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精霊舞闘会~幾星霜の願い~  作者: 古口 宗
第九章 SEIze,REcord,Ideal 《理想を掴む為の記録》
118/144

星空の開戦

 現在時刻、22時。

 残り時間、9時間。

 残り参加者、4名。


 reading

 Code.capricorn


 唸りを上げて丘を走る装甲車が、投石によってへし折れた柵を乗り越える。鮫に乗って潜った真樋を視認しながら、【積もる微力】が怒鳴っているが、それよりも重要なことがある。

 天球儀の天板が壊れており、その後は溶けたものでは無さそうだ。そう、それは...


「あの戦車、近くに来てるみたいね。」

「はぁ!?なんだって場所がバレて...」

『天球儀に出入りするのを見られたのか、もしくは...プレイヤーに内通者が居たのか。とにかく、ここが重要な拠点だとバレていますね。』

「重要なったって、もう時間もねぇし、無くなったって...」


 怪訝な健吾に、不思議そうに登代は上を振り向く。


「あら、気づいて無かったのかしら?この空、ありえないのよ。」

「あぁ?どういうことだよ。」

「四季の星が全てあるの。星座盤ってあるでしょう?あの星の配置よ。つまり、そこのプラネタリウムと一緒。このゲームの世界と、何か関わってても不思議じゃ無いわ。」

「...マジっぽいな。」


 見上げた空、その一角で真っ暗になった空を睨み、健吾は答える。もし、天球儀が崩壊したなら、この星空は消えてなくなるのだろう。

 この精霊達は星座に関係していると聞く。ならば...このゲームにとって、いい知らせとはならない筈だ。


『おいレオ、そんな事よりもアレが撃ってきそうだぞ。』

「あん?どこだよ。」

『そこの林の右の方だ。あそこだ...よ!』


 弾倉を一掴み引きちぎると、戦士の精霊が勢いよく投げつける。

 柵の時より甲高い音がし、弾かれたそれの薬莢が空中で爆ぜた。その光に、自然物と異なる反射が混ざる。見つけた。


「壊せるか、あれ。」

『少し骨が折れんなぁ、なんせお前が撃たれちまう。そこの細いヤローは使いもんにならねぇしよ。』

『元々破壊工作は苦手ですからね。私の能力は混迷ですよ?』

『どの口でほざきやがる...!』


 ビル群を崩壊させながら戦った二柱のじゃれ合いを他所に、登代は不慣れなハンドル操作で天球儀の入口へと装甲車を横付ける。かなり隙間が空いたが、それはそれ。片腕の健吾より遥かにマシだろう。

 天球儀に入り込もうと、車体から降りた健吾が周囲を見渡し、ふと目を止める。


「ん...?仁美!?なんでこんなとこで倒れてんだよ!」

『シュルルル...』

『気づいて無かったのかよ...』

「見えてたんなら言えや!俺、降りねぇと下見えねぇんだからよ!つーかこんな暗いんだぞ!?仁美の精霊も黒だしよ!」

『おいバカ余所見すんな!』


 騒ぐ健吾の元へ、爆音と共に砲弾が飛来する。地面へと殴り落としたそれを拾い上げ、匹敵する程の速度で投げ返す精霊。

 金属のひしゃげる音と、叫び声を聞きながら、【積もる微力】は契約者に向き直った。


『んで?どーすんだ?女はもう中に行っちまったけどよ。』

「いや、放置出来るわけねぇだろ...!もう傷とかは治ってんだよな?」

『キュ〜!』

「なら担がせてもらうぞ、お前の契約者。」


 猫でも持ち上げるように仁美を肩へ載せると、健吾もすぐに天球儀へと走る。こんなだだっ広いところだ、囲まれでもして集中砲火されれば溜まったものでは無い。

 建物の中なら、射線は通らない。小さい弾丸でも無いなら、【積もる微力】が落としきれる数しか飛んでこないだろう。


『おい、あれはどーすんだ?ここ壊されると不味いだろ。』

「まー何とかなんだろ?ここが壊されようが壊されまいが、俺が負けちまったら意味ねぇし。」


 足回りが弾けた戦車を示す精霊に、健吾は投げやりに返す。実際、今の健吾達に出来ることは無いだろう。戦車の一撃ともなれば、防ぎ続けながら戦うのは難しい。主砲くらいは壊してから挑みたいものだ。


「つーか、そもそもあれと争う必要ねぇし!早く入ろうぜ。」

『わぁったよ。』


 最後に装甲車の扉だけ投げて霊体化した【積もる微力】。丘の麓に落ちたそれが、果たして損害になっただろうか?

