りが入る。
肩まで痺れるような衝撃、その硬直の間に【宝物の瓶】が真樋の瓶を回収し、蓋を開けた。解放され、瓶を預かる真樋に、健吾が掴みかかる。
「流石に何度も掴まれない、よっ!」
上着の裾を翻し、視界を妨害した真樋。首筋に感じる危機感のままに前転する健吾の頭上を、上着ごと裂いていく小太刀が通過した。
立ち上がる拍子に真樋が蹴り飛ばし、前のめった健吾へ小太刀が閃く。ペレースを貫いて健吾の肩を刺した刃から、血が伝い落ちた。
「流石に精霊の数が違うよ。そっちの子は役に立ちそうもないし?」
「ついさっきまで気ぃ失ってたやつに、助け求めるほど困っちゃねぇよ...!」
背中から入った小太刀を掴み、抜けないように握りしめる。片手では抜けなかったようで両手で小太刀を握り直す【宝物の瓶】、その顔を隠す白布へ燃える拳が叩き込まれた。
吹き飛ぶまでの瞬間に、更に数発。闘気が積もった頭部が地面へと打ち込まれる。
『強がる割にゃあ痛そうだな、レオ。』
「あのな、俺も人間。痛覚ぐらいあるっつの。」
『俺に着いてくる見上げた奴だからな、忘れてたぜ。』
「あん?...お前、そんな事言う奴だったか?」
『忘れてろボケが!』
精霊にどつかれ、転げた健吾の足下が波打った。そこへ拳を振り込み、掴んだ金属質な鱗を引っ張りあげる。
『ぬぅ!離せデカブツ!』
「うるせぇ、なら潜んでんじゃねぇよ。」
沈む前に地面から持ち上げてしまえば、液状化は止まる。少し遅れ、埋まった足を引っこ抜きながら、【浮沈の銀鱗】を投げつける。その先は...登代だ。
「あら?」
『お嬢!』
殴り倒されていた【混迷の爆音】が、必死の跳躍で前へ出る。逸らす為に蹴り込んだ先は...天球儀の投影機だった。
「あぁ?」「不味いかしら?」「余計な事を...」
『Jesus...』『やりやがったアノヤロー。』『しくじりました...』『おのれぇ!』
溶ける事無く銀鱗のぶつかった投影機が、バキンと音を立てて曲がる。瞬間、恐ろしく眩しい光が溢れ、天井の壊れた天球儀を染め上げた。
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