 とりあえず、撃ってこないうちに入らねばならない。笛は無いとはいえ、【混迷の爆音】の脚力は脅威だ。警戒しながら扉を押し開ける。


「もっと不用心かと思ったのに。」

「嫌な予感だけはしたんでな。」


 首の寸前で止められた小太刀に、健吾は顔を顰めて突き進む。【積もる微力】が掴む腕に力を込めたのを見るや否や、武器は諦めて【宝物の瓶】も飛び退く。


『要らねぇよボケ。』


 投げつけられた小太刀が真樋へ向かい、地中から出てきた精霊に弾かれる。


「【浮沈の銀鱗(シルバーアルレシャ)】、だっけか?つぅ事はあの煩いチビッ子もここかよ。」

「残念ながら、僕一人だよ。中央の射影機を見たら分かるだろ?」

「なんでお前とその精霊が...?まぁ良いか、勝てりゃ良いし。」


 仁美をその場に降ろし、一周見渡す。登代は奥で座っており、手出しする気は無いようだ。そもそも、どっちを敵と判断しているかも怪しい。

 中央の射影機には三つの紋様が光る。♌、♑、そして♒だ。この場に、全員が集まった事になる。空の星座は一部が壊れている以上、見る必要はないと判断する。それよりも、目の前の二柱だ。

 背面以外を埋め襲撃に備える【浮沈の銀鱗】と、小太刀を拾い逆手に構える【宝物の瓶】。


「この場所でお前とやるのも、二回目だな。」

「あの時と違うのは、君の片腕が無い事と僕に味方が居ることかな?」

「ちょうどいいハンデだろ?なぁレイズ。」

『良く分かってんじゃねぇかよ、えぇ?レオ!』


 闘気を滾らせる精霊からは、開戦の意思しか感じられない。先手を仕掛けたのは【宝物の瓶】、一気に駆け上がって肉薄し、小太刀を振り下ろす。半身で回避した【積もる微力】が、唸りを上げて拳を振り上げる。

 当然、回避しようとする【宝物の瓶】だが、健吾に襟を取られ引き寄せられる。


『ぶっ飛べや。』


 白い布に拳がめり込み、首が、肩が続き、その身が高く飛ぶ。落ちる精霊に脚を振り上げる【積もる微力】だが、その足元が溶ける。

 それを見逃さない狩衣の精霊と、下から襲う銀の牙。そこで離れず、むしろ前に出た健吾が【浮沈の銀鱗】の鼻を踏みつける。


「レイズ!上対処!」


 そのまま走り抜け、下顎を蹴り飛ばす。無理に閉じられた口は、危険な牙は無い。遠慮なく足場にし、体勢を立て直して小太刀を弾き、狩衣を掴んで下へと投げ飛ばす。

 健吾を抱えて跳ぶ戦士は、そのまま真樋の元へ。着地と同時に駆け出す一人と一柱に、沈んだ【宝物の瓶】と蹴り抜かれた【浮沈の銀鱗】は間に合わない。


「このままぶっ潰す!」

『ここで終わらせてやらぁ!ダァララララァァ!』


 振り上げた拳が真樋を撃ち抜くその瞬間、取り出した瓶を揺する仕草に一瞬躊躇する。その瞬間に、鬣が揺れる程の衝撃。

 蹴られた、と直感した瞬間に脚を掴んで投げ飛ばす。壁を蹴って反転し、再び襲いかかる【混迷の爆音】を蹴り止め、闘気を爆ぜさせて吹き飛ばす。


『なんでテメェが邪魔しやがる!』

『彼の所有物に、割れれば困るものがありまして。』


 着地した【混迷の爆音】が、真樋の持つ揺れる瓶へと手を伸ばす。それを懐にしまい、真樋は【浮沈の銀鱗】の元へと歩く。


「どの瓶かは教えないし、あげるつもりも無いよ。言っただろ?最後の一人になれば、って。」

「まったく、嫌味な人。無理なのは分からない?」

「武器が無い事を言ってるなら、それは僕のせいじゃ無いし。」


 肩を竦める真樋へ、健吾が距離を詰める。よく分からないが、二人は協力関係では無い、という判断。それならば武器を失った一柱より、無事な二柱を潰す事を優先すべきだ。

 前に出た【宝物の瓶】と、後ろに倒れ込む真樋。拳の乱撃は届かない。抜き放った小太刀と鞘を盾にするも、数発も受ければ腕が上がらなくなる。


『Jesus、前にも増してパワーが...!』

『吹っ切れて昂ってるモンでなぁ!』


 積もった闘気が炸裂し、強い衝撃が武器を吹き飛ばす。持っていかれた腕は高く上がり、姿勢も引き伸ばされる。防御も回避も一手遅れる。

 無論、それで攻撃の手を緩める【積もる微力】では無い。数発の拳の後に蹴り込み、吹き飛んだ白布の精霊の闘気を破裂させる。

 空中でもう一度蹴られたかのように加速した【宝物の瓶】は、拳によって積もった闘気で壁に押し止められる。何時までかは知らないが、戦線離脱した精霊は意識から締め出し、残りに集中する。


「怖いな、そんなに睨まれたら。」

「せめてよぉ、顔色くらい変えて言ったらどうだ?」

「心音なら煩いけど、聞いてみる?」

「その注射器を捨てるんならなぁ!」


 取り出したそれを弄ぶ真樋に、健吾が単身で突っ込む。片腕とはいえ、細身の学生相手に遅れを取るような鍛え方はしていない。

 針を向け、突き出す真樋の腕を掴む。細く、骨ばった腕。咄嗟の判断で動作を変え、捻る動きから引き寄せる動きへと移す。

 対応が遅れた真樋の脚を後ろで蹴りあげ、そのままぶん回す。頭上を一回転、放り投げられた真樋が肩から落ちて呻く。遅れて落ちた注射器が割れる音が響いた。


「レイズ!」

『悪ぃな、今は手が離せねぇよ!』


 戦士を沈めようと、回遊しては距離を詰める銀の精霊に、拳と蹴りを入れては離れ、地に足つける状態を保つ。

 完全に潜られては、ほとんど勘で打撃を与えている状況になる。移動に気を向ければ、間に合わなくなる可能性があるだろう。

 その時は引っ捕まえて締め上げるという手段もあるが、その間は自分が動けない。健吾を【混迷の爆音】の前に晒すことになるのは頂けない。


「あぁ、くそ!二体もいるなんざ反則だろ!」

「真っ先に協力なんて真似を始めた、君には言われたくはないけどね。」


 懐から取り出した瓶を開け、その口を健吾へと振りかざす。万が一にも瓶口に触れたら終わりだ。片腕で捌き切る度胸はなく、距離を取るしかない。


「そんなに逃げるなら、こっちから先に始末をつけようか。」

「あ!?てめぇ待ちやがれ!」


 仁美に向けて駆け出した真樋を、慌てて追いかける。振り向いた彼の腕を取り、握り潰す程に締め上げる。苦悶の表情を浮かべた。

 別の手に瓶を持ち替えた真樋へ、蹴りを放って真ん中の投影機へと転げ落とす。すぐに起き上がる真樋が次の手を考えようとした瞬間、健吾の背後で壁が破裂した。


「ゲホ!エッホ...んだよクソ!」


 振り向いた健吾の目の前へ、ガコンと砲身が降りる。


「...あ?」


 砂埃が収まる間もなく、再び爆音が天球儀を満たした。

